金髪と碧眼とイケメン
こんだけ凄みがあると、そりゃ誰も近寄らなくなりますわな。んじゃ、いっちょご期待にお応えしますか。
ガシッ
グイッ!
ッ…?!
はい。こっち見たー。あら、きょとん顔もイケメンねー?
シアの顔を掴んで、わたしの方を向かせると、予想してなかった方向からの攻撃なのかびっくりしている。チッチッチ。敵を欺くなら、まず味方からと言ってね。背後がお留守でっせー、旦那。
「もういいよ、シア。ありがとう。あなた方もお仕事なんでしょ。わたしはどこに行けばいいの?」
前半はシアに、後半は周りの騎士さんたちに向けて話しかけた。ま、言葉は通じないとおも…『ーーーっ、カナデーーーーーーーー…!』
あれ?なんとなく理解してる?必死でわたしになにかを伝えてる。うーん。ごめん、わかんないや。と、カクンと首を傾げると…
ハァーーッ…と、ふっかぁーいため息を吐かれ、ちょっとだけわたしに回した腕に力を入れて、周りの騎士さんたちに何やら指示を出している。
ザッ!
バタバタバタバタ…
シアに敬礼して、嵐のように彼らは去って行った。おや?わたしはココにいてもいいのかな?そう思って、少し不安気にしていたのがわかったのか…。
グイッ
「いててっ、もうなによ?」
不意打ちでシアに顎を掴まれ、シアと正面から顔を合わせるように強引に動かされた。
ジッと見つめられるエメラルドグリーンが、少し濃くなっている。…えーっと、怒ってんのかな。眉間にシワが寄ってます。と、同じような顔をして見せる。
ぷっ…クスクス
ホラ、笑った。うんうん。イケメンは笑った顔のが断然いいよ。そして、クスクスと笑うシアの顔は少し幼く見え、あの頃の少年の面影が感じられて…なんだか懐かしかった。
ハァ…
『ーーーーーーー。カナデ、ーーーーーーーー?』
相変わらず、言葉はわからないけど、表情とジェスチャーでなんとなーく、起きられるかと聞かれてるように思えた。
よいしょと、カラダをきちんと起こして、ベッドから足を下ろす。うん、眠気も疲れもないな。っと、のびーっと腕伸ばしてカラダの強張りをほぐす。
それを見てたシアが、クスクスッと笑う。
なによ?なんか面白いこ、とぉぉぉぉぉぉ?!
ガバッ
サササッ!
シアの目線を追うと、パンツ一丁へいお待ちっ!みたいになってて、慌てて毛布をかき集めて腰に巻く。
んなっ、スラックスどこだよー!
「あ、んたわかってたんなら、早く言いなさいよね!…ってか!?脱がしたの…だ、れよ」
そろーっと、目線を上げて見上げると、ツンツンと自分を指差すニコニコの金髪、碧眼イケメンが…
おぉのぉれぇぇぇぇッ!?許すまじッ!
ボスンッ!
いかなわたしとて、生き恥晒す覚えはなく。しかも、スタイル抜群のグラビアモデル並みのこのカラダッ、え?グラビアモデルと同じくらいの重さはあるよ!?は?身長差があんのよ!んなこたどーでもよくてよ!
こんなスタイル抜群の金髪、碧眼イケメンに晒すなんて…ま、初めてじゃないけど。。。
いや、あの時とイマじゃ、じょ、状況が違うのよ!
シアは、わたしが投げたマクラをいとも簡単に受け止めて、クスクスと笑い続ける。このムッツリめがっ!で、どこにあんのよ?
ガサガサ、スィーっと
そういえばこの部屋に戻ってきたシアがテーブルに置いた紙袋。
そこから出して差し出された箱を開けると、そこには綺麗なパステルカラーの…
「エメラルドグリーン…って、自分の瞳の色のワンピース…人に贈る?普通」
どんだけ独占欲つぇぇのよ。と思われちゃうよ?え?これを着ろと?ウンウン頷いて満足気なところ、すみませんがね、わたしの服はどこにいったのかしら?
コンコンコン
カチャ
『ーー?ールシェアーーーーーーーーー…』
『ッ?!アナ…ーーーーカナデーーーー『ーーーー?ーーーーッ、ーーーーーーー!』
ーーカナデーーッ、ーーーー………
パタン
えっと。ひと通り説明いたしますね。
ここで新たな登場人物が…わたしより少し年配の女性で、シアに向かってなにやら抗議?して、そして…シアが追い出された模様です。
わたしに向き直って満足気にニッコリと微笑むその人は、つかつかと寄ってきて、お辞儀を…そうスカートを持って広げて胸に手を当ててする、あのお辞儀をした。
服装はお仕着せ?というかいつか行った「オールドメイド喫茶」でメイドさんが着ていたような、萌え萌えじゃない長めのワンピースにエプロン。という出で立ち。頭には帽子。
あぁ、貴族邸のメイドさ…え?まさかココ…
改めて周りを見回してみると、広い部屋に広い窓、外にはバルコニーが見えて、ベッドはクイーンサイズ。ふかふかのとても寝心地いい、所謂…お金持ちの家風のでも控えめな洒落た調度品。
ハイ、決まりー。シアは…お貴族様ね。
んで、この人は
『カナデーー、ーーーーーーーーーーーー、アナーーーーーー』
「アナ?って、あなたの名前?」
さっき、シアもそう呼んでいた。自分の胸に手を当てて言っていたし。
ガシッ
ワォッ!?
わたしの手をガシッと掴んで、でも痛くないくらいの強さで、な、涙?ぐんで、うんうんと頷いている。から、たぶんアナさんなんだろうね。そして、たぶんわたし付きのメイドさん?
「アナさん?よ、よろしくお願いします?」
通じてるかな?首を傾げると、キラーンと目が光って、掴んだままの手をブンブンと振って、ちょ、痛いね。でも、ま、なんとか通じたんだろうからよしとするか。
それからアナさんは、ハッと我にかえり、ひたすら平伏して謝られた。ふふ、面白い人だ。ゆっくりわたしを起こしてくれて(あ、もちろん腰にはシーツを巻いたままね)、隣の部屋へと案内してくれた。
「すご…なにコレ。だれか使ってる部屋なのかしら?」
綺麗な落ち着いた、リビングのようなソファセットやダイニングテーブルが並んでいた。それを抜けて、まだ先に案内されドアを開くと
「うわぁ…綺麗。バスルームかな。いい香り〜」
むきっ
へ?
プチプチ、バッ、サッ
えっ
ぽーいっ
な、なにが起こったのかな?すっぽんぽんですけどーぉぉぉぉぉぉ!?わたしッ!
目にも留まらぬ早技ハットリくんばりに、アナさんに剥かれてバスルームに、ぽーいと放り込まれましたわ。恥ずかしがる暇も隙も与えぬとは。恐るべし、メイドさん。
ちゃぽん…
ハァーーーーーーッ…
あったか気持ちいいぃ…おずおずと湯に浸かる。あ、一応、湯にはかかったよ?ただ、石鹸とシャンプーとかなくて、とりあえず湯浴びしただけだけど。
もちろんシャワーなんてものもないし。
だからかぁ、シアがシャワーに驚いてたのは。え?あー、まぁ、一応お風呂に入れてあげたし。わたしは服着てたけどね。シア?は、下だけはタオル絶対取らなかったね(笑)だから未遂よ?
『カナデ、ーーーーーーーー?』
カタンと、音がした方を振り向くと、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ちょ、なんでっ、ココにシアがッ!?
あわわわ…と、シアに背を向けて、タオルッ、シーツ!なんでもいいからなんか隠すも、の…え?洗面器?100%じゃないんだからー!!!
クスクス…
『ーーーーーー。ーーーーーーーー』
なんか笑って、シアが去って行った…。なっ、なにしに来たのよ?
『カナデーー?ーーーーーーーー?ーーーーーー』
「アナさっ、さっきシア…ルシアがっ」
『アルシェアーーッ!?…ーーーーーーァァッ』
あら?アナさん…お怒り。ん?てか、ある、しぇあ?ちょっと聴き取りづらいけど、もしかして、アルシェア?がシアの本名?なのかしら…って!そんなことより!
『カナデーー、ーーーーー、ーーーーーーーー』
ニッコリ。アナさん、そのニッコリ。ちょっと…コワイ。
ザバァーー
あいやーーーーー…っ!
ちょーー、ぶっ!
………
「ふぅ…つ、疲れた。なんで風呂入って疲れなならん…」
あれから、アナさんに強制的に髪やカラダを捏ねくりまわさ…洗われて。今、ぐったり…抵抗する気もなく、ご機嫌アナさんに髪を解かしてもらってまふ。
お貴族様って、メイドさんに全部やってもらってんのかね…。シアも、だから大人しかったのか。下のタオルは最後まで抵抗したけど。
コンコンコン…
カチャ
『…ーーーーーーーーーーッ、ーーーーーー!?』
『ッー!ーーーーカナデーーーー??ーっー…ーー』
部屋に入ってきたシアに、アナさんが詰め寄って、たぶんさっきのバスルームの告げ口のことかな?怒られてる。タジタジってこういう時に使うのか。
「ふふっ…」
あら?二人がわたしを見遣って止まった。どうした?二人の顔がまったく同じように呆けてて、面白っ(笑)
ふぅ…と、今度は二人がため息ついて、それぞれわたしに向かってきて、アナさんは髪を解かして、いい香りのするオイルを塗ってくれた。
シアは、エメラルドグリーンをキラキラとさせて、壁に寄りかかり、ご機嫌?な感じでそれを眺めていた。
金髪もちょうどバルコニーから入る光を受けて、透き通るように…サラサラと風に揺れて、陰を落とした顔は、ドキリとさせる大人の男性の色気を感じさせた。
金髪、碧眼はイケメンのテッパンだね。
壁に寄りかかるイケメン像が大好物です。
はぁ、好き…