はじまりの出会いは
突如始めた更新がどこまで続きますやら。
ご都合主義はお許しください。
それはそれは綺麗な少年だった。
母が迷子になっていたその少年を連れ帰ってきたのは、わたしが就職してすぐの頃だった。
警察に届けたが、少年が不安げで儚く見えたため、情に厚い我が家の母が一時的に保護する形で、連れ帰ってきたというわけ。
少年は外国から来たようで、金髪のサラサラとした短髪、エメラルドグリーンでいて光の加減で深みが出るような碧眼、色素薄めの凛とした雰囲気のある子だった。
何よりも衣装が…そう衣服というより衣装と言った方が説明しやすい服装で、短めのジャケットには肩や胸にフリンジやボタンなどで装飾が施され、前はきっちりとボタンで閉じられており、折り返した袖は赤黒い。…そう、全体的に白や明るめの濃紺でまとめられた衣装は、ところどころ赤黒く染まっていた。
ズボンはピッタリとしたタイプで白く、膝上くらいまでのブーツを履いていた。
そして…不思議な筒?鞘?のようなモノを腰から下げていた。まるで剣か刀が挿せるような。
どっかで見たような…あぁ、そう中世の騎士か王子様が着るような衣装だ。
その少年は、表情は無表情に近く、でも瞳の中は少し揺れていた。と言うのも、言葉が通じないらしく、少年とのコミュニケーションは表情から読み取るしかなかった。少年の声は警察に連れて行く前に母が聞いた、名前らしきものを発声した時だけで、それ以後は無言を貫いていた。
『Rーー…シア…』
「ん?り?る?シア?」
『シア…』
なんとかシアと聴き取れた名前だけで、後は言葉を発することなく、黙りだったそうだ。
そんな少年が…わたしの前に母と立っていた。
「さぁ、シアくん?お入りなさいな。狭い家だけど」
母がそっと背中を押して、靴を脱いでみせた。それを見遣って、少年もブーツを脱ごうとして、戸惑う。ブーツならファスナーとかありそうなのに何もなく、その少し泥がついて赤黒くなっているブーツは革なのか…脱ぐのに苦労していた。
「ココ…座って脱ごうか?」
「そうね、花奏ちょっと手伝ってあげて。お母さん夕飯の準備するから」
わかった。と頷いて、少年を見遣り…同じ目線に合わせるためにわたしは膝を曲げた。初めて視線が合った少年は…ジッとわたしを見て
「え…何、今の笑い。なんか…」
感じ悪くない?
ちょっと大人びた、片方の口角を上げるような笑い方をした。が、すぐにそれが引っ込む。
「姉ちゃん、その子が迷子なの?」
「そうだって、暁ちょっとこの子のブーツ脱ぐの手伝ってくれるー?」
「いいけど、どうしたのさ?その服…汚れてるよ?大丈夫なの?ケガは?」
そう言って、部屋から出てきた弟が少年の体を遠慮なく触る。我が弟ながら、すげぇ度胸と厚かましさだな…と感心していたら、少年がパッと腰に手をやり、そこを見遣って明らかに顔色が蒼ざめていく。嫌だったのかな?と見てたら、ガシッとわたしの腕を掴んで…
『ーーーーーーーーッ!?ーーーーー…ッ』
「え?ど、どうしたの?ちょ、ちょっと待って!お母さんっ!この子…、あっ待ちなさい!」
「どうしたの…?ん?どこ行くの?何か探し物なの?」
テレパシーなの?というくらい、少年の言動…と言っても言葉はわからないが、今まさに家を飛び出そうとしている少年の様子から、母が何かを察していた。
「今まで気付かなかったのね…よほど大切なものかしら?」
「どうする?この感じじゃ、あいたっ、止まらないよ…って、痛いってばっ」
必死に少年を抑えている、背後から羽交い締めしてるんだけど…わたしを振り切ろうと、手や腕を引っ掻いて暴れる。
「どこで迷子になってたの?ちょ、痛い。暁、この子の前でドア抑えて」
「わかった。ね、ちょっと待ってて、一緒に行くから。ね?」
ちょうど少年と同じくらいか、少し年下であろう弟が目の前で、少年の目を見ながら話しかけている。
あら…止まった。
「そう…行くしかないわね。どうしようかしら…夕飯の準備出来ないわねー」
ガチャ
「あれ?みんな揃って何やってんの?お出迎え?嬉しいなぁ」
呑気な父のお帰りだ…。
というわけで、呑気な父にひと通り説明した後、父とわたしと弟で、少年を拾った場所まで行くことにした。
「なんでこんなところにいたんだろうね?はぐれるにしては、ちょっと拓けすぎてて迷子になりようがない場所だけど?」
「君はここにいたんだね?どなたか一緒だったのかな?」
呑気な父が、少年の目線に合わせてしゃがみ話しかける。フルフル…と首を振る少年は、、、(なんで笑わないんだろね。わたしだけなの…?)父の言葉がわかっている風ではなく、なんとなくで返しているようだった。
「何を探せばいいのか…てか、本当に探し物なの?」
周りを見渡しても、何もなさそうだった。だって、ここ空き地だよ?草むらもなく、最近草刈りしてたの見たし。たぶん何かの店か家か立つ予定なのか。まぁまぁの広さがある、そんな空き地だった。
キラッ…
ん?何か光った?…暗くなりかけた空き地の端で、何かが光った気がした。そっちに歩き始めたわたしを、見ていた少年が、後から走り抜けて行った。そして、ガサガサと土を掘り始め、グイッとそれを引き抜いた。
「え?剣?刀…じゃないか。そんなモノ、どうして」
『…ーーーー、ーーーー…』
少年がそれを抱きしめて、何やら囁いている。呪文?唱えると、それをどこからか出した布で拭って、腰の鞘に挿した…そう、剣を見れば鞘だとわかる。
「君はどこから来たの…」
それから奇妙な少年との生活が始まった。
次はイマに戻ります。