第五生 露西亜 上
今後主人公の海外出張が多くなりますので、色々な国が紹介出来るでしょう。
第六生 露西亜 上
俺には昨日まで、ロシアとヨーロッパの区別が付いていなかった。人種はてっきり白人だけと思っていたし、ただモンゴル帝国のような広大な領土を独裁制によって統治する謎の連邦国家というイメージしかなかった。それに、大陸をまたぐ広さとも思っていなかった。
しかし、実際に来てみると白人系住民の居住地域は欧州付近だけで、南西部にはイスラム教徒もいるし、東に向かうほどアジア系住民の数も増えていく。
領土だってヨーロッパの領内に胡麻粒のようにロシア領が転移している始末。
それに多党共和制である。多少政策に強引なところはあるが、これでも《彼ら》にとってはソビエト時代より数倍増しな筈…。
何故ロシアの話をしているかと言うと、自分が今ロシアに居るからとしか言い様がない。東京から新幹線で新潟、新潟からハルビンまで列車、ハルビンからモスクワまでも列車。
そして、現在もモスクワ行きの車内。一般車両の一室で、赤茶色の布を被せられたひと一続きの長いソファーに俺は座り、右隣には身長六尺の同胞、マオ・シェンロン(毛神龍)が座っている。で、木製の茶色く塗られた四角机を挟んで、向こう側にもう一人。
王大君。軍事貿易の為に、ロシアのPMCに送り込まれた、韓国からの密使である。身長はロシア人の平均を大きく上回り、体格はモンゴルの力士のような筋肉質。全身を黒いマントで包み、西洋伝奇譚の魔術師のような有り様でもある。頭を覆うベールからは、氷山のように突き立った短い頭髪が覗いている。ハルビンでゾンビゲームの登場人物みたいな厳つい顔(兎に狙いを定めたイタチみたいな目、モアイ像みたいな鼻、厚切りのステーキを横から見たような唇、筋肉の塊のような顎や頬骨の輪郭)で俺の(彼から見れば)小柄な身体の上に乗った顔を覗き込み、こう聞いてきた。
「ツルゲーネフ少佐はモスクワに居るのか?」
「何で俺に聞くんですか」
俺は問い返す。
「お前から弾薬の匂いがするからだ」
お前は犬かと言いたくなった。
「俺も彼に会いに行くところですよ」
「なら、モスクワまで同行か…」
そこまで言って、彼は崩れ落ちた。
「どうしました?」「いや、実は国を出てから一切食事を取っていない」
「大変じゃないですか、すぐ列車乗ってください、安いものでよければおごりますからっ!!!!」「蟹は駄目なのか?」
「駄目です」
一番安いピロシキしかやらねえ。
遠国ロシアまで来てみれば、言葉が通じる人が居て安心する傍ら、ヘンナ人に逢ってしまったなと後悔しています。もちろん、こいつも人並み外れた戦闘能力を持つ、化け物みたいな韓国人なんですけどね…。
御愛読感謝致します。