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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第四話 賞金稼ぎのお仕事
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新米アシスタント=レオニダス 4-5

「VBさん!?」


 僕は思わずその名を呼びましたが、すぐに息を飲みました。

 それは、人前で賞金稼ぎ(グリプス)のコードネームを呼んでしまったという失敗に気付いたからではなく、僕を見下ろすVBさんの視線が、鋭く研ぎ澄まされたアイスピックのような、生まれて初めて見るような異次元のものだったからです。


「どうして?」

「悪いがお前さんの行動は全て監視させてもらってた」


 説明はその一言で十分でした。

 VBさんはずっと見ていたんですね。僕が屋上から近江おうみレンを見付け出し、尾行して、ここに来て、そして怒りに燃えたことまで。

 なら、なら、全て分かっているはずです。


「こいつです! こいつが、レンちゃんに万引きさせていたんです! こいつが黒幕です! レンちゃんは悪くない! 悪いのは、こいつです!!」


 僕はヨー君を何度も指差しながらVBさんに訴えました。


「話しも聴いていた。どうやらそうみてぇだな」


 僕の訴えに賛同してくれているVBさん。ですが、その言葉とは裏腹に、VBさんの腕から力が抜かれることはありません。


「だが、そいつは関係ねー。俺が今やるべきは、そっちの嬢ちゃんを捕まえることだけだ」


 続けられたその言葉に、僕は顔面を思いきり殴られた気分になりました。


「なんでですか!?」


 僕は叫びました。

 喉が裂けるかと思うくらい。

 周囲のオフィスビルに、僕の怒声は木霊していました。


「いいか? よく聞け。グリプスがとっ捕まえられんのは賞金首だけだ。そして賞金が懸けられてんのは嬢ちゃんの方だけ。これ以上の説明なんかねー」


 ふっざけんな!

 お役所仕事みたいなことを!!


「さっきも自分で言ってたじゃないですか! こいつが黒幕だって、認めてたじゃないですか!! 悪いのはこいつなんですよ!!」

「ああ、そうかもな。だが賞金が懸かってねー」

「それが何だって言うんですか!?」


 その僕の一言に、VBさんの腕に更に力が入るのが分かります。


「賞金も懸かってねー奴を捕まえるのは違法行為。そんなことすりゃこっちが賞金首だ」

「だけど! だけど!」

「お前さんの言いたいことは分かる。実はな、俺らグリプスにゃ、目の前で犯罪行為が行われた際、そいつを警察機構に報告して賞金を懸ける依頼をすることが義務付けられてる。即時対応されれば、俺らはその場でその対象を首として拿捕可能になるって寸法だ」


 その言葉は、僕に希望を与えたのです。


「じゃ、じゃあ!?」

「ただし。それが犯罪行為であると立証できれば。の話しだ」

「は!?」


 僕は訝しみます。


「立証って、どう見てもこいつがレンちゃんをそそのかしてる!」


 ですが、VBさんの双眸はギラリと細まるばかりです。


「本当か? お前さん、実際にその坊主が嬢ちゃんに指示を出した場面を見たのか?」


 VBさんが二人へと振り返ります。

 ベンチに腰掛けたままの二人は、怯えたように固まって、こちらをじっと見つめているだけでした。


「そんなの!」


 VBさんの腕に更に力が込められます。


「本当か? 本当に見たのか?」

「そ、それは……」

「そうだろうが? お前さんは見ちゃいねーな?」


 凄まじい迫力と威圧感です。

 ですが、それが逆に僕の感情を逆撫でしたんです。


「そうかもしれませんけど! じゃあ、そいつに訊いたらいいんですよ! そいつがやらせてるって!」


 僕の主張を受け、VBさんはゆっくりとした口調でヨー君に問いかけました。


「そこの坊主。てめー、その嬢ちゃんに盗ってこいと指示したか?」


 ヨー君は、勢いよく首を振ります。


「俺は何も言ってない! 物が欲しいなんて一言も言ってない! 確かにレンから色々貰ったけど、それが万引きした物だなんて知らなかった! 俺は何も知らない!」


 その言葉に僕の理性は一気に吹き飛んでしまいました。


「嘘つくな!! ふざけんな、この野郎!!」


 もう一度飛びかかろうとしますが、VBさんの屈強な腕はビクともせず、僕はその場で手足をバタつかせることしかできません。


「お前さん、今のが嘘だと証明できんのか?」

「できますよ! 吐かせてやりますよ!」


 いきり立つ僕に、VBさんは首を振って見せます。


「どうやって吐かすんだ? あん? 暴力でも振るうか? 拷問でもすんのか? それこそお前さんは犯罪者の仲間入りだ」


 犯罪者!?

 まるで氷水を頭からぶっかけられたみたいに、僕の血の気は瞬間的に引いていきました。


「そういうことだ。こいつはな、そういうやり方をしてんだ。例えこの先、ずっとこいつに張り付いて監視し続けたとしてもだ、こいつは絶対に尻尾は出さねー。こいつは強要もしねーし幇助もしねー。ただ、嬢ちゃんが勝手に持ってきた物を頂くだけ。全てはそっちの嬢ちゃんの自由意思でしかねーんだ」


 VBさんの言葉が冷徹に、まるで彫刻のノミを打ち付けるように、僕の心臓を削り取っていきます。


「そんな、そんなことって……」


 僕の全身からは、がっくりと力が抜け落ちてしまいました。

 ですが、それでも、僕はまだ、希望を捨てたくはありませんでした。

 

「じゃあ、じゃあ、じゃあ! レンちゃん! 君はそんなことしてたらダメだよ! 君はそいつに騙されてるんだ! これ以上そんな奴のために罪を犯しちゃダメなんだよ!」


 それがレンちゃんの自由意思だって言うのなら、止めさせれば良いだけなんです。

 それが、レンちゃんにとって一番なのですから!


「うるさい! ヨー君の悪口言うな!!」


 僕は自分の耳を、目を疑いました。

 レンちゃんはベンチから立ち上がると、ヨー君の前に仁王立ちして、両腕を広げて、僕達からヨー君を守るようにして、立ちはだかったのですから。


 僕は、気が遠のいていくような錯覚に襲われました。


「現実を見ろ。こいつらにとっちゃ、今が全てなんだ。じゃなきゃ、下らねー犯罪になんか手を染めやしねー。お前がもし、本気でこいつのことを想うんなら、今すぐにこの場で賞金首として挙げろ。それしか手はねーぞ」

「でも、万引きは、現行犯逮捕が基本なんじゃ……?」

「当然だが、お前さんがそいつに目を付けた時点で、そいつのことも調べさせてもらった。近江レン、十四歳。今のお前にゃ出身は教えらんねーが、そいつは家出人だ。ここ一年、国貞(くにさだ)でホームレス生活を続けてる。そんな奴が、ただの万引きだけで済ませてると思うか? 倉庫に不法侵入して盗みを働いたり、他人の金をくすねたり、そいつは既に立派な窃盗犯だ。すぐにでも取り押さえて然るべき罪状は揃ってる」

「家出……。じゃ、じゃあ、今からでも家に帰って、もう二度と罪を犯さなければ……」


 僕が言いかけたと同時。僕の声を遮るように、悲鳴を上げたのは、レンちゃんでした。

 

「やだぁー! やだやだやだやだやだ!! あんなとこ、もう戻りたくない!!!」


 頭を抱え、しゃがみ込み、ガタガタと震えているのが暗がりでも分かるくらいです。


「……こいつは今捕まれば、裁判の上で矯正施設には送られるが、刑期を終えれば家庭環境を考慮されて養護施設の預かりになるだろう。いいか? よく考えろ。今お前ができること、やれることは何だ? 何が一番こいつのため、自分のため、世間のためになる? よく考えろ」

「…………」


 僕には、答えが出せません。


「ちなみに、その坊主は同じ手口で他にも数人の女に貢がせてる。中には()()や薬に手を出してる奴だっているみてーだな。近江レンはまだマシな部類だ。こいつらを引き剥がしてーなら、今しかねーんだぞ」


 でも、でも、でも……


「レンちゃんは、悪くない……レンちゃんは……悪くない……です……」


 僕には、答えが出せなかったのです。

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