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8.ヘアー&エイリアン その2

連載開始して間もないのに、ブクマ・評価ありがとうございます٩( 'ω' )و


 きっと、前世の記憶がなかったら、ここまで積極的に相手を殴れなかったかもしれません。


 ですが、今の私は躊躇いはありません。


 なにせ、前世の私は――

  ――通り魔に刺されて殺されたのですから。


 事故とか病気とか寿命とかなら、まだもうちょっと自重があったかもしれません。ですが、誰かに殺されるという経験をしているのです。殺されてしまうのは嫌なので全力で抗いますよ。


 フロンティア・アクターズの世界は、現代日本準拠です。

 そもそも、舞台が現代日本なのですから当たり前ですが。


 そこにある法律なども、基本的には前世の日本と同じモノ。

 暴力や殺人は法によって取り締まられています。


 ですが、反撃しなければ殺されるかもしれない状況で、常識も何もありません。


 ――死ねば終わり。

 そう。死んだら全てが終わりなんです。


 残された人々の心に様々な影響を与えるかもしれませんが、死んだ本人は何もできなくなるのです。


 前世の記憶を受け継いではいますが、この世界から前世の世界へと干渉することはできないのですから。


 今世でもそれは同じでしょう。

 死してしまえば、もうこの世界に干渉のしようがないのです。

 多少の例外はあるかもしれませんが、例外は例外でしかありません。


「とっとと立ちなさい。

 手にしたチカラの重みと責任を頭で理解する気なんてハナからないのでしょう? ですので……直接、その身体に刻み込んでさしあげます」


 だから、私は抗います。

 この世界で、開拓(フロンティア)能力を身につけた人間の一人として。


 ゲーム通りに物事が進めば当たり前に降り注ぐ火の粉だけでなく、ゲームでは知りようがなかった、『十柄鷲子』に降り注ぐ全ての火の粉を振り払って。


「お嬢さん、意外に過激? でも悪くない……なんだろうこの胸のトキメキ。年甲斐もなく興奮してしまいそうな……?」


 なにやらギャラリーのおじさんが変なものに目覚めかけてますが、とりあえず脇へ置いておきましょう。


「クッソッ! 何でこんな痛ぇめに遭わなきゃいけねぇんだよッ!」


 罵るように呻きながら、美容師の男性はゆっくりと立ち上がります。

 その両手で、私の切り落とした髪を抱え、それに顔を埋めながら。


「すーはー……すーはー……。

 ああ、良いな。良いな。

 シャンプーを含め、リンスもトリートメントも髪質にあった完璧な選び方だ。しかも、高めの、だけど高いだけでなく確かな品質のモノを使ってる。

 すーはー……すーはー……。

 手触り、肌触り、髪そのもの香り、シャンプーなどと混ざり合った香り、味、触感、全てが最高レベルだ。

 髪への労り方がハンパない。最高だ」

「気持ちの悪い褒め方ありがとうございます。

 ちなみに、それらを選んでいるのは私ではなく、家で雇っている家政婦さんです。私の髪に合ったものを選んでくれているそうですよ」

「そりゃあ良い。すごいよその人。最高だ。分かってる。友達になれそうだ」

「たぶん無理かと。貴方は女性から生理的に嫌われるタイプでしょうし」


 ズバっと口にすると、何故が美容師の男性よりも、聞いていたおじさんが顔をしかめました。


「言いにくいことをズバっと行くね。

 女性から生理的に嫌われるってフレーズに、不思議とおじさんが傷ついた」


 とりあえず、無視しておくことにしましょう。

 美容師の男性も、無視するようですし。


「髪を愛する家政婦にケアされた、こんな素敵な髪の持ち主だっていうのに、やっぱり髪から下は不要だ。乱暴がすぎる。残念だ。

 すーはー……。すーはー……。

 あー……落ち着いてきた。やっぱり髪は神だ。顔を埋めて深呼吸するだけで気持ちが落ち着く。これがあるから髪を触るのはやめられない」


 そうして美容師の男性は顔をあげて、こちらを睨んできます。

 その手の中の私の髪の毛が(うごめ)きながら、互いに結ばれあったりして、形を変えていきます。


 やがて彼の手の中の私の髪の毛は、髪の毛でできた文字通りのエイリアンのような姿になりました。

 手のひらサイズ……ではありますが。


「ヘアー&エイリアン……リトル・ヘアリアンモード。

 こいつらは、持ち主の髪の毛へと戻ろうとするんだ」


 そうして、彼の手から無数のリトル・ヘアリアンとやらが、飛び降りて地面を駆けてきます。


 目的は、私の髪の毛なのでしょう。

 一匹一匹が握り拳にも満たないサイズのこれを真っ正面から捌くのは非常に面倒そうです。


 でしたら――


 そう思って一歩前に出たところで、文字通り後ろ髪が引かれるように感じて、足を止めました。


「目の前で作ってみせてやったけど、実はもうすでに数匹作って走らせてたんだ」

「身体が……」

「元の髪の毛と触れ合うことで、ヘアリアンは元の髪と融合しながら浸食し自分の身体へと変えていくんだ」

「…………」


 つまり、私の髪の毛には気づかないうちに、ヘアリアン化した髪の毛がくっついていたということでしょう。


「変質した髪が頭の内側から脳へと進入する。変質した髪の毛はそのまま脳を縛りあげ、髪の毛を優先する思考に染まっていく」

「…………」

「暴力とかも意識から抜け落ちていく。身体も動かないだろ?

 髪の毛を超大事にする俺を傷つけられなくなってるわけだ」

「…………」


 確かに何かが頭の中へと入り込んでくる不快感はあります。

 身体の自由も利きませんが、意志の自由は残っています。


「そして髪の毛のコトを思いすぎるあまり、俺の言うことも聞くようになるって寸法だ。

 お前も、髪の毛好みの女に変えてやるからよ、喜んでくれ」

「……なるほど。

 なら、まだ意志の自由が効くうちに、貴方を殺すコトにしましょう」


 ここまで来たら、容赦なんてする気はありませんから。


「あ、ちょっとお嬢さん。その殺気はまずくない?」


 相変わらずおじさんの声が聞こえてきますが、今はそれどころではありません。


「おいおい?

 身体は動かないんだろ? どうやって俺を殺すつもりだよ?」


 思わず嘆息が漏れます。

 この人は、本当に考えなしなのですね。


静かに栄える植物園(プラント・プラネット)――私はそう名付けました」

「何の話だ?」

「開拓能力の話ですよ。貴方が自分の開拓能力にヘアー&エイリアンと名付けたのと同じように、私も名前を付けているんです」

「お前……何を……え?」

「身体、動かないでしょう?」


 こちらも、すでに彼の衣服に触れています。

 私の言葉をキッカケにハッとしたように自分を見下ろして、彼は自分の洋服の一部が植物に変わり、全身にひっそりゆっくりこっそりと絡みついていっていることに気づいて慌てだしていますが、あとの祭り。


「我慢比べと行きましょう。もっとも、自慢げに手の内を開かしてくれたので、私の方がだいぶ有利でしょうが」


 そう告げると同時に、私は自分の髪の毛に対して、静かに栄える動物園(プラント・プラネット)を発動させました。



【TIPS】

 こんなキャラしてるけど、美容師のあんちゃんは、自分の店じゃ『髪へのコダワリがハンパなく髪愛がちょっと行き過ぎた変人ではあるけれど、同時に超絶有能で尊敬できる店長』らしい。

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