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絶対殺すガール(24)  作者: ロッシ
第二話 絶対殺すガールを追え
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絶対殺すガール=かささぎ 2-2

『むぅー、流石は国営会社のセキュリティ。やっぱ一筋縄じゃいかないかぁ』


 言葉とは裏腹に、ウイの声色は弾んでいる。


『おお、こんな斬新なプログラム使ってるの!? いいエンジニア雇ってるねぇ』


 かささぎの興味の範疇外の独り言を呟きながら、その実、ウイは凄まじい勢いでプロテクトを突破していく。

 

『かーちゃん? そう言えば警察には連絡した? 念のため、東京府駅の人払いしといてもらった方がいいと思うんだけど』


 ウイの質問は尤もである。

 現状、既に状況は逼迫している。

 万一の可能性は考慮すべきである。

 万一の可能性とは無論、東京府駅構内での自爆が為されることである。


「いいや。東京府駅のこの時間帯の利用者数は十万は下らない。その規模の施設を封鎖するには時間が足らなすぎる上に、逆に混乱が生じて無用な二次被害まで引き起こしかねん」

『確かにそれはそうだけど』

「爆破はさせない。それだけだ。絶対にな」


 かささぎの力強い台詞にウイは心が昂るのを感じたのは言うまでもない。

 ……元を正せばこの危機は、かささぎの気まぐれとウイの遅刻から始まってはいるのだが。

 そんなかささぎの言葉の背後に、何やらサイレン音が混じり始める。


『え? この音って、パトカー? やっぱりかーちゃん、通報してたの?』

「いいや。スピード違反で追跡されてるだけだ」


 さらりと言い返すかささぎだが、イヤホンの向こうでウイが突っ伏してるのは想像に難くない。


『ちょっと! 捕まらないでよ!?』

「無論だ。だがこのままじゃまずいな」


 かささぎはボソリと呟くと、右手のアクセルを思い切り捻り上げた。

 同時にオートモービルのマフラーが大きく震え、大量の蒸気を噴き上げると共に一気に加速していく。

 目指すは高架橋に備え付けられた、非常用の階段である。

 金網製の出入り口を轢き倒すと、かささぎを乗せたオートモービルは力強く階段を駆け登っていく。

 勢い余って軽く宙を舞いはしたが、かささぎは見事にパトカーを撒き、同時に機関車の真後ろに着けることに成功した。


「ちっ! ウイ、悪いがしばらく喋るな」


 ウイの耳に相棒の焦った声が届いてくる。


『どうしたの!?』


 その質問に、かささぎは真剣な面持ちで答える。


「線路のレールの上を走るのがこんなに難しいとは思わなかった。この鉄棒、幅がタイヤの半分しかないじゃないか」


 ウイは二輪オートモービルの運転こそできないが、自転車くらいは運転できる。かささぎの行っている曲芸がどれほどの難易度なのかは容易く想像がつく。


『あともう少しでプロテクト外れるから』


 だがここでもう一つの問題が発生していた。

 

『ねぇ、かーちゃん? その体勢から狙撃なんかできるの?』

「無論だ。だが、高架の上では障害物がなさすぎる。跳弾が使えない。と言うか話しかけるなと言っただろう」


 歩行者の通行が考慮されていない鉄道用の高架橋には、安全柵などは設けられておらず、橋梁の幅員も列車ギリギリに取られている。

 チョウの詳細な居場所が判明したとしても、高架橋の上では客車の真横に回り込むのは不可能。

 シンプルな銃撃が行えない状況ではあるが、かささぎならば、内部の状況と詳細な位置さえ把握すれば、跳弾で狙撃を行うことは可能。のはずだった。

 が、安全柵のない高架橋の上であるという事実が、それを不可能とした。

 跳弾を行うには、かささぎの談の通りに障害物、すなわち弾丸を反射させるためのファクターが不足しているのだ。


『やった、侵入成功! ええと、その列車の防犯映像……っと、これこれ。よし、かーちゃん! 今そっちに繋ぐよ! チョウはっと……うっわ、すし詰めだね、この列車。まぁ、そんな時間帯だから仕方ないか……ええと、どこだどこだどこだ? どこだぁー?』


 流石のかささぎでも、高速で疾走するオートモービルで綱渡りをしながら、人探し絵本ゲームをすることは困難だ。

 ウイがチョウを探し出すことに期待しつつ、かささぎは運転にだけ集中……しているわけはない。


『いた! いたよ、かーちゃん! 一番前の客車! だいぶ人に囲まれてるけど、間違いない!』


 時刻は午後十六時二十五分。

 東京府駅到着まで、残り五分と迫っていた。


「分かった。狙撃は駅構内で決行する」


 かささぎは秘密裏に脳内で立てていた。

 その計画がこれだ。


『っえぇ!? 今、なんて!?』


 が、その計画にウイが驚くのも無理はない。

 

『駅構内で、って、人がごった返す東京府駅内でってこと!?』


 ウイの懸念通りである。

 

「ああ。列車が入構後、停車までは約三十秒ある。三十秒もあれば十分だ」


 それでも、かささぎは涼しげな声色で返すのみだった。


『いや、でも、でも! もし、もし、もしだよ!?』


 そうだ。

 もし、があれば、かささぎに限って、もしの可能性は非常に低いとは思われるが、もし、が発生した場合、結末は構内で活動する多数の乗客達を巻き込んでの爆発。

 

「させない。絶対に、だ」


 だが、かささぎは断言する。

 何度も言わせるなと。

 絶対に、と。


 今でも思い出す。

 ウイは、かささぎのこの言葉に憧れたのだ。


 だから彼女達は、絶対殺すガール、なのだ。


『分かった! 女は度胸! かーちゃん任せた!』

「任せろ」


 かささぎは再びアクセルを捻り上げる。

 蒸気機関車はネオ・ゴシック様式の東京府駅構内へと突入する。

 かささぎの駆るオートモービルは一気に速度を上げると、高架橋から駅舎の屋根へと向けて斜めに架けられた鉄骨に乗り上げる。

 

 徐々に減速してゆく機関車の頭上を、爆音を響かせながら疾走するオートモービル。

 

「なんだありゃ!?」

「オートモービルがあんなところを!?」


 ホームで機関車の入構を待っていた人々から、驚愕の声が上がり始める。


「思ってたより簡単に出会えたぁー!!!」


 中には意味不明な悲鳴も混じってはいるようだが。


 八両編成の客車をほんの数秒で追い越しながら、かささぎはハンドルに取り付けたクレホでチョウの位置を確認する。


 チョウは満員の列車内、扉近くの立ち乗りスペースのほぼ中央に位置している。

 周囲には停車を待つ降車客で埋まっている。

 どうやらチョウはかなり背の低い男らしく、人混みに埋もれているのが見て取れる。

 彼の周りの人々が、チョウを護る防壁のごとく立ちはだかってしまっている

 これでは狙撃は困難だ。


 かささぎはハンドルから両手を放すと、背中側のベルトに捩じ込んだ二色のコルト・ガバメントを抜き取る。

 右腕にシルバーメッキの一丁、左腕にはブラックマットの一丁を。

 それぞれを右手を走る壁へと構えると、躊躇いなく引鉄を引いた。


 ガン! ガン! ガン!

 ガン! ガン! ガン!


 構内に響き渡る六発の銃声。

 しかし銃声が人々の恐慌を引き起こす遥か前に、放たれた銃弾は流れる壁を叩くと客車の中へと飛び込んでいた。


 バリィーン!!

 ガシャァン!!

 パァーッン!!


 一号車の窓ガラスが銃弾によって砕け散り、乗客達の悲鳴が漏れ聞こえてくる。


 クレホのディスプレイの中では、突然の窓ガラスの破砕に驚いた人々が、その場にしゃがみ込んでる姿が見て取れた。


 それは、無自覚にチョウを護ってしまっていた人の壁も同様。

 そしてチョウ自身もまた、同様だった。


 しゃがみ込んだチョウに狙いを定め、かささぎは再び引鉄を引く。


 ガン! ガン!


 二発の弾丸はまたもホームの壁を叩くと、真っ直ぐにチョウへと襲いかかる。


 だがしかし。


 弾丸は両方とも車体へとめり込んだ。

 チョウ自身も身をかがめたことによって角度が深くなり、壁から反射した跳弾は客車の窓枠に阻まれてしまったのだ。


 どうやら自身が狙われていることに気が付いたのか、はたまた単に気が動転しただけなのかは定かではない。


 クレホの中のチョウが腕を上げた。


 その腕の先には、起爆スイッチと思しき、小さなボタン付きのスティックが握られていたのだ。

 

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