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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第三話 賞金稼ぎの弟子
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高校一年生=レオニダス 3-2

「あ、あの、絶対殺すガールさん?」


 とりあえずナンパに成功してファミレスまで来たものの、何を話していいかはよく分からない僕達。

 何が聞きたいんだ? と問われたので、いきなりどうかとは思いますが、まずは要件を言おうと彼女の名を呼びます。


「それは一体誰だ? そんな奴は知らん」


 ですが、ガールさんは眉間にシワを寄せたまま、鋭い猛禽類の眼光のまま、そう返してきます。


「「え?」」


 その反応に固まる僕達。

 そんな僕達に、ガールさんは冷ややかに続けます。


「もし私を呼ぶ必要があるのなら、私はリンダ・オッペンハイマー・山本だ」


 それで合点がいきます。

 昼間、韮崎さんも言ってました。

 絶対殺すガールとはきっと正式なコードネームであり、彼女が絶対殺すガールであると身バレするのは良くないってことなんでしょう。

 だからガールさんは知らん振りをしたんですね。

 それにしても、そのリンダ・オッペケペー・山本さんとは、ひょっとしてガールさんの本名なんでしょうかね? もしそうだとしたら、本名をお伺いしちゃって、僕、めちゃくちゃ幸せ者じゃないでしょうかね!?


「じゃ、じゃあ、リンダさん。ってお呼びします。えっと、俺は桐谷(きりたに)海斗(かいと)で、こっちは……」


 一応は自己紹介が必要かと思ったのか、海斗くんが僕を紹介しようとしたのと同時です。


 ピンポーン。


 ガールさん、海斗くんの言葉を遮ってまで、店員さんの呼び出しボタンを押しました。


「はい! お待たせしましたぁー」


 ほぼ間髪入れずに到着する可愛らしいお姉さんの店員さん。

 こういう時、テーブルの会話って止まっちゃいますよね。僕達もお決まりに漏れず、思わず自己紹介を止めてしまいます。


「ご注文をお伺いいたしまーっす」


 まるでメイドカフェばりに可愛らしいピンキーボイスで注文を取り始めるお姉さんに対し、リンダさんはメニューを開くと同時に口も開きます。


「とりあえずドリンクバーだ。料理はまず、エスカルゴとプロシュート、それから、ペペロンチーノとマルディーニ風ドリア。次にミックスグリルとラムのランプステーキ。その後でガーデンサラダLサイズ。最後にブディーノ(プリン)とティラミスの盛り合わせ。注文の順番通りに持ってきてくれ」

「かしこまりましたぁ! ご注文を繰り返しまぁっす!」


 繰り返される鬼長い注文を聞きながら、僕は気付きます。


 それ、イタリア料理フルコースのやつぅー!!! ファミレスなのに単品を組み合わせてフルコースとして注文してるぅー!! しかも二人前ぇー!!


「以上だ。お前らも好きなものを頼め」


 好きなものを頼め……って、ここ、僕達のおごりでしたよね? さも自分がご馳走するみたいな口振りで、リンダさんは閉じたメニューをこちらに手渡してきます。両手で。


「……おい、レオ。あの注文、軽く五千モンは超えてたよな? お前いくら持ってんのよ?」


 受け取ったメニューを立てて盾を作りつつ、その影でコソコソと話しかけてくる海斗くんに、僕も同じくコソコソと返します。


「ギリギリ五千モンは持ってるからリンダさんのお会計は何とかなると思うけど、少なくとも僕はもう何も頼めないよ……海斗くんは?」

「俺……千モンくらいしか持ってないんだよ」

「うそ! じゃあなんでおごりなんて言ったの!?」

「だって! 何とかお前に話させてやりたかったから……それに! あんないっぱい頼むとは思わないだろ! 普通は! 高校生のおごりだぞ!?」


 コソコソヒソヒソと怒鳴り合う僕達を隠すメニューの向こう側から、リンダさんの声が聞こえてきます。


「まだ決まらないのか? 店員さんを待たせるな」


 こちらの気も知らずか、冷淡なお言葉に、僕達は引きつり笑いを浮かべるしかありませんでした。


「あの……じゃあ……山盛りポテトを一つお願いします」

「お一人様お一つですかぁ?」


 食い気味に確認してくる可愛い店員さんに、


「「いえ二人で一つで!!」」


 僕達も食い気味に答えたのです。



 フリフリした歩き方で立ち去る店員さんの後ろ姿を見送った後、僕達はとりあえずリュックの中からお財布を取り出して中身の確認を始めます。


「で、何の話だったか?」


 そんな僕達を無視するように、リンダさんは話を切り出し始めます。

 やはりきっちりと入ってくれていた五千モン札を確認し、安堵して財布から顔を上げると、リンダさんはちょうどお冷の入ったコップに口を付けるところでした。

 喉が乾いていたのか、水滴の衣装を纏った氷水をググィっと飲み干すガールさん……なのですが、僕はそこで少し違和感を覚えます。


 ガールさん、氷水のコップを、両手で持ってません?

 両手でって言っても、湯呑みを持つ時みたいに左手を底に添えて、とかじゃありません。

 幼児がやるみたいに、両手を開いて、手のひらでコップを支えてる感じで、しかもすごい美味しそうに飲んでいるんですけど。


「ぷはぁ」


 小さいため息を突くと、ガールさんはテーブルの隅にあったお冷のポットに手を伸ばします。


「お前ら、何か言いかけていただろう。早く言え。時間の無駄だ」


 こちらを睨み付けながら、お冷を注いでます。ポットを両手で支え、丁寧に、零さないように慎重に。

 しかも、厳しめのお言葉とは裏腹に、ガールさんは僕と海斗くんのコップも回収すると、そっちにも丁寧にお冷を注いでくれてます。


「あ、ええと、俺は桐谷海斗で、こっちが鶴岡・レオニダス・潤です。って言おうと思ってました」

「お前らの名前に興味はない」


 ばっさりいったぁー!!


 と、本来ならツッコむところでしたが、


「あ、どうも」


 ご丁寧に僕達それぞれの前にコップを戻してくれるガールさんの挙動一つ一つに、僕の注意は完全に奪われてしまっているのです。


「私は今後、もう二度とお前らに会うことはない。だから名前など覚える必要はない」


 ポットから滴り落ちた水滴から生まれたテーブル上の水たまりを、備え付けの布巾で拭き取りつつ、ガールさんはやはり僕達を睨み付けてます。でも手元では布巾をきちんと畳み直して、元あったトレーの上にそっと戻してます。


「で、ですよね」


 若干の片言な返事を返すと、少し満足したように頷いているリンダさん。

 よく見ればこの人、めちゃめちゃ姿勢正しく、背筋をピンと張ってソファに腰掛けてますね。


「あの、ドリンクバー、お持ちしましょうか?」


 海斗くんもそんなリンダさんの違和感に気が付き始めたように、心なしどころか、ほとんどいつも通りな声色に戻っています。


「いや、いい。自分で行く。毒でも盛られたら敵わないからな」


 やたらと物騒な台詞を残して席を立つリンダさんの後ろ姿を見送ってから、僕は速攻で海斗くんに向き直ります。


「ねぇ、海斗くん?」

「なぁ、レオ」


 同時に僕の方を振り向いた海斗くんの頬が、真っ赤に染まっているのが分かります。

 それだけで、どうやら僕と同じことを考えているだろうことが読み取れました。


「「あの人、めちゃくちゃ可愛らしいんですけどぉー!!!!」」


 僕達は同時に悶絶したのでした。

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