コンビニバイト=レオニダス 1-1
こんばんは!
僕は鶴岡・レオニダス・潤! 東京府立能楽町高校に通う一年生! ピッチピチの十五歳、花の男子高生です!
能楽町高校に入学して十ヶ月! 青春を謳歌し、アルバイトも始めた僕は今、能楽町二丁目の近くにあるコンビニで働いています!
お客さんはちょっと変わった人が多いけど、それも社会勉強だと思って気にしない!
能楽町二丁目という土地柄もあって、雑誌コーナーの窓の外にはいつだって風変わりな人達が闊歩しています!
LGBTな方々は当たり前、明らかに堅気じゃない方々も多いですし、一般人なんだろうけど分かりやすく変わった人々がひしめき合う土地なのです!
さっきだって、こんな真夏なのにレザーのロングコートを着込んだ女の人が入ってきて、何も言わずにトイレにまっしぐら! それからしばらく出てきません!
その後もタンポポみたいな巨大なアフロヘアが特徴的な、大根か鬼の金棒みたいに大きな男の人が店内を伺うように覗き込んでいました! もうどっか行っちゃいましたけど!
とにかく、変な人の多い街だとは思ってましたけど、今日はもっと変な人達がやって来たんです!
背格好的には男性であろう五人組で、全員が全員、テレビドラマなんかでよく見る防毒マスクを装着し、どっかの軍隊みたいなミリタリーウェアに身を包んでいます!
本来なら、絶対に関わりたくない、どう考えてもおかしな人達です!
でも、グングンとこっちに近付いてきて、入口に差し掛かったその時には、上着で隠されていた腰のベルトから拳銃やらナイフやらを取り出していたんですよ!
「いらっしゃいませ! 何にしましょう!? うちは夏でもおでんをずっとやってますし、冷たい飲み物もたくさん用意してますよ!」
「金を出せ」
もう恐くて仕方なかった僕は、思わず普段は全く言いもしない、コンビニらしからぬ接客トークでお茶を濁そうと努力しましたが、案の定、眉間に自動拳銃の銃口を押し付けられてしまいましたー!!
やっぱりこの人達、おかしい人達だったぁー!!
「えぇー!? 金って、て、て、て、店長ぉー!!! なんか凄いこと言われてるんですけどぉー!!!」
って僕が振り向いた時には既に遅し!
クソ眼鏡おかっぱ頭デブ店長は、まっしぐらに裏口から飛び出して行った後だったのです!
揺れる金属扉と揺れる肉が眩しい後ろ姿!
ふっざけんな、あのクソ眼鏡おかっぱ頭デブ店長ぉー!!!
「店長じゃなくとも金は出せるだろうが? ぶっ殺されたくなかったら、さっさとこのバッグに金を詰めろ、このクソガキ」
焦った様子も無く、慣れた口調で囁きながら、銃口を更に押し付けてくる防毒マスクさん! ひょっとしてひょっとすると、この方々、最近この界隈で話題になっていた連続コンビニ強盗さん達なんでしょうかぁー!?
「ひぃー!! 金、金、お金ぇー!? 僕、今日は現金は千モンしか持ってませぇーん!」
「本当か? ちょっとジャンプしてみろ……って、んなわけあるか! カツアゲじゃねーんだぞ! ガキの端金ぶんどるのにこんな武装してくる強盗団がどこの世界にいるってんだ!? いくらここが天下の能楽町二丁目でもそこまでイカれたマッドドッグなんかいるわけねーだろ!」
すごい! なんてすごいノリツッコミなんだ! ツッコミが長いくて説明臭い!
でも、怒った強盗さんが眉間の銃口を顎の下に押し当て直してしまったので、僕は口が開けずに賞賛を送ることができません!
「いいから早く店の金を持って来いや! この店が、週に二回まとめて売上金を銀行に持っていくのは調べがついてんだ。月曜と金曜の朝がその日だろーが。つまり、今この時。日曜の深夜が一番金が貯まってる時間帯だってのは分かってんだぞ?」
ひぃー! せ、せ、せ、正解ぃー!
強盗さんのおっしゃる通り、そのルーチーンで間違いありませぇーん!
だからそんな分かりやすいルーチーンにするの止めようって心の奥底のすみっコの方で何となく思っていたけどシャイなあんちくしょう気分に浸って黙秘してたのに、あのクソ眼鏡おかっぱ頭デブ店長ぉー!!!
「ぼぼぼぼぼぼ僕は、ききき金庫の鍵とか、知らされてませんので、あああ開けられません!」
銃口を押し付ける力が緩まり、発言を許可された僕はとりあえず嘘をついてみました!
少しでも時間稼ぎ出来れば、騒ぎを聞き付けた警察さんが駆け付けてくれるかもしれません! なんならあのクソ眼鏡おかっぱ頭デブ店長が通報してくれてるかもしれません!
「残念だったな。今夜は能楽町銀座で大規模なイタリアンマフィアのガサ入れが行われてんだ。末端の巡査まで総動員されてるから、こんなチンケな強盗事件なんざ誰も見向きもしねーぞ」
ひぃぃぃぃー!! 嘘でしょ神様ぁー!
僕は泡を吹く心持ちで思わず目を泳がせました!
「お前、今あそこの引き出しを見たな?」
ええぇぇぇぇぇぇぇ!!??
嘘でしょぉー!!
確かに僕はレジ下の引き出しをチラ見してしまいました! してしまいましたが、まさかこんなチンケなコンビニ強盗さんが視線を読むなんてぇー!!
僕を脅していた人が「おい」と手下な感じの防毒マスクさんに顎で指示を出し、引き出しをまさぐらせます!
そこにはもちろん、金庫の鍵が入っている、いますからぁー!!
「よしよし、最初から素直に渡してりゃ怖い思いはしねーで済んだんだ。だが、ま、俺達の姿を見られてたら生かしちゃおけねーからな。とりあえずお前、死ね」
カチリと安全装置が外される音が鼓膜をぶっ叩きます!
見られたら、って、防犯カメラ映ってますけどぉー!!
「安心しろよ。お前を始末したら防犯カメラのデッキもぶっ壊すし、さっきのクソ眼鏡おかっぱ頭デブ店長も探し出してぶっ殺してやるからな」
ひぃぃぃぃー!!
この人達、ただのコンビニ強盗さんじゃないんですかぁー!!?? とんでもねぇ凶悪な強盗殺人犯じゃないですかぁー!!
「と、まぁこれじゃあアマチュアの仕事だな。本物の殺し屋ってのは、殺すと思った時には既に殺し終えてるって言うもんなぁ。俺達は別に殺し屋ってわけじゃねぇ。ただの凶悪犯罪者だからな。お前、運が良かったな」
どんな理屈で物を喋ってるんですかぁー!!
あんたが殺し屋だろうとただの凶悪犯罪者だろうと、僕が殺されるのには変わりないでしょぉーがぁー!!!
「じゃあな」
防毒マスクで隠されてますが、その内側に隠された素顔は明らかに笑っているでしょうね! そんな弾ませた声で強盗さんが僕に話しかけましたぁー!!
ここからは僕の時間、走馬燈パートですよぉー!
とりあえず何となく幼稚園時代から小学校時代、中学校と、なんとなーく思い出していきまーす!
走馬燈とは、人生経験を瞬時に振り返ることによって、今この危機を凌ぐための方法を記憶の中から洗い出す作業だなんて聞いたことがありますが……
僕の記憶には苛められた記憶とフラれた記憶とゲームしてた記憶しかありませんからぁー!!
もうダメだ!
もうダメなんですよ!
僕はここでもう死にます! 押し入れの奥に隠したエッチなビデオが見付かってしまうのだけが心残りですが、もう死んでしまいまーす! 走馬燈が示した通りに大した人生でも無かったんで特に心残りもないんですけどねぇー!!
僕が必死にこの世と決別の祈りを心中で叫んでいるのと時を同じくしてでした!
さっきからドリンクコーナーの奥にあるトイレの前で、鍵を見つけた人を含む二人の強盗の手下さん達が何か話してるのは視界の端には入ってました!
ガゴンッ!!!
凄まじい破砕音が店内に響き渡り、トイレのドアがバッキリと外れたのです!!
ドアを無理やりこじ開けようとしていた強盗の手下さんを、ドアの下敷きにしながらぁー!!!




