王子さまか騎士さまか、魔法使いかはたまた悪役か
勇者現る。タイトルには不在ですな。
ずっと、騎士の格好なのかなぁ〜と思っていたシア少年の格好は、こちらの騎士さんたちを見ていると、やはり当たっていたのかなと思う。
シア少年よりももっとガッチリしてて、ごちゃごちゃと飾りは増えていたけど、衣装の基本的な造りは変わらないみたいだ。
シアは…少年だけどあの格好していて。でも今のところ、見かけた騎士さんたちには少年はいない。ちなみに…女性騎士さんはいた。この世界はある意味、わたしのいた世界よりも男女の職業差別はないようだ。
「かっこいいなぁ、女性騎士さん」
なんて呟いているには、ワケがある。
今、わたしは…城、たぶん王城?に向かう途中。移動手段は、馬車。そう、馬車なのよ。今見ている限りでは、魔法は見てない。転移魔法とかはないんだろうね…。石畳が続く道は、車輪がガタガタと揺れて、お尻…お尻が痛くてねー。うぅっ…他のことを考えてないと
「イタタタタタ…。お尻痛ぁ…」
まともに座席に腰をかけていられない…。
スッ…ふわ…っ
ポンポン
あ、ドモ。想定してくれていたのか、馬車にクッションをいくつか持ち込んでくれていた。隣にはシアが、向かいにはアナさんが同乗している。
『カナデ、ーー、ーーーーーーーー』
「ん?あぁ、座れって?…うーん」
それでも、この振動でね。クッションでもデリケートなわたしのお尻に不安が…ッ!?
ふわっポスン…ッ
「ちょっ!?いやっ、あの!シア?!な、にを」
『ーーーー、ーーーーーー?』
無重力になったと思ったら、いとも簡単に抱え上げられて、今度はクッションよりも硬い…けど安定感のある、、、シアの…膝の上に座らされた。ちょっと…いや、かなーり驚いた。
グラビアモデル体型(体重)のわたしを、簡単に腕だけで抱えられるシアの成長っぷりに。
そして、妙齢の男性の膝の上に座らされている、しかも目の前のアナさん…やめて、その生温い微笑みを向けるのは。
「シアッ、ありがたいけど。そのっ…、もう本当大丈夫だかッ、おぉっと」
ガタンッと、音を立てて角を曲がったのか、馬車が揺れ、シアから離れようと、もがいていたわたしが落ちそうになる。
それを、ヒョイっと抱え直して…ガッチリ腰の辺りをホールドされ、ニッコリ。…いや、ニヤリ?と笑うシアと至近距離になる。
ちょ、そのイケメン顔は至近距離に耐えられても、わたしは4Kお断りしますくらいの肌感だし。ろくな手入れも出来なかったから、その…あの…。いや、確かに顔掴んで顔近づけたりは、何度もしてるけど、いや、その…あー!
「膝の上がっ!恥ずかしいんだってばっ!」
『カナデ?ーーーーー?』
その顔…また笑ってんな?さては。くっそぉ、馬車じゃなければ、石畳がアスファルトならっ、お尻が鉄板だったらっ!
ガタンッ
きゃっ
ぎゅぅ…
あーもぉ!なんなのっ…角を曲がる度に揺れては落ちかけ、抱え直され、暴れ…を繰り返しているうちに、馬車がスピードを落として止まった。
「着いたの?えっと…王城?」
『カナデ、ーーーー。ーーーーー』
シアが先に降りて、手を差し出してくれる。おずおずと手を乗せると、フワッ…と弾むように引き出され、トンッと着地。
「おぉぉぉぉぉぉぉ…凄いぃ…」
目の前にそびえ立つのは、北欧で見る装飾の少ない要塞のような荘厳な城が、威圧感満載でわたしを迎えていた。
ポン…
圧倒されていたわたしの背中に、シアが手を添えて、アナさんが隣に立って微笑み促す。こ、ここに入れと?
馬車に乗る前に、シアとアナさんになにやら地図?ようなモノと、絵を見せられて説明された。といっても、説明の言葉はまったく入ってこないけど。
その絵は、そう…今、馬車を降りて目の前にそびえ立つ、この建物の壮観図的なものだった。
地図は二箇所に印がしてあり、今いる屋敷はココだ。絵を指して、もう一つの印を指してココだ。となにかを伝えようとしてくれていた。
わたしを囲っていたあの騎士さんたちに、無理やり連行されずに、彼らがすごすごと帰って行ったのには、たぶん…シアが何かしらの采配をしたのだと思う。
『カナデ?ーーーー、ーーーーーーーー』
『カナデーー、アナーーーーーーーーーーー?』
だから、城に今から行くんだ。一緒に行くんだ。と、説明をしてくれているのだと理解した。
言葉がわからないわたしに、真摯に今後の行動を伝えようとしてくれることが嬉しかった。
王城(と勝手にわたしは呼んでいる城)は、白亜の宮殿というよりは、そう…要塞と荘厳な教会のあいの子みたいな感じ。
門前に馬車が着くと、ズラーッと門から入口ドアまで騎士さんたちが揃って並び始めた。
シアの今の格好は、並んでる人たちと基本の造りは同じで色や装飾が違う。
こう見ると、騎士というより王子様のように見える。塔の上や屋敷での騎士さんたちとのやり取りを見て、これだけの人数が待ち構えているのを目の当たりにすると、やんごとない立場の人なんだろうな。
そして…入口に到着するまでには、わたしの身体は針の穴だらけで向こうが透けて見えるんじゃなかろうか…というくらい、視線がわたしに一気に集中している。
「視線って、見えない光線みたいに刺さるのねー。イテェイテェ」
クスッ
笑ったな?と思って隣を睨み上げると、スッと笑みを消し、前を向いて背筋を伸ばした騎士…王子様がわたしの背中を支えながら歩き始めた。
急に?様子を変える彼に遅れを取り、慌てて歩き始める。アナさんは、後ろからついてきており、その後ろから…
「ハーメルンの笛吹…?!ゾンビ…」
『?』
ぞろぞろと並んでいた騎士さんたちが、列を成してついてきていた?!こわっ…
さっきシアが前を見据えたのは、入口に人影が見えたからだった。
『アルシェアーー、ーーーーーーーーーーーー』
『ーーーーーーーー。アルシェア、カナデーーーーーーーーーーーー』
入口から出てきた人は、騎士さんや王子様とは違った格好をしていた。フード付きの黒めのマント。騎士、王子と来れば
(魔法使い?)
ま、さかねぇ。杖はどこよ?杖は。…?
わたしのつぶやきが聞こえたのか、案内を始めた魔法使いが振り向き、わたしと目を合わせた。
あれ?女性?男性?フードを深く被っていてわからなかったが、中性的な顔立ちと風合いで、どちらともつかない感じの人だった。
今時のジェンダーレスかしら?と、物思いに耽りながらついて行くと
ドンッ
あぅっ…!
歩きスマホと考えながら歩きはキケン。
先を歩いていたシアが止まり、ぶつかった。
「ごめん。シア、ちゃんと前見てなかっ…た…ふわぁぁぁぁ…」
たどり着いた部屋、というかホールというか…外観とは違った色鮮やかな世界が広がっていた。
彩度の高い色のタイルが文様を作り、壁を彩っていた。天井はステンドグラスが下に向かって迫り出すように作られており、ホールの中央部に光を集め室内全体を明るくしていた。
所謂、祭壇のようなものは奥の方に一段高く控えている。が、天井のステンドグラスが迫り出した真下の床にも、タイルで円状の文様が敷かれている。
『アルシェアーー、ーーーーーーーーーー』
先導して中央まで進んだ魔法使いが、シアをおいでおいでと手招く。そして、わたしを見据えておいでおいで…。
シアが、わたしに振り向いて手を差し出してくれる。ええっ、そこ行ったらどうなるわけ?!てか、ココに来た意味は?そこ説明されてないよね?内緒にしてたの?ねぇ?
微笑んでるシアをちょっとだけ睨んで、でもやっぱり怖いから手を取って進んだ。
「行かなきゃ…終わらないんだもんね」
いけばいーんでしょ、いけばっ。
騎士やら王子様やら、魔法使いやら…てことは、悪役もいるってことだよね…。
「なによ。わたしは勇者とでも?」
『カナデ?ーーーーー。ーーーーーーーーーー』
何やら嬉し気なシアと、相変わらず無表情の中性的な魔法使いに迎えられ円状の文様へと足を踏み入れた。
ッ!!?
パァーーーーーーーーーーー…ッ
最後のわたしが足を踏み入れた途端、円柱状の光が下からステンドグラスへ向かって幕を張るように三人を囲んだ。
これ…勇者、決定じゃん。
イメージとしては世界遺産の教会。
天井が特徴的なのでお調べくだされ。