表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

02 分からないことばかりでした

「大丈夫!?」


 さっきの子が駆け寄ってきた。どうやら怪我などしていないようだ。


「危なかったけどあの人たちのおかげで助かったよ……呼んできてくれてありがとう」


「あたいは逃げただけだからお礼なんて……」


「なに言ってんだ。ちゃんと説明して危険を知らせてくれたんだ。お前さんのおかげだよ」


 やって来た男の方が女の子の頭を乱暴に撫でる。


 女の方はその間に周囲を歩き回っている。


「派手にやられたけどみんな生きてるわね。見たところ退士たいしじゃないし青石の武器もない……それで大型と遭遇したのは運がなかったわね」


 ブツブツ言いながら倒れていた人たちの手当てを始めたようだ。

 さっきは気にしてる余裕もなかったけど、殆どが女の子とそう変わらない年に見える。


 俺もなんとか体が動くようになったので起き上がる。


「見た感じだと兄さんとこの子らは初対面っぽいけど……どこの人だい? 着ているもんもはじめて見るが……」


 そう言われてやっと気づいたが、彼らの服装は時代劇で見るようなものだった。


「えぇと、これは……」


 一方の俺はワイシャツにズボン、靴……おかしくはないはずだが探るような眼の男とキョトンとしている女の子の反応から見て、俺の方がおかしな格好なのだろう。

 できれば恩人たちとのトラブルは避けたいが、どうしたものか……。


「……まぁ、お前さんも嬢ちゃんも訳ありなんだろ。悪さする感じじゃないし、聞かないでおいてやるよ」


 一転、男は二カーっと笑った。


「あ、でも名前くらいは聞かせてくれよ。俺は文治郎もんじろう。嬢ちゃんは?」


「あたいは……さや」


「兄ちゃんは?」


「俺は……広樹ひろきだ」


「おさやに広樹ね」


「ちょっと、なに勝手に話進めてるのよ」


 離れていた女がやってきた。

 手には弓を持っておりさっきの音からして彼女が俺の命を救ってくれたのだろう。


「そう言うなって。あっちの奴らにしろこのふたりにしろ、どう見ても素人だ。問い詰める程のことはないだろ」


 文治郎はこう言っているが彼女は納得していない様子……険悪、という程の空気じゃないがこれ以上揉められるのはよくない気がする。


「先ほどは助けてくれてありがとう。君は命の恩人だ」


 頭を下げる。俺の行動が意外だったのか、彼女は戸惑っている様子だった。


「そんな頭まで下げなくても……あぁもういいよ。あたしは純玲すみれ


「ありがとう、純玲」


 彼女はそっぽを向いてしまった。


「向こうの子たちに聞いたけど、退士になるつもりで村を出てきたんだって?」


「うん。みんなで退士になって、村のために働くんだって……」


 退士……さっきから何度か出てくる単語だけど、様子から見てあの化け物を退治する職業……だろうか?


「それじゃおさやは番士ばんし希望か?」


「うん、あたいは戦えないけどみんなの役に立ちたいって思って」


 番士……新しい単語だ。感じからして退士と似たようなものらしいけど。


「……あの子らはいったん村に戻るってさ。さやちゃんはどうする?」


「あたいは……番士になる。みんなのおかげで、あたいは怪我をしなかった。みんなの分まで、あたいががんばる!」


 目の当たりにした恐怖、ひとりになる不安、とても受け止められるものじゃないだろう……それなのに、子供ながら力強い宣言だ。


「なるほどね。よし気に入った! おさや、俺たちの組に来い。親父に紹介してやる」


「ホントに!?」


「おうよ。男に二言はない!」


「ちょっと文治郎、そんな勝手に……」


「心配すんなって。兄さんはどうする? 宛はあるのかい?」


「……ない」


「ならついでだ。一緒に来なよ」


 純玲が大きく溜息をついているが止めはしないということは文治郎のこういうところはいつものことなのだろう……いや、俺にとってはありがたいけど。


「それじゃ、まずは荷物の振り分けだな」


 文治郎が言うとさやが背負っていた大荷物を置き、中身を広げだした。

 その中から自分の分と思われる荷物を取り出し風呂敷に包むとまた元に戻していく。


「へぇ、あれだけの人数の荷物をきちんと収めてるな。出し入れも速い……」


「家の手伝いはしてたし、練習もしたんだ」


 さやは嬉しそうにしている。

 退士を冒険者とするなら、番士は冒険者の荷物管理をする職業、だろうか?


 そういえばゲームやアニメの冒険者って、テントやら自炊道具やらちゃんと揃えてるけど身軽にしてるもんな……不意打ちとかされた時荷物持ったままじゃまともに戦えないだろうし、そういう職業も需要があるのだろう。


「石はないのか?」


「うん。さっきのがつがはじめてだったんだ……」


「そりゃ運がなかったな……」


 あの化け物は禍がつ、というらしい。


「全滅させらそうになった上に収穫もなしか……それじゃあの子たちは―――」


「純玲、言うな」


 重苦しくて有無を言わさぬ文治郎の言葉に純玲が黙り込む。

 ……こいつ、実はすごく怖いんじゃないか?


「……悪かったわよ」


「……さてさて、石はなにがあるかなーと」


 コロッと態度を変えて、文治郎はさっき倒れた禍がつの元に向かった……あれ、死体がない?


「赤と青か……おさや、青はお前たちの取り分だ。換金して村に送ってやるってあいつらに伝えろ。これで面目は保てるだろ」


「え、でも……」


「いいから、な」


 さやはまだ何か言いたそうだったが、黙って頷いた。

 石……ごつごつと武骨な形をした大きな赤と青の石。

 モンスターを倒して得られるドロップアイテム、といったところか。どういう原理かは分からないけど、倒せば手に入って換金できる物ってことは退士の収入源のひとつなんだろう。


 その後、さやが色々話をしたようで文治郎と純玲は大変感謝されていた。

 俺も一緒に感謝され、使った刀はそのまま持って行っていいことになった。物騒ではあるがあんな化け物がいる場所だ。武器はありがたいのでありがたく頂戴した。


 その後俺たちは文治郎たちが住むという町へ、子供たちは村へとそれぞれ向かうことになった。


 訳の分からないことが立て続けに起こっているが、きっと俺は運がいいのだろう。しばらくはこのまま流れに身を任せて、情報とできれば衣食住を確保したい。


 ……今更だけど、ここって俺の知ってる日本じゃないんだろうな……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ