07 散策しました、二
最後まで圧のある笑顔の店員に見送られ店を後にする。
「これで用事は終わりだからあとは町の案内ね」
そう言いながら純玲が解説をはじめた。
「組合と色石屋があるここが町の中央で、東西南北の門と道が繋がってるわ。それから……」
まとめるとこうだ。
この町は丸みを帯びた菱形をしておりそれぞれの頂点から道が伸び、十字で区切られ区画分けをされている。
商店は道に沿って集められ、あと居住区などに分けられている。
ちなみに俺たちは西からこの町に入ってきた。
「それじゃ道沿いで大体の用事は済むな」
「基本的にはね。でも退士なら向こうも重要よ」
そう言って案内されたのは様々な工房が集められたエリアだ。
なるほど、刀や防具なんかは商業エリアにも店があったがこういう場所は知っておいた方がいいな。
「広樹はもらった刀があるからしばらくはあれでいいかもしれないけど、上を目指すならいい武器は必須よ。さやちゃんも新しい背負い籠用意しなきゃね」
「はい……でも、お金が……」
さやが不安そうに小さな袋を握りしめている。
多分あれが財布なのだろう。元々持ってたのは仲間が帰るときに渡してしまったし、新しいのを買う余裕はないようだ。
なんとかしてやりたいが、俺はさらに少ない無一文だからなぁ……。
「大丈夫よ。頭からお金預かってきてるから」
「え、でも……」
「仲間の装備を整えるのも大切なことなのよ。それでも気が引けるなら、ちゃんとがんばって恩返しすればいいのよ」
「……うん、がんばる!」
その返事に純玲が嬉しそうにさやの頭を撫でる。
なるほど、初期投資はしてくれるのか。
世話になりそうな工房をいくつかまわり、籠屋でさや専用の背負い籠をオーダーメイドしてもらうことになり、俺たちは工房エリアを後にした。
「お昼まで時間あるし、少し冷やかして帰ろうか」
純玲の提案で俺たちはあちこち店を覗いてまわることになった。
いつの時代、場所、年齢でも女性は買い物が好きなようで純玲とさやは店先に並んだ商品を眺めては楽しそうにしていた。
一方の俺はというと……早々に飽きていた。
まず金がないし、まだ貨幣価値もハッキリしてないし、できれば買い物は自分のペースでやりたいのだが……純玲とさやが楽しそうにしているのを邪魔するのも無粋だ。
かといって先に帰ったり、まだ慣れない町中をひとりでブラブラする気もない……ちょっとした手詰まりだ。
「……あ」
ポケットからスマホを取り出そうとしてしまった。
俺の荷物もここに来ているのだろうか? それとも置いてきた……というか持ってこれなかった? 場所はどこだろう? 帰宅途中だということしか思い出せない。 落とし物として届けられただろうか? 所持金はそう多くなかったけどクレカ入れてたな……悪用されてないといいけど。
失踪扱いになるとスマホとかパソコン調べられるのかな? やばい。他人……というか親類縁者にも見せられないものがいっぱいあるのに……見られたらそれこそ帰れないぞ!?
「……帰れるのか?」
こんな所に来てしまった理由は分からない。手がかりのようなものもない。なにをすべきかも分からない。
こんな世界で、こんな状況で、俺は―――
「広樹?」
「あっ」
「どうしたのよ、ボーっとして」
さやと純玲が俺の顔を覗き込んでいた。
「いや、なんでもない」
「そう。それじゃ帰るわよ」
また純玲とさやは手を繋いで歩きだした。開いてる手にはなにやら紙袋を抱えている……買い物も済んだようだ。
……分からないことだらけ、不安だらけ。でも今は、手探りでもやっていくしかないのだろう。