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64.上映中はお静かに - サイレント・ライブ - その1

紳士編が一段落したので新章というか数話で終わる小エピソード的なやつをどうぞ

ちょっとホラー風味かも?


《View ; Syuko》


「……結局、どこへ行くんですか?」


 今にも雨が降りそうなどんよりとした曇天の休日。

 各駅停車の電車に揺られながら、私は隣に座る草薙つむり先生に問いかけました。


「映画」

「映画?」

「おう」


 草薙先生にちょっと出かけようと誘われて、和泉山さんと一緒に出てきたワケなんですが……。


 電車に乗った時点ではまだ行き先を教えてくれなかったのですよね。

 そうして改めて訊ねてみれば、こう返ってきたワケで……。


 まさか映画だとは思いませんでした。


「何を見るんですか?」

「行った先でやってるのをてきとーに」


 何とも怪しいと言うかなんと言うか……。

 そこでふと気づきました。


「もしかして……目的は映画じゃなくて映画館だったりします?」

「さすが鷲子ちゃん。鋭いね」

「お嬢様でなくても、さすがに分かるぞ」

「そりゃ何よりだ」


 ようするに、草薙先生の好奇心を刺激する変わった映画館に取材しにいくという話なんでしょう。


「取材ってお一人で行かれるものじゃないんですか?」

「そういう時もあるし、こうやって知り合いを誘う時もある」


 なるほど――と納得し、私は一つうなずきました。


「どこの映画館に行くんですか?」

「キネマ・沈珠(しずたま)って知ってる?」


 全く聞いたことのない名前です。

 チェーン展開しているような映画館ではなく、個人経営の小さな映画館なのでしょうか?


《次は、暮井部(くれいぶ)霊園。暮井部(くれいぶ)霊園。お降りの際はどなた様もお忘れ物なさらないようにお願いいたします》


「ここだここだ。降りるぞ~」

暮井部(くれいぶ)霊園?」

「この辺りに映画館なんてありました?」


 私と和泉山さんは顔を見合わせつつも、草薙先生を追いかけます。

 そして、改札を抜けながら、草薙先生がいいました。


「あたしも知らなかったんだけどさ、実はすっごいおんぼろな映画館があるらしいんだよ。

 一般上映が終わったような映画を格安で上映しているようなとこらしいんだけどさ」

「はぁ……」


 何はともあれ、その風情あるおんぼろ映画館とやらに行くようです。




 そうしてやってきたのは暮井部霊園の前。

 駅名の割にはここまで結構歩くんですね……。

 十五分くらいは歩いてきた気がします。


 とても広い霊園で、道が整備されており自然も豊かな為、散歩道としても解放されている場所です。


 教科書にも乗っているような方のお墓などもある為、その人物がキャラクター化した作品のファンにとっては、聖地の一つになっているとか。

 まぁ今回はその手のお墓に用はないのですけれど……。


「それで白瀬。映画館とやらはどこだ?」

「霊園を抜けていくのが近道らしいんだけどな」


 ちょっと待ってくれ――とスマホを取り出し、何やら操作を始めます。


「霊園内の大通りを進んで、二つ目の十字路を東へ曲がるとあとはそのまま真っ直ぐみたいだな」

「ようするに霊園の東門の近くってコトですか?」

「ってコトだと思うぜ」


 私の問いに草薙先生はうなずきます。

 でも和泉山さんはそこで首を傾げました。


「東門……?

 あの辺りは自動車教習場とリハビリ病院……あとは、それの関連施設しかなかった気がするが……」


 国道に面しているのもあって、並びにファミレスや食事処などはあるようですが、映画館があった記憶はないと和泉山さんは言います。


「白瀬。おまえは何を見てその場所を知った?」

「現代フォークロア収集サイト」

「ようするにオカルトサイトですか」


 私が嘆息すると、草薙先生は楽しそうに付け加えました。


「死者も利用するコトがある映画館なんだってさ」

「映画館があるかどうかも怪しいですね」


 そりゃあ草薙先生も言いませんよね。

 最初からそれを知ってたら私も断ったかもしれませんし。


「とはいえ、ここまで付き合ってしまいましたから」

「……ですね。最後まで付き合いましょう」

「いやぁ持つべきモノは付き合いの良いダチだよね」


 にへらと笑って調子の良いことを言う草薙先生に、私と和泉山さんは揃って嘆息するのでした。


 こういう流れになるって分かってて、ここまで黙ってたんでしょうね……。まったくもう。




 そうして私たちは霊園の中を歩いていきます。

 この広い敷地の中は、散歩道としても解放されている場所ですので、歩くことに何も問題はありません。


 草薙先生の調べ通り、二本目の十字路を東へと曲がりそのまま真っ直ぐに進んでいきます。


「雨こそ降りそうにないが……空気は冷えてきたな」

「今日は夜まで降らないという予報だったが……」


 草薙先生と和泉山さんが空を見上げます。

 この広くて屋根のない霊園内で雨はちょっと困りますね。

 せめて、どこかしらの門から外へ出たタイミングであれば、コンビニなどがありそうなんですけど。


「む?」


 歩いていると、寂れた売店のようなモノが見えてきました。


「敷地の外から見た時は気づかなかったが、東門近くのこの辺にも売店などがあるのだな」


 私たちが入ってきた正門は、お花やお線香だけでなく、お菓子やちょっとした軽食を取り扱っている売店がありました。

 それと比べると、だいぶ静かな感じはしますが……利用しているお客さんがチラホラとはいるようです。


 まぁ駅から真っ直ぐこれる上に、駐車場もある正門と比べてしまえば、賑わいに差があるのは仕方がないのでしょう。


「結構、レトロな感じだな。

 正門前の商店街も、昔っからやってそうな感じだったけどさ。

 ここの雰囲気は、それ以上だ」

「……そうだな。まるでこれは……」


 楽しそうな草薙先生とは裏腹に、和泉山さんは訝しげに目を眇めています。


「和泉山さん?」

「いえ……レトロや名残りではなく現役のように見えたもので……」

「現役?」

「すみませんお嬢様。何となくそう感じただけです」


 レトロも名残も、結局は現役で動いているのですから、和泉山さんの表現は少々おかしいですね。


 ……でも、何となく言いたいことのニュアンスはわかる気がします。


 確かにタイムスリップでもしたかのような空気があるような……。

 なんてことを考えながら周囲を見回していると、妙な寒さを感じて、私は身体を震わせました。


「うぅ……寒いですね」

「ああ。なんかすっげー、冷えてきたな……。

 とりあえずこの先に映画館があるはずなんだが……」


 とっとと中に入りたい――そんな調子の草薙先生。

 ただ、どうにも和泉山さんの様子がおかしいような……。


「和泉山さん?」

「お嬢様、妙な気配がしませんか?」


 言われて気配を探ってみますが特に何も感じません。


「私は特には……」

「……そうですか。

 ロケーションのせいか、妙に死の気配を濃く感じてしまってるようです」


 そう口にしつつもどこか納得いかないような様子でしたが、和泉山さんはすぐに頭を振りました。


「白瀬がさっさと行ってしまってますね。お嬢様、追いましょう」


 雨こそ降ってきていはいませんが、少し霧がかってきます。

 ここから東門までは一本道のはずなので、草薙先生とはぐれたりすることはないと思いますが――


「そうですね。行きましょう」


 霧に包まれ見失うと、草薙先生ともう会えなくなるような気がして、私は足早に歩き出すのでした。


【TIPS】

 霊園の東側は後年に追加された区画。

 駅が出来たことで主要商店が正門側に移ってしまったことで、寂れた商店街を霊園が買い取って拡張したとか。

 車の使用率があがった近年、東側も再び活気が戻ってきたようだ。


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