うまくいかない
それから半年がたった。その間に、麻里ちゃんと協力して二曲作ったけれど、どちらも結果はよくなかった。
両方とも、二千再生前後で止まったのだ。麻里ちゃんはすでに飽きつつあるみたいで、もうほとんどその話はしなくなった。
きっと麻里ちゃんは「いいのは最初の曲だけだったなぁ」と思っている。私だってそう思ってる。二曲目も三曲目も、どこかしっくりこないし、私自身満足のいく出来栄えじゃなかった。麻里ちゃんも、協力すると言った手前仕方なくといった感じだったし、動画もほとんど簡易的なものになった。
まぁ、現実なんてそんなもんだと思う。しばらく曲作りはやめて、勉学に励もうと思った。別にアーティストになりたいという野望もないし。
元々自己満足で始めたことなんだ。うまくいかなくたって当たり前だし、気にしてない。
……でも、一生懸命やったのに。悔しい。
今回ばかりは、三日で気が変わることはなかった。麻里ちゃんとは相変わらずいい友達だったし、音楽についても時々話をした。
「一曲目みたいなすげーいいのができたら、隠さずにちゃんと言うんだよ?」
と言われて、少しだけ傷ついた。やっぱり、二曲目と三曲目は、駄作だと思われてたんだと確信したからだ。実際、駄作だった。悲しい。
でも愛想笑いを浮かべている私の気持ちなんて、麻里ちゃんには伝わらない。おいしそうにガムを噛みながら、下手くそな鼻歌を歌う。私の曲だ。それで、私を見てはにかむ。私はどうすればいいのだろう?
スランプなんて大層なものじゃない。ただ私には才能がなかっただけ。最初のは、たまたまうまくいっただけ。ビキナーズラックってやつだ。でも音楽にそんなもの、あるのかな?
でも二曲目と三曲目は、やっぱり私の実力通りの結果だったと思う。いい曲は作れなかった。悔しい。ふがいない。
なんで大好きな歌のことで、こんなに苦しい思いをしなくちゃいけないんだろう?
こんなことなら、最初から形になんてするんじゃなかった。あぁ、つらい。
*
私 ダメな子ですから
期待なんてされたくないし
自信なんて持ちようないし
全部嫌になっちゃうよ
私 イヤな子ですから
友だちだって少しだけだし
コミュ力だって終わってるし
死んでしまいたくもなるよ
でもそうやって涙こぼしても
いつの間にか 明日になってて
今日も何とかやっていこうと
開き直ってる私です
今日もいいうた書けなかったな
でもでもいつか何とかなるかな
明日はきっといいうた書くから
もう少しだけ我慢して
生きていくこと辛い時もある
でもでも一緒に笑い合えたら
明日もきっといい日になるから
もう少しだけ頑張るよ
*
「めっちゃいいじゃん! こういうのだよ! こういうの欲しかったんだよなぁ。もー。いつまで待たせんだよオラ!」
麻里ちゃんは、元気だった。喜んでくれてすごく嬉しかった。
「まぁでもこれ、二曲目と三曲目うまくいかなかったから、できたんだよな。いやぁ不思議なもんだなぁ。よく頑張ったなぁメグメグ」
麻里ちゃんは強引に私の頭をわしゃわしゃと撫でる。二曲目と三曲目を悪く言われたことは、もうつらくなかった。まぁでも、二度と聞きたくはないかな。
結果として、この曲も一曲目ほどは伸びなかった。しかし、この曲を投稿してから一曲目の再生数が伸び始めた。いまいち動画の伸び方の仕組みがよくわからないけど、まぁそういう事もあるんだと思う。
なんか、結局自分が歌いたいのを歌うしかないんだなぁと思った。響くか響かないかなんて、私にはよくわからないし、ただ一生懸命考えて、悩んで、その末にできたものなら、どんな結果でも私はきっと満足できるんだろうな、と思った。
「誰かを喜ばせるため」とか「誰かに褒めてもらうために」とかよりも、ただ私が心の底から素敵だと思った気持ちを、歌おう。
きっとそれが正しい。