04 町に着きました
竹を組んで作られているらしいその柵は3メートルくらいあるか?
内側に等間隔で櫓らしきものもあり、そこにいる人は町の外をジッと睨んでいる。
入口には大きな門があり、武装した人間が左右に立っている。
「……なぁ文治郎。もしかしてこの辺で戦でもしているのか?」
「違う違う。戦なんて長らく起こってないし、あれは禍がつ対策だよ」
「え、禍がつって町まで来るのか!?」
さっきの印象では高い知能があるようには思えなかった。それとも、人を恐れない上に主食だったりするのか!?
「可能性は低いけど、全くないとは言えないな。だから依頼で退士を見張りとして置いてる。あとは柵と……おっ、そろそろいい時間か」
文治郎が空を見る。
太陽が沈みはじめ、世界が夕焼けに染まっていく……俺の知っているものと変わらないはずなのに、なぜかとても綺麗なものを見ているように思える。
そういえば時計はないだろうな……時間分からないけど、やっていけるだろうか?
「禍がつは夜に活発になる。町や村を襲ってくるのは大体夜だな。だから……あれだよ」
文治郎が差す方を見ると、門番が門の脇で焚火をはじめていた。
門の中からも退士らしき人たちが出てきて、等間隔で焚火をしている。
「禍がつは火を怖がるとか?」
「そうじゃないわ。大事なのはあれよ」
あれは……小さな袋?
門番たちはその袋を火にくべる。するとそれまで出ていた白い煙が消えうせた。
「なにをしたんだ?」
「白石の粉を燃やしたのよ」
「白石……それって禍がつを倒したあとにあった赤青のと同じ物?」
「そう。禍がつを倒せば屍の代わりに残る石。不思議な物だけど今や私たちの生活に必要な物よ」
「その、白石を燃やす理由は?」
「詳しいことは分かってないけど、白石を燃やすと禍がつが近寄ってこなくなるの。まぁ絶対じゃないけど襲撃を受ける可能性はぐんと減るわ」
燃やすことで禍がつの嫌いなにおいでも出ているのだろうか……不思議なものだ。
「さて、お喋りはこのくらいにして行くぞ」
文治郎が歩きだし、俺たちもあとに続く。
門番は文治郎たちと顔見知りらしく、俺とさやを見ても特に警戒されたりすることはなかった。
そして踏み入れた町は……時代劇で見たものそのものだ。
まだ夕方ということもあってか人通りは多い。
みんな着物や浴衣のようなものを着ている。気になる点は髪型が『普通』というか……ちょんまげじゃない。
今更だけど文治郎も純玲もさやも、町の外で見かけた人たちもみんな『普通』だ。首から上だけ見れば現代人と区別がつかないかもしれん。
ただ、差異はあるが全体として見ればここは時代劇のワンシーンに思える。
規模は正直大きいのか小さいのか分からないが、町というくらいだし大きい方なのだろう。
「町の説明とかは明日に回すとして、まずは帰って親父に報告だ」
「その、親父って組頭のことだろ、親子なのか?」
「あー、違う違う。父親のような人だから俺は親父って呼んでんだ」
文治郎は照れたように笑ってる。よほどその人のことを信頼しているのだろう。
しばらく歩くと平屋の密集地帯を抜け、屋敷と言えそうな家が建つエリアに入った。
高い塀とそれ以上に高い家屋もあったりするし、この辺は身分の高い人の住居が集まっているのだろう。
そんな一角に文治郎たちの家はあった。
やや年季が入っているようだが結構広い。母屋と……あれは道場か?
「へぇ、組に所属するとこんな所に住めるんだな」
「それは誤解よ。うちは色々あって大きなところに住んでいるだけ。殆どは長屋にすし詰め状態なんだから」
……俺は本当に運がよかったらしい。ありがとう、文治郎……。
「あの、あたい、本当に大丈夫?」
それまでずっと黙っていたさやが口を開いた。
どうやら緊張しているようで、純玲の手をぎゅっと握っている。
考えてみれば無理もないか。
まだ子供なのに村の仲間たちと別れ、まだよく知らない人とよく知らない町で、働いて生きていかなきゃならないのだから……。
俺も不安しかない。ここは俺の生きてきた日本とは似ているが、なにか決定的なものが違う。そんな所で命を懸けて戦おうなんて、よく決心したな俺よ……。
「番士になれるかどうかは、おさや次第だ。けど、親父にはちゃんと話してやるし鍛えてやるから安心しろ」
文治郎が笑顔でさやの頭を撫でる。
それで少しは安心したのか、さやも笑う。
「……それじゃ、どうか俺のことも頼みますよ、先輩」
「あぁ、兄ちゃんのこともついでに話してやるよ」
さやとは違い、憎らしい感じに笑ってくれる。だが、悪い気はしない。
現在俺とさやは文治郎たちと別れ家の一室で待機している。
組頭に話を通してきてくれるということだが……やばい緊張する。
それはさやも同じようで、さっきから落ち着きがない。
「……さや」
「……なに?」
「もし組に所属できれば、俺たちは同期……仲間だ。がんばろうぜ」
「……うん」
ダメだ、文治郎ほどうまいことできない。
それ以上会話を続けることができず、なんとも気まずい空気にふたりで耐えていると、いきなりふすまが勢いよく開かれた。
「よぅ」
髭面のおっさんが、そこには立っていた。
若干タイトル詐欺になってますが、ボチボチ刀振りますのでお付き合いいただければ幸いです。