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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第一話 連続コンビニ強盗、現る。
2/91

コンビニバイト=レオニダス 1-2

 ガゴンッ!!!


 凄まじい破砕音と共にトイレのドアが外されました。

 僕のいるレジ台の位置からもよく見えます。ドアを蹴りつける細く黒い足が。

 ドアだけじゃなくてその外でドアを開けようとしていた手下さんごと蹴りつけていますが。


 あまりの出来事に店内は静まり返り、BGMとして流れる最新POPのインストゥルメンタルだけが静寂を際立たせます。


 ひしゃげたドアと洗面台の間に挟まれた手下さんが崩れ落ち、そこでようやくドアは自分を蹴破った細い足から開放されます。

 ドアと手下さんを踏み付けながらトイレから出てきたのは、真夏なのにレザーのロングコートを着込んだ、店員に声も掛けずにトイレまっしぐらな、あの女の人だったのです。


 背が高く、骨太そうですがスラッとした人です。ロングコートの下には白いカットオフの多分半袖だと思いたいTシャツと、黒いスキニーパンツ。足元にはパンクス御用達の有名ブランドの定番オックスフォード。

 とても綺麗な顔立ちの純日本人か日系人で、モデルか俳優にでもなれそうな、それはそれは美人さんなのですが、顎下で切り揃えられたミディアムボブカットの髪色が、中分けを境に左を銀と右を黒に真っ二つに分けられているという、かなり目を引く女の人です。 


 その女の人はハンカチで手を拭きながら、下敷きとなった手下さんの上からゆっくりと降りて来ます。


 あまりの出来事に、もう一人の手下さんも動くことが出来ないみたいです。


 女の人がトイレから繋がる細い通路から店内へと足を踏み入れたと同時です。


「このアマ! いつからそこにいやがった!」


 別の手下さんが掴みかかろうとするのですが、無造作に腕を引かれた上に足払いをかけられたらしく、前につんのめりながら雑誌スタンドに激突していきます。

 ですが、女の人はそんなことには気付かなかったくらいの無反応で、ツカツカとこちらへ向かって歩いてくるのです。


 唖然とする僕。強盗さんも同じように呆気に取られてるみたいで、僕を押さえ込んだまま微動だにしません。


 女の人は僕達の前まで到達すると、手早くレジに陳列してあったピロロチョコを一つだけつまみ上げます。


 そしてそれを、そっとレジ台の上に差し出しました。


 買い物ぉー!!??

 この状況下でトイレを借りた挨拶的な、ちょっとしたお買い物をしてるぅー!!

 どこをどう見ても拳銃を突き付けられている僕に向かって、女の人は真っ直ぐな視線を向けたまま、懐からコインケースを取り出しています。


「おい、ねーちゃん。今がどんな状況か分からねーことなんかねぇだろ? しかも明らかに異常な登場しやがって。てめぇ、何者だ?」


 確かに強盗さんが言うように、トイレを蹴破って現れたこの女の人は、どう考えてもただのお客さんじゃありませんよね。

 僕もそこでようやく冷静さを取り戻せた気がします。

 

 が、女の人は全く動じる様子もなく、強盗さんに一瞥をくれただけです。


「てめぇ、賞金稼ぎ(ヴァルチャー)か?」

「…………」


 賞金稼ぎ!?

 僕は内心でホッとしました。何故なら、賞金稼ぎとは、国際警察機構から犯罪者拿捕の許可を正規に受けた、いわば警察の下請けみたいな方々なのですから。

 少なくともおねーさんは僕を助けてくれるはずです。

 無言のまま強盗さんからプイッと視線を逸らしましたが。


「なんだ? ヴァルチャー(ハゲワシ)って呼び名が気にでも触ったか? てめぇらは偉そうに鷲獅子(グリプス)なんてご大層な看板を掲げてるもんなぁ。やってることは薄汚ぇハゲワシと変わらねぇだろうによ」


 強盗さんがいかにも見下した感じの物言いをしたのとほとんど同時です。


「そのイカれた白黒の囲碁頭、話にだけは聞いたことがあるぞ。お前、『絶対殺すガール』だな?」


 ええー!? このおねーさん、絶対ガールじゃないですよねー!? 軽く二十四歳は回ってますよねえー!!??

 

「…………」


 それでもおねーさんは口を開く気配もありません。

 その反応がどういう意味なのかは不明ですが、強盗さんは気勢を強めていきます。


「マジかよ、ガールなんて名乗ってるもんだから、俺はまたティーンエイジャーの悪ふざけだとばかり思っていたが、ガールにしちゃ随分と年増じゃねぇか」


 年齢に触れるのは明白なセクハラです。


「…………」


 ですがそれでも尚、おねーさんは無反応を貫きます。


「悪名Sランクだが実力はCランクだってもっぱらの噂だぜ? ここまで来てビビったか?」


 真意は本当に不明です。ずっと黙ったままのおねーさんに、強盗さんもいよいよ業を煮やしたみたいです。

 遂には声を荒らげ始めるのでした。

 

「おい、何とか言えよ!」


 この言葉が口火となりました。


 強盗さんが僕に押し当てていたオートマチックガンを、絶対殺すガールさんに向けたのです。

 が、同時にガールさんも動いていました。

 振りかぶられた強盗さんの右腕を左手が絡め取ります。

 瞬間的にロックされる強盗さんの右腕。

 ですが指先は動くはず。

 引鉄が引かれれば終わりです。

 と思ったのはほんの一瞬でした。


 なんとガールさん、空いた右手で強盗さんの拳銃を捕まえると、とてつもない早業でスライドパーツを引き抜いて破壊してしまったのです。


「っな!?」


 ただの刹那で武装解除させられてしまった強盗さんの、驚愕の声が店内に響きます。

 がしかし、更に追い打ちをかける出来事が。

 ガールさん、驚く強盗さんの防毒マスク目掛けて、突き上げるような頭突きを食らわせたのです。


 ベキョッ!!


 鈍く湿った音と硬質プラスチックがひび割れる音と共に、強盗さんの体がフワリと浮き上がります。


 ボグッ!!


 そこにガールさんの長い足が追い討ち。

 浮き上がって踏ん張りの効かない強盗さん。憐れ、真っ直ぐに吹っ飛ばされていきました。 


 ほんの一瞬の出来事でしたが、僕はその一切を刮目しましたし、何よりも心と目を奪われてしまいました。


 こんなの、こんなの、


 映画でしか観たことなぁーい!


「な!? なんだてめぇは!?」

「いつの間に入り込んだんだ!?」


 強盗さんは吹っ飛ばされたことにより、実はレジ右手のお弁当コーナーに突っ込んでしまっていまして。その為に今度はとてつもない破砕音が店中に響き渡っておりまして。

 そのせいで外で見張りをしていた手下さんが二名、店内での異変に気付いて駆け込んで来ます。


「ああ!? ゲイリー!?」

「この女がやったのか!?」


 お弁当のパックにまみれて失神している強盗さんの姿を見留め、どうやら状況を察したようです。……あの強盗さん、ゲイリーさんって言うんですね。犯行現場で名前を呼ぶとか、素人ですかね?


 己のしでかした失態には気付く様子はなく、二名の手下さんがガールさんに襲いかかっていきます。


「てんめぇ! 女だからって容赦し……」


 一人目さんがいきり立って駆け出したと同時です。


「おえぇっ!!」


 踏み出した一歩目とタイミングをピッタリと合わせ、ガールさんが右脚で横蹴りが繰り出します。

 横蹴りはよく空手やカンフーなんかで使われますが、あの感じはきっとカンフーでしょう。だって映画で観ましたから。

 ぐっさりと突き刺さる綺麗な細くて長い御御足おみあし

 ですが驚くのはまだこの後だったのです。

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