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10 鬼に出会いました

 巨大でいかにも力強そうな引き締まった体はやや赤みがかった色をしている。


 金色の髪は短く刈られ、空に向け突き出した二本の角は王冠のようにも見える。


 人のカタチをしているが、およそ人とは違うソレは―――


「鬼だ……」


 この世界には鬼が存在する。ただし妖怪などの類ではなく、ひとつの種族としてだ。


「……おい」


 重く低い声がこちらに向けられる。ただそれだけなのに威圧されたかのような錯覚を覚える。


「これは貴様の獲物だったか?」


「……いや、狙われたから応戦しようとしただけだ」


「ならば、問題はないな」


 鬼は先ほどまでがつがいた場所に刺さっていた黒い丸太……巨大な棍棒を引き抜き、色石を拾い上げ懐にしまった。


「……さや、こいつは大丈夫だ」


「……うん」


 ゆっくりと深呼吸をして緊張をほぐす……どうやらまた運がよかったらしい。


「時に、この辺りで同胞を見かけなかったか?」


「同胞?」


 俺はさやと顔を見合せた。


「いや、あんたしか見ていない」


「……そうか」


「俺の仲間もこの山にいるから聞いてみようか?」


「そこまでの手間はいらん。邪魔をした」


 そう言って鬼は去っていった。


「……鬼ってホントにいるんだね」


「俺もこの目で見るまでは信じられなかったよ……」


 日向ひなたの授業で教わったときは俺はもちろん、他の3人も半信半疑のようだった。


 一方、日向は至極真面目だった。


「出会うまでは信じなくてもいいです。ですが、彼らのことを知っていなければいざ出会ったときに大変な目にあいます。だから、真剣に聞いてくださいね」


 授業は真面目に受けたが、それでも内心は信じていなかった。いなかったが……


「ホントにいたんだな……」


「うん……」


 帰ったら日向に謝らないと。






 鬼との遭遇後、俺たちは禍がつ狩りを再開した。


 狼っぽいのや猿っぽいの、小型で多いタイプを合計で6匹。


 鬼が2匹倒してくれたし、あとは義助ぎすけ春香はるかの数次第で予定を決めよう。


「お水飲む?」


「お、ありがとう」


 さやから竹の水筒を受け取り喉を潤す。休憩が必要なほど疲れてはいないが休めるときに休んでおけとは文治郎もんじろうのアドバイスだ。


「時間かかったけど、俺もやっと初任給をもらえるようになれたわけだ……」


 この三ヶ月の間生活と退士に必要な物は全部組で用意してくれたからお金は必要なかった。


 生活費なんかは変わらず面倒見てもらえるはずだから装備なんかは自分で買う必要があるが……なにがいいかな? 刀はこの『青蒼せいそう』(勝手に命名した。人には話してない)があるからしばらくはいいけど……


「しょにんきゅう?」


「な、なんでもない」


 つい気が緩んでしまった……使う言葉は気をつけないと。


「おーい!!」


「あ、春香が戻ってきた」


 話が逸れてよかった……ナイス春香!


「春香―、義助はどうした?」


「その義助が危ないからすぐ来て!!」


「は!?」


 春香はすぐに来た道を戻っていき、俺たちも慌てて追いかける。


「義助どうしたんだろ!?」


「分からないが急ごう!!」


 考えられる理由としては対処できないほど多くの禍がつが現れたか、もしくは……


「……嫌な方が当たったか……」


 義助が対峙していたのは大型の禍がつだった。


 二本足で立つ巨体……熊か? いやそれより、報告では小型しかいないって話だったのに……。


「遅い!」


「これでも全力で走って来たぞ!」


 春香と共に義助の横に立つ。


「なぁ、一応聞いておくけど、青石の武器は持ってないよな?」


 俺の質問にふたり共首を横に振る。

 大型の禍がつには青石で鍛えた武器でしか対抗できない。最初俺の青蒼で傷つけられなかったのはそういうわけだ。


 大型に遭遇する確率はそんなに高くないはずなのだが、どうしてまた会うかな……


「……俺が殿やるからお前らは逃げろ」


「はぁ? なんのために広樹たち呼びに行ったと思ってるのよ」


「勝ち目ないから逃げるしかないだろ!?」


「だからそのために呼んできたんでしょうが!」


「誰かが足止めしないと無理だって分かるだろ!!」


「落ち着け。今さやが狼煙あげてくれてる」


 俺たちから離れた後方でさやが準備をしている。ケータイなぞ存在しないここでは緊急の連絡は走るか狼煙が主流になっている。


「それだって近くに青石の武器持った退士がいないと意味ないだろ……」


「そこは……祈れ」


 ガアァァァァァァ!!


 俺たちの長話に痺れを切らしたのか、熊タイプが襲い掛かってきた。


 振り降ろされた腕を避け全員で頭を狙うがやはり弾かれる。


 三方向から取り囲み隙を見て斬りかかるが全く効果がない。


 俺たちのパーティは前衛しかいないからこういう時は微妙に戦いづらい。


 あとこの世界スキルとか魔法とか必殺とか、その手の要素がないから自分の戦闘力と武器しか頼れるものがない。


「やっぱ硬いし誰も来ないし、お前たちは逃げろ!!」


「諦めるの早すぎるだろもうちょっと粘れ!!」


「あぁもう誰でもいいから助けに来て!!」


 これまでの特訓の成果、一応の連携、頭数のおかげでなんとか善戦はしているが時間の問題だ。

 熊タイプは疲れた様子も見せず俺たちの命を狙ってくる。一方の俺たちは時間が過ぎれば過ぎる程疲れやらなんやらで動きが鈍ってくる……長期戦はやばい。


 しかし、助けが来る様子はなく徐々に押されはじめてきた。


「……義助、春香。俺が殿やるからさやを連れて逃げろ」


「あぁ!?」


「いやいや、まだまだいけるって」


「余力があるなら逃げることに使え。これは年長者の務めだ」


 つい、かっこつけてしまった……。


「俺たちが抜けたらお前すぐやられるだろ絶対そうだ任せられん!!」


「そうだよ。広樹体力ないじゃん」


「……いいからお前らは」


 一瞬、風が駆け抜けた。赤みがかった風。


 それは熊タイプに肉薄すると、手に持った棍棒を一振りする。それだけで大型であるはずの禍がつはボールのように吹き飛ばされた。


「ふむ、煙が見えたので来てみたが……また会ったな」


 巨大な棍棒を担ぐそいつは、先ほど別れた鬼だった。


「お、鬼!?」


「え、なんでどうして!?」


 義助と春香が取り乱す。やっぱり初見はあんなリアクションになるんだな……。


「邪魔をしたか?」


「……いや、助かった。ありがとう」


「そうか」


 鬼はわずかに口角をあげ、大型が落としたであろう石の元へ歩いていき、そのまま振り返らず去っていった。




10話になりましたがそこで投稿ペースが落ちてしまったのでまた早くできるよう精進します。

感想、評価などいただけると幸いです。

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