終わらないかくれんぼ症候群
「俺は……やっぱり……かくれんぼ病なんでしょうか?」
「今のところ、まだ断定はできませんが、その可能性が高いでしょうね」
診察室で向かい合う男と医師。かくれんぼ病、正式名称「終わらないかくれんぼ症候群」は数年前から突如として世界中で流行し始めた奇病です。この病を発症したものは、自分の知人、友人、恋人、家族等がある日突然、煙のように姿を消したと主張します。彼らの証言は非常に鮮明で、あたかもその失踪した人物が本当に実在しているかのように思われます。
しかし、実際には患者以外、誰一人として失踪者、及びその家族のことを知る人間は確認されていませんし、また戸籍謄本や教育機関の卒業名簿など、いかなる公的記録にもその存在は記載されていないのです。この紛れもない事実を告げられても患者は納得することができず、陰謀論のような妄想に縋ろうとする場合がほとんどです。
「テレビやネットで散々目にしてはいましたけど、まさか自分が発症するなんて夢にも思いませんでした……俺、3歳の頃からアイツのこと知ってるんですよ? 好きな映画に嫌いな食べ物、嘘をつくときのクセ、笑い方……初めてのデート、プロポーズの言葉だって……この記憶も思い出も全部、俺の脳が創り出した、ただの妄想だっていうんですか!?」
「……どうか、落ち着いてください。混乱なさるのは当然です。とりあえずいくつかお薬を処方しますので、しばらく様子を見ていきましょう」
男は肩を落としたまま診察室を後にします。残された医師は、一人溜息をつき、自嘲気味に独り言を呟きました。
「……大丈夫ですよ……きっとあなたもいつか全てを忘れて、日常に戻れるようになりますから……」