09 依頼を受けました
朝は鶏の鳴き声に起こされ、道場で軽め(組基準。けして真に受けてはいけない)の運動をこなす。
朝食をとったあとは座学を受ける。禍がつに関すること、野宿のために必要な知識や技術などなど。
先生役は日向だった。
意外に思ったが幼い頃から話を聞き、見て学んだ彼女はいつからか雷剛に代わり教鞭を振るっていたそうだ。
昼食後は長めに休み、あとは夕暮れまでひたすら戦闘訓練。
指導は主に文治郎がしてくれるのだが、時々フラっとやって来る雷剛に徹底的に叩きのめされたりもする。
夕食後は寝るまで自由時間だが……娯楽の少ないここではやることもあまりなく、軽めのトレーニングをすることが多い。
こんな日々を三か月過ごした。
最初は日頃の運動不足がたたり、夕食後は倒れてすぐに眠っていた。連日筋肉痛で木刀を振るうのも苦労した。
しかし、三十路前の体とはいえ毎日繰り返していけば順応していくもので、それなりに動け、戦えるようになった……と思う。
そして、俺を含む勝刃の新人4人は組頭、雷剛に呼び出された。
「そろそろ依頼を受けてもいい頃と思ってな」
相変わらず格好はだらしないが、言葉には重みがあった。
「それじゃ、ついに俺も一人前の退士ってことですね!」
義助が勢いよく立ち上がる。
「ばーか。まだ実戦もしてねぇで一人前を名乗れるかよ」
「やーい、勘違いしてやんの」
春香が茶化す。義助はすごい顔で睨んだが怯んだ様子はない。
対照的に俺とさやは身が引き締まる思いだ。
一応、俺たちは実戦を経験している。あの時のことを思い出すと、とても浮かれてなんていられない。
「まずは近場で簡単なものを受けてこい。まぁ最初だからな。泣きべそかいて帰ってきても許してやるよ」
そう言って、雷剛はニヤリと笑った。
「ではこちらの依頼ですね。すぐ手続きしますのでお待ちください」
俺たちは早速組合で依頼を受けていた。
どの依頼を受けるかで義助と少し揉めたが、霧歌が間に入ってくれて俺たちの練度や装備を見て見繕ってくれた。
「ありがとう、霧歌」
「いえいえ。こちらとしても簡単な依頼は引き受けてくれる退士が少ないので助かります」
口ではそう言っていてるがルーキーの俺たちを心配してくれているのだろう。ありがたい。
「依頼は東の山に出る禍がつの数減らしです。最近数が増えているそうで麓の村に住む人たちが不安になっています。こちらの調べでは小型の禍がつを20も狩ればしばらくは大丈夫だろうとのことです」
禍がつは数が増えれば増える程凶暴性が増し、人里を襲う確率が上がるそうだ。
倒しても倒してもどこからともなく現れるそうなので妖怪とか、超常の類なのかもしれない。
なので定期的に数を減らし、人里への被害を出さないように抑えるのだ。
「分かった。それじゃ行こうか」
「けっ、命令するな」
「まぁまぁ、仕切ってもらった方が楽じゃん」
つい仕切ってしまったが、義助は気に入らないようだ。
タイプ的に仕切りたがり目立ちたがりと困った感じだが、春香がいい感じに茶化してセーブしてくれているのでなんとかなっている。
実践中に悪影響が出ないといいけど……。
「せい!」
飛び掛かってきた四つ足の禍がつを真っ二つに切り裂く。
大きさは成犬程度……一応小型に分類される禍がつだ。
山に入って早々、義助が「俺が全部狩ってやる」と飛び出していった。春香が着いていったし、無茶はしないと思うけど……。
「広樹、赤色だよ」
さやが小さめの赤石を回収して素早く背負い籠にしまう。
「これで3匹……順調だな」
「でも赤石ばっかりだね」
赤石は色石の中で一番買取価格が低い。
砕いた粉に火をつければすぐに消えるが、粉は昼のように明るく輝き、わずかな量でも朝まで続く。
欠片を集めれば周囲をすぐに温め、調理できるほどの熱も出す。
今や生活に欠かせないものとなっているが、取れる量も多いから安いんだよな……。
「まぁ最初の依頼だしこんなもんだろ。それよりあまり離れるなよ。絶対に守れるとは言えないからな」
「うん」
さやが緊張した顔で周囲に視線を走らせる。
義助と春香が行ってしまったので必然的に俺がさやを守る形になったが……全員でフォローし合いながら戦う想定をしていたので、気が気じゃない。
「あ、あそこ!」
正面からまた四つ足の禍がつが2匹、こちらに向かって飛び出してきた。
「任せろ!」
刀を正面に構える。油断をするわけじゃないが、小型でこの数なら十分に対処できる。
「さぁ来い! これで―――」
ズドン!
轟音が響き渡った。
土煙が巻き起こり、視界がふさがれる。
「な、なに!?」
「分からん!!」
離れていたさやは既に俺の元に来ている。これで多少は守りやすくなるのだが……。
風が吹き、土煙を吹き飛ばす。
「あれは……」
先程まで禍がつのいたところに、黒い丸太のような物が刺さっている。
「なに、あれ?」
「……すごく、いやな予感がする……」
そんな俺の言葉を肯定するように、木陰から2メートルはありそうな人影が現れた。
「……鬼だ」