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69.あまいあやかし その3


《View ; Syuko》


 倉宮先輩と果府に行った日から一夜明けて、日曜日となりました。

 昨晩はついつい調べ物に熱が入り夜更かししてしまいましたが、何てこともなく起床です。


 前世のことを思い出すと、夜更かししようものなら翌朝がシンドい感じになってたので、若さとはこういうことか……! となっています。

 今日に限ったことじゃないのですけど、毎日のうっすらシンドイ感じがないのって素晴らしいと前世の私が騒いでます。ビバ若さ!


 さておき。

 私はベッドから降りると、時計代わりに自室にあるテレビを付けます。

 すると、女児向け格闘型変身ヒロインのアニメをやっていました。


 それを横目に、着替えをします。


 そうそう。

 この世界でも日曜日の朝(ニチアサ)のヒーロー・ヒロインタイムはあるんですよ。

 今やっている格闘型変身ヒロインのあとは、五人揃って戦う特撮ヒーローの時間です。


 ただ、前世ではこの二つの間にもう一つ、特撮ドラマの仮面闘士リオンシリーズが放送していたのですけど、この世界ではやってないのです。

 シリーズ一作目で主人公を演じた俳優さんが、撮影中に大怪我した過去を持つ番組でしたからね。この世界ではそのまま打ち切られたのかと思いきや、そもそも存在していないようでした。


 こういう些細なところで、前世とはそっくりだけど全く違う世界なんだなというのを実感します。


 ただ不思議と、ネットの検索には引っかかるんですよ。だから仮面闘士リオンという単語そのものは存在しているようなのです。

 でも、マンガやアニメ、ゲームなどで展開しているワケでもないようで……。

 そして出てくるのは胡散臭い感じの都市伝説的なモノのまとめサイトや、フォークロアのまとめサイトばかり。


 この不可解な状況は大変気になるものの、そこまで本腰を入れて調べる必要があるわけでもなく、そのままになっています。

 とはいえ、こうやってニチアサを見る機会があると、やっぱり気になってしまいますね。


 槍居先輩のおじさんの件が片づいたら、少し調べてみるのも面白いかもしれません。


 ともあれ、優先すべきは槍居先輩絡みの方です。

 昨日、コスモバーガーでお会いした際、色々と話をさせてもらいましたが――どうにも、倉宮先輩に依頼した記憶がないようでした。


 勘違いとか、思いこみとかではなく、本当に心当たりがなさそうで……。

 ならば倉宮先輩に依頼したのは誰なのかという話になるのですが……。


 ただ倉宮先輩も倉宮先輩で、自分に依頼を持ってきたのは間違いなく槍居先輩だと言っていました。

 どちらも嘘を付いている様子がないことが、ますます私たちを混乱させる要因となっています。


「誰かが何らかの能力を使って槍居先輩に化けた……。

 だとしても、何のために――という部分がわかりません」


 何パターンかの推測はできるものの、確証も証拠もなく。

 そして、どれであったとしても動機の説明が付けづらいんですよね。


 とはいえ、このまま自室で考えても答えが出るようなことではなさそうです。

 まずは、寄誓さんについて調べるとしましょう。


 着替えと考えごとを終えた私はテレビを消して、自室を後にするのでした。




 さて。

 寄誓(キセイ)小依子(サヨリコ)さんについては、昨日の段階で多少の調べがついています。


 住まいの最寄りは栗摩センター駅。

 駅から徒歩十分ほどのところにあるアパートに一人暮らし。


 職場は栗摩センター駅から三駅隣の南大川駅。

 駅前ショッピングモール内のアパレルショップで働いているそうです。

 土曜日は出勤していることが多いとか。


 栗摩センターから果府駅までは電車で一本。

 特急に乗ることができれば十分かからない距離ではありますね。


 まぁそんなことより――この時点で昨日得た情報と食い違っているんですよね。

 槍居先輩の叔父さん――遊堯(ユタカ)さんと同棲しているという話はどこへ行ったんでしょうか。


 そして、昨日も職場に出勤していたらしいんです。


 勤務時間は十三時から二十一時。

 お会いしたタイミングとしては、まだ遅刻しないで間に合う時間ではありましたが……。


 この辺りの疑問を解消するべく、一人暮らししているという寄誓さんを直接調べに行ってみるというのが今日の予定です。


 まずは朝食。

 それから、手伝ってくれそうな方に声でも掛けて、出掛けるとしましょうか。




 桜谷駅からバスに乗り栗摩センターまで行き、そこから電車で南大川へ。


 駅前のショッピングモールへと入ると、寄誓さんが働いているというお店の名前を探して、その場所へと向かいます。


 今日は開店から出勤しているはずなので、様子を伺いたいところなのですが……。


 お店の近くまで来た時、私のスマホが振動しました。

 どうやら、果府駅に行ってもらっていた和泉山さんからのようです。


 Linker(リンカー)にメッセージが届いていました。




和泉山

《成夜美荘から、寄誓小依子が出てきました。尾行します》

 



 今、寄誓さんは果府にいるのですね。

 ……だとしたら、あのアパレルショップで働いている寄誓さんはどういうことなんでしょうか。




鷲子

《今、南大川のアパレルショップに来ています。

 寄誓さん、ふつうに勤務しているようです》




 和泉山さんからのメッセージにそう返信すると、すぐに和泉山さんから戸惑ったようなメッセージが届きます。




和泉山

《では自分が尾行している女は誰なんでしょうか?》


鷲子

《わかりません。そちらの寄誓さんは目で追ってるとクラクラしません?》


和泉山

《確かに妙に目眩がするような感覚に何度か》


鷲子

《こちらの寄誓さんからはそういったものを感じません。

 もしかしたら本当にそちらの寄誓さんは昔話に出てくるアマヤカシだったりするのかもしれません》


和泉山

《アマヤカシが実在するかどうかはともかく、同じ人物が別の場所に同時に存在しているのは不可解です。このまま尾行を続けますね》


鷲子

《お願いします。ですが無理はしないようにしてください。

 アマヤカシであれ能力者であれ、そちらの寄誓さんが怪しい存在であるのは間違いなさそうですので。

 ほどほどで切り上げてくれて構いません》


和泉山

《了解です》




 Linker(リンカー)でのやりとりを終えてから、私は顔を上げます。

 すると、寄誓さんが首から下げていた名札を外して上着のポケットにしまっています。


 雰囲気からすると、これから休憩のようです。

 フードコートにでも行って昼食でも取るのでしょう。


 ……移動中の、今がチャンスかもしれません。


 私は思いきって声を掛けることにしました。


「あ、あの……!」

「はい?」

「寄誓さんですよね?」

「そう、ですけど……?」


 この様子から、私のことは知らないように見えます。

 ……槍居先輩のリアクションを思い出しますね。


 なら、もう少し踏み込んでみましょう。


「先日はありがとうございました」

「先日?」

「ええっと……あれ? 寄誓さんですよね、先日叔父さんと一緒にいたのって?

 今度、同棲されるとかなんとかって……」


 思い付きの出任せを口にすると、彼女は何か合点がいったような顔をしてうなずきました。


「そういうコトね。

 ごめんなさい。たぶん、貴女の叔父さんと一緒にいたのは双子の妹だと思うわ」

「あ! そうだったのですね。すみません、私ったら……」


 双子の妹……ですか。


「いいのよ。良く間違えられるから」

「そうなんですね。ええっと、妹さんのお名前は小依子さんでしたよね?」

「え? あの子、私の名前を名乗ったの?」

「それはどういう……」

「なんだか混乱させてしまってごめんなさいね。

 小依子は私よ。妹は美依子(ミヨリコ)というの」

「はぁ……」


 混乱中の演技……できているでしょうか。

 ですが、双子というのも怪しいんですよね。


 何せ昨夜調べた寄誓さんの個人情報には、一人っ子だと書かれていましたから。


 ならば、その双子の妹とは何者か――


「と、とりあえず……私がお会いしたのは妹さんだったんですね」

「ええ。そのはずよ」

「だとしたら見ず知らずの方にお声かけしてしまったようで……。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「そんなに気にしなくていいわ。妹が変な名乗りするのが悪いんだもの。

 後日、家族会議かもしれないわね。貴女の叔父さんにも迷惑かけちゃうかも」

「そうなんですか?」

「まぁ、なるようになるわよ」


 そう言って微笑む姿はどこか妖艶でした。

 果府にいた妹さんのようなクラクラするようなものはないものの、その蠱惑的な雰囲気はどこか魔的なモノを感じます。


 直感的なモノですが、やはり妹さんとは無関係ではなさそうです。


「そういえばお仕事の休憩中なんですよね。

 これ以上、邪魔するのも申し訳ありませんので、私は失礼しますね」

「ええ。年の割にはずいぶんと礼儀正しいというか大人びているのね、貴女」

「はい。よく言われます。

 では、失礼しますね」


 ペコリとお辞儀をして、私はその場を後にすると、フードコートから離れるように移動します。


 階段そばのベンチを見つけると、そこへと腰を落として大きく一息。

 倉宮先輩はサラっとやってましたけど、アドリブでそれっぽい会話をするのってすごい難しいですね。


 スマホを見ると、寄誓家に付いて調べて貰っていた和泉山さんの同僚である紫江(ユカリエ)さんからメッセージが届いていました。




紫江

《寄誓家は、かつて槍居家の分家だったようです。

 原因は不明ですが過去に独立したという情報があります》




 つまり、両家は祖を同じとする家ということですよね。

 そうなってくると、『小依子さんの双子の妹』と『槍居先輩のソックリさん』は同質の存在の可能性とか出てきません?


 どちらも、本人が認知していないところで何かをしているもう一人の自分――という解釈もできる気がします。

 うーん……槍居家についてもちょっと調べて見るべきかもしれませんね。




紫江

《また、十柄家は過去に数度、槍居家からの要請を受けて、何らかの事件の解決協力をしているようです。

 その為、別邸にも本邸にも色々と記録が残っていました。

 とはいえ関わった一番新しい事件は百年近く前なので、記録としてはともかく知識として知っている者ももう居ないかもしれませんが》




 意外にも十柄家(うち)も関わっているようです。




紫江

《両家に関する情報を調べていると『影生霊(かげしょうりょう)』『見知らぬ双子』『ドッペルゲンガー』『似影(にかげ)』『甘夜化(あまやか)し』といったワードが頻出します。

 これが何を表しているかはよく分かりませんが、そういうものが発生しやすい家系というような記述を見つけました》




 私は紫江さんに、その辺りの情報を纏めておいて欲しいと返信し、これから帰ると伝えます。


 何となくピースが揃ってきた気がしますね。

 和泉山さんにも、適当なところで切り上げて戻ってくるように伝えておきましょう。


 槍居先輩のご身内に、一族の秘密について詳しい方でもいてくれると助かるのですけど……。


 もしいるのなら、協力を求める必要があるかもしれません。





【TIPS】

 南大川は大型ショッピングモールのほか、アウトレットモールなどもあり、わざわざ都心の方から郊外のこの駅へ買い物にくる人も多いらしい。


 そして余談ながら栗摩センターは、まだ姿を見せないHEROの下宿先がある町である。



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