命懸けのブザー
「 ここって本当に住めるのかな。君も住む場所に困っているの? 」
声が優しそうな男性は私にこう尋ねてきた。
「 はい。今日田舎から出てきたばかりで、住む場所が全然見つからなくて…… 」
「 そう…… 」
人に聞いといて、どうでもよさそうな返事だ。塩顔風イケメンだからって、あの言い方。それになんとなくだけど、少し変わった人って感じはする。
「 ねぇ、君がさ……。押してよ 」
何この人、優しそうな口調なのに、優しさを全く感じない。
「 僕は、彼女の家から飛び出して来たんだ。ここに住めなきゃ、何処にも行くところがないんだよ 」
「 それは、私も同じで…… 」
彼女の家から飛び出して来たって、どういう事!?
もしや、この人。塩顔風なイケメンだけど最低な人なのでは?
「 だから、早く押してよ 」
「 さっきから、押すって言うけど、何をです? 」
「 ブザー、ブザーだよ。あるでしょ?そこに」
「 えっと…… 」
『 用がある人は、こちらを押して下さい 』とだけ書かれた所に、インターフォンとはまた違うブザーがあった。
ちょっと待って……。こんな立派なお屋敷みたいな家のブザーを私が押すの?
怖いよ……怖すぎるよ。気持ちの整理がつくまで、少し話かけてみることにした。
もしかしたら、あの人が押してくれるかもしれない。
「 あのー、私は高井ヒカリと言います。あなたは? 」
「 僕の名前は、瀬戸イツキ 」
「 えっと、イツキさん。私は怖いのであなたが押してくれませんか? 」
「 僕は人見知りだから、君がやってよ 」
人見知りって??あの人が?これだけ話をしといて今さら、人見知りって違うと思うんだけど。
はぁ……。どうしてこんな事になってしまったんだろう。
このブザーを押して、物凄く怖い人が出てきてしまったら、トラウマになりそうだよ。
これは、かなり命懸けの行動ではないのか。
でもきっと、私がやるしかないんだよね。
住む場所、本当に見つかるんだよね。私は心の中でそう何度も自分に言い聞かせるように叫んだ。
そして私は、目を瞑り、心臓がとび出してしまうんじゃないかと思うくらいの緊張感の中震える手を必死に抑えながら、ブザーを押した……。