11 ふたりで歩きました
「えぇと、鬼と大型の禍がつですか……」
日向はなんともリアクションに困った様子で目を泳がせている。
まぁ、そうなるよな……組合で報告した時の霧歌も、戦果報告した時の雷剛も、俺たちの武勇伝を楽しみにしていたらしい文治郎と純玲も、そんなリアクションだった。
少数異種族の鬼との遭遇、大型の禍がつとの戦闘、鬼の援護……はじめての依頼でどれだけイベントてんこ盛りだって話だ。
「で、でもみんな無事に帰ってきてくれてよかったです!」
「ありがとう。日向の授業ちゃんと聞いててよかったよ」
「役に立てたのならなによりです。さぁ、まずはゆっくりと休んでくださいね」
「そうさせてもらうよ」
正直もうクタクタだ。
あの鬼が大型禍がつを倒したあと、俺たちは改めて討伐した小型禍がつの数を確認して町へと帰ってきた。
とは言っても全力で戦った後なので足取りは重く、予定よりもかなり遅くなってしまった。
俺は報告を引き受け、さやたちには先に休んでもらっている。正直面倒ではあるが、やることは一通り覚えておきたい。
そしてそれも終わったので部屋に戻って眠ろう……。
翌朝。俺と義助は見事に寝坊してしまったが初任務で色々あったということで朝練をさぼってしまったことは見逃してもらった。
「まだまだ体力つけなきゃな……」
「……そうだな」
俺たちは遅めの朝食をとりつつそんなことを呟いていた。
ちなみに女性陣はきちんと起きたらしい。偉い。
「そういえば、お前あの鬼と知り合いなのか?」
「知ってるといってもお前らに合流する前に会ったばっかりだぞ。同族を探してるとか言ってた」
「ふーん」
それで興味をなくしたのか義助は味噌汁に取り掛かった。
まぁ、その探し人……いや探し鬼のおかげで俺たちは助かったわけだけど……結局見つかったのか?
……鬼……探し人……なーんか引っかかるんだが……なんだろうか?
午前中はたっぷり休ませてもらって昼飯をすませ、俺たち新人4人と日向は色石の換金のために出かけていた。
日向は買い物と報酬の分配のためについてきている。
「えーっと、こっちが依頼の報酬でこっちが色石の換金した分。ここから組に収めてもらう分を差し引いて……はい、これがあなたたちの分ですね」
適当に入った茶屋で日向が金勘定をしている。
周りからは好奇な目やそれ以外の目で見られている気がするが、武器を持った退士が3人もいるためか近寄ってはこない。
目の前に差し出されたお金に俺は小さな感動を覚えていた。
初任給! この世界に来て初めての稼ぎ! まだ金銭感覚イマイチ分かってないけど、それでも嬉しい。
さやも俺と同じ気持ちなのか、とても嬉しそうだ。
一方、義助と春香は微妙な顔をしているからあまり割に合ってないらしい。
「4人で分けてはいますが最初はこんなものですよ。これからも頑張ってくださいね」
「……うっす」
「はーい」
あきらかに義助と春香のテンションが低い……次はもうちょっと頑張った方がよさそうだな……。
「あー、俺たちは買い物に行くので先に失礼します」
「またあとでねー」
ふたりは金を受け取ると早々に出て行った。
「あたいも買い物してくる!」
「ひとりで大丈夫か?」
「平気だよ。ここに来て結構経つから」
そう言ってさやもさっさと行ってしまった。
「……広樹さんも買い物に行かれるのですか?」
「俺は特には……」
気になるものがないわけじゃないけど、買い物はもう少し様子を見てやりたい。
「特にやることもないし、日向の買い物を手伝うよ」
「ありがとうございます」
日向の買い物は食材に日用品と俺にも関わる物なのでこれくらいはしないとな。
少しでも安くいい物をとあちこちの店を渡り歩いて吟味して買っていく……まだ若いのに大変だな……。
「すみません、荷物を持ってもらって」
「これくらいなんてことはないよ」
日向と並び歩いていると視界の端に彼女の赤い髪がチラチラと入ってくる。
色髪、というらしい。生まれつきのもので、縁起がいいそうで仲のいいおばちゃんたちがしきりに触りたがっていた。
この町で暮らすようになってそれなりになるが、見かけた9割は黒髪だった。他の色髪も濃い茶髪程度でここまでハッキリと違う色は日向くらいしか見ていない。
この世界なにかにつけて『色』と付いている気がするが……縁起がいいとつけるものなのか?
「あの、どうかしましたか?」
考え込みすぎてうっかり日向の方を見ていたらしい。
「いや、綺麗な髪だなーと思って」
「ありがとうございます」
言われ慣れてるだろう些細な言葉に、日向はとても嬉しそうにしてくれた。いい子だ。
「えっと、買い物はこれで終わりだっけ?」
「あとはお米を……あら?」
「ん?」
進行方向に人だかりができてるな。
「なにかあったのか?」
「あぁ、組と組の喧嘩だよ。たった今終わったけどな」
人垣の隙間から覗いてみれば、なんかカラフル頭の集団が見える……。
「はっはー! その程度で俺たち『色傾奇』に喧嘩売るとは100年早いぜ!!」
倒れている男たちに向けてリーダー格らしい金髪の男が叫ぶ。
他には見える範囲でも青、緑、黄色に紫……ヒーローの集団を思わせるようなカラフルさが揃っている。
だけどアレは色が濃いというか……染料かなんかで染めた感じか? 髪のダメージとか大丈夫か?
「さぁ野郎ども、飲みなおしだ!!」
『おぉ!!』
色傾奇というらしい組の連中は派手な着物を翻して去っていく。倒れてた男たちも大した怪我はないようでそそくさと逃げていった。
「あんな組もいるんだな……あれ、日向?」
「す、すいませんここです」
俺が気をとられる間になぜか日向は建物の陰に移動していた。
「どうかしたのか?」
「すみません。私あの人たちが苦手で……」
「あー、俺もあのタイプは苦手だな……」
パリピというか陽キャというか、関わりたくない人種と同じ気配がする。
「もうどっか行ったから大丈夫だよ。帰ろう」
「はい……」
しかし、隠れるほど苦手か……前にナンパでもされたとかか?
……想像したらなんかすげームカついてきた。
勝手に腹を立てる俺と、どこか不安そうな日向は帰路につくのだった。




