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08 お話をしました

「お待たせしました。こちらが広樹ひろきさんの退士たいし手形になります」


 組合の受付で俺は霧歌きりかから証明書を受け取った。


 縦長の木の板に所属する組、俺の名前と……梅の模様? 裏側には組合のものだろう焼き印が入っていた。


 紐が通してあるので首から下げておく。


「ずいぶん簡単になれたけど、試験とかないのか?」


「試験はあってもいいと思うのですが……がつはいくらでも出てくるから人手はいつでもほしいのです」


 そう言って霧歌は依頼が張り出された掲示板を見る。

 そこには山のように依頼書が張り出されている。


「できるだけ古いものからやってほしいのですが……場所が遠かったり報酬が少なかったりすると皆さん避けるんですよね……依頼者からは文句を言われるし……」


 どこの世界でもこの手の対応をするのは大変なんだな……。


「あ、すいません。えっと、これで広樹さんも退士としての活動ができるようになりました。協力してくれているお店で手形を見せればお得ですし、町中での武器の持ち歩きも許可されます」


 そういえば昨日刀を持っていこうとしたら純玲すみれに止められたな……。


「退士には強さや活躍によって3段階の階級に分かれています。上から松、竹、梅です」


「俺は駆け出しだから梅か。ちなみに、松ってどれくらいでなれるんだ?」


「そうですね……禍がつのさいを倒せるくらい強くなれればなれますよ」


「災?」


「1匹現れるだけで国ひとつが壊滅することもあるほど恐ろしい禍がつだそうです。それくらいしか聞いてませんが……」


 そんな化け物もいるのか……頭ならなにか知ってるかな?


「滅多に表れないそうなので殆どの退士は竹止まりなんですよ。松になれた退士は過去20人もいないはずです。今は……5人くらいでしょうか?」


 それは勝てる人間が少ないためか、出現率が低いせいなのか……すすんで戦うつもりはないけど、後者であってほしい。


「半年に一度は監査がありますのでしっかり活動してくださいね」


「分かってる」


 働かないと飯が食えないからな……。


「組合からは以上です。それと、ここからは個人的な質問になるのですが……お時間ありますか?」


 霧歌がずいと身を乗り出してきた。


「えっと、多少なら……」


 受け取りがあったので午後の訓練は遅れてもいいと言われている。

 しかし、個人的な質問ってなんだ?


 俺の承諾を受けて霧歌が受付を離れ談話スペースへと歩いていく。


 時間帯もあってか組合内にはほとんど人がいない。場所を移さないってことは特に人に聞かれても問題ないってことか?


「あの、最初に会った時から気になっていたのですが……その服、どこで作られたものなんですか!?」


 霧歌がやや興奮気味になっているが……そういうことか。


 俺は今日もワイシャツにズボンという慣れた服装でいる。思い返せば昨日から色々な人にチラ見されてた気が……ここでは確かに異質だな。


「もしかして、広樹さんは都出身だったりしますか? 都ではそのような服が流行っているのですか? それってこっちで売られていたりしませんか?」


「ちょ、落ち着いて!」


「あ、ごめんなさい……」


 興奮気味に身を乗り出していた霧歌が恥ずかしそうに座りなおす。


「……実は俺、記憶喪失なんだ。名前以外のことはほとんど覚えてない」


「記憶喪失……」


「困っていたところでたまたま純玲すみれたちに出会って、面倒を見てもらうことになったってわけだ」


「そうだったんですね……すみません、知らなかったとはいえ勝手にはしゃいで……」


「気にしないでくれ。あまり重く受け止められても困るから」


 主に罪悪感で……。


「私、新しい物を知るのが好きなんです。友達には変わってるって言われますが……」


「いいことじゃないか。好奇心は大事だぞ」


「えへへ……ありがとうございます」


 なんだか好感が持てるな、この子は。

 同族に出会えた感覚というか……もし霧歌が現代に生まれていたら、きっとサブカルにのめり込んだだろうな……むしろのめり込ませて語り合いたい……。


「広樹さん、ボーっとしてますがどうかしましたか?」


「い、いやなんでもない……」


 危ない。向こうではあまり好きなものを語り合える友人がいなかったから飢えているのか……布教すらできないというのに。


「引き留めてすみませんでした。聞きたかったのはそれだけなので」


「役に立てずすまないな」


「いいえ。これから退士として、頑張ってくださいね」


 霧歌と別れて俺は屋敷へと帰る。


 まずは依頼を受けられるようになるために、特訓せねば。




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