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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第四話 賞金稼ぎのお仕事
25/91

新米アシスタント=レオニダス 4-3

「いたっ!」


 VBさんからお借りしたノート型インディの画面と何度も何度も見比べながら、僕は歓喜の声を上げました。


 今僕がいるのは、先程の貸会議室がある十階建てのビルの屋上。

 辛うじて雨粒を落としてはいませんが、重く立ち込めた暗雲の下、僕はこの場所から延々と国貞くにさだの街を監視していたのです。

 VBさんが僕を置いて部屋を出たのが大体午後の十四時。とりあえず目を皿のようにして街行く人々の顔を一人ずつ確認し続け、遂に手配書に該当する人物を見付けたのが、それから三時間後のことでした。


 距離感はおよそ五百メートルくらいでしょうか。

 雑踏の中、セントラル通りと呼ばれるパリピ勢が集まる陽気な商店街を、その人物は歩いています。


「間違いない! はず。だと思う。んだけどなぁ」


 液晶モニターに映し出されるその手配書と、歩くその人物と、何度も見比べます。


 手配書に記載された名前は、近江おうみレン。

 中性的な名前と容姿を持ったその人物に懸けられた賞金額は八万モン。

 その肩書きは【万引き常習犯】です。

 恐らくは国貞くにさだ周辺の商店会か何かが、あまりにも被害が多いので懸賞金を懸けたんでしょう。万引きって、現行犯じゃなきゃ拿捕できませんものね。防犯カメラなどには映ってるから面割れしてるんでしょうが、よっぽど上手に盗むんで捕まえられないのでしょう。


 一応、僕の目には手配書の人物とセントラル通りを歩く人物が同一だと見えたのですが、少しだけ判断を躊躇いました。

 それは、容姿の印象が手配書と実物ではだいぶ異なっていたからなのです。

 手配書では綺麗な亜麻色のマッシュルームカットで、やや幼いながらも、男子でも女子でもどっちだとしても非常に可愛らしいと言える、とても整った顔立ちをした人物として写ってます。

 ですが、セントラル通りを歩く実物は、亜麻色の髪はくすんで伸び放題。頬もかなり痩せた印象、と言うか、全体的にやつれたような、お世辞にも健康体とは言えない状態だったのです。


 本来ならここでVBさんに連絡すべきなのでしょう。元々そういう約束でしたので。

 でも僕は、その近江レンという人物の変容具合がどうしても気になって仕方がなかったのです。



 ーーー屋上を飛び出してセントラル通りに辿り着いたのは、それから十分ほど後のことです。

 一応は近江レンが大型のファッションビルに入ったのを見届けてから屋上を出ました。上手くいけば、ファッションビルの中で発見できると思います。

 伊達に能楽町で生活してる訳ではありませんので、人混みの中を歩くのはお手の物。夕方の混雑した街をスイスイと進みながら、目的地となるファッションビルに入り込みました。


 流石は夏休みの国貞セントラル通り一番のランドマーク。館内は冷房の効きが悪くなるほど、多種多様な服装をした学生ほどの年齢の男女でごった返しています。

 近江レンがここへ来たということは、恐らくは()()()をしに来たのでしょう。僕は入口付近のフロアガイドに近付くと、館内の店舗一覧に順に目を通していきます。

 ほとんどがアパレルや雑貨絡みのファッションショップ。たまにカフェなんかが散見されますが、僕が目を留めたのは地下一階の店舗でした。

 それは、地下一階フロアの半分を占める、有名レコードショップ。最近は音質に拘る変わり者が多いのか、レコード、カセットテープ、CDと、様々な媒体を取り扱うお店です。

 比較的簡単に万引きできて、その後の転売なんかを考えると、最もターゲットになりそうなのはこの辺なんじゃないですかね? 僕は万引きなんかしたことないですけど。


 フロア中央から伸びるエスカレーターを下りると、目の前には色んなアーティストのポスターや、その楽曲のおすすめPOPなんかがところせましと並ぶ、賑やかなお店が広がります。賑やかなのは店内装飾だけではなく、色んな制服や私服に身を包み、試聴機の前ではしゃいだり、推しのジョリーズの新作アルバムの前ではしゃいだり、とりあえず意味もなくはしゃいだりする、パリピ達も一緒なんですけどね。


 とりあえずは店内に入る前に、通路を回って各客導線をチェックします。中に入ったら逆に見通しが悪くなりそうですものね。

 少し歩いたところで、店内中頃、今密かなブームが到来中の女性アイドルグループの特集コーナーに、目的の人物を発見しました。

 

 屋上から確認できたくすんだ亜麻色の髪。端正ながらやせ細った顔付き。先ほどは雑踏に紛れていたため、首から下までは見えなかったのですが、見たことのないブレザーとチェックのスカートを身に付けているあたり、どうやら近江レンは女子高校生か中学生だったようです。

 食い入るようにアイドルのアルバムジャケットを見つめている様は、やはり……と言うよりも、予想よりもかなりみすぼらしい印象です。

 鞄も持っておらず、一体どうやって万引きなんかするんだろうかと訝しみましたが、とりあえず目を離さない方が良いだろうと、僕は店内の商品を見て回るていを装って、近江レンへと近付きます。

 

 女性アイドルコーナーへと差し掛かった頃です。

 近江レンはおもむろにカセットテープ版のアルバムをいくつか手に取ると、真っ直ぐにレジへと向かって行きます。

 その間に僕へ視線を送った気配はありませんので、監視されているとは気付かれてはいないはずです。

 僕は少し歩速を上げて彼女の後を追います。

 何の躊躇いもなくレジまで辿り着いた近江レンは、カセットテープをレジ台の上に差し出します。

 あれ? 普通にお買い物かな?

 僕は拍子抜けと共に、安堵感を感じていました。

 次の言葉を聞くまでは。


「あの、これ、返品したいんですけど」


 え?


「ご返品ですね? レシートはお持ちですか?」


 堂々とカセットを差し出した近江レンに向かって、レジスタッフの若い男性が尋ねてます。


「無いです」


 そりゃそうですよね。だって買ってないんですから。

 

「でしたらご返品はお受けできかねます」


 その一言に僕はハッとしました。

 つまりあの店員さん、近江レンが会計を済ませてない商品を差し出していると、既に微塵も疑ってないってことですよね?


「でも、まだ開けてないですし、この間買ったばかりです」

「申し訳ありませんが、レシートが無ければお受けできかねます。もしレシートがあれば、ご一緒にお持ち下さればお承り致しますので」

「……分かりました。期間はいつまでですか?」

「レシートの日付から一週間以内です」

「分かりました。探してまた持ってきます」


 レジ台のカセットを再び受け取ると、近江レンはそのままスタスタと店を出て行ってしまいました。

 レジからは、近江レンの対応をした若いスタッフと、奥から現れた少し年上な男性が話す声が聞こえてきます。


「あれ、絶対に返品詐欺だよな」

「だと思いますね」

「危ない危ない。お前、よく対応できたな」

「いや、あんな小汚い子供がアルバム四枚も買える訳ないと思って。きっとどこかでパクったのを金に変えようと思って来たんじゃないですかね」

「あーあ、盗まれた店、可哀想だな。あんなクソガキ、さっさと死ねばいいんだよな」


 可哀想なのはあなた達なんですけど。

 最初は少し同情して、本当のことを教えてあげようかとも思ったんですが、僕はそのまま店を出ました。

 

 近江レンは、むき出しのカセットテープを小脇に抱え、上りエスカレーターを登っていくところでした。

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