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51.放課後の屋上も悪くないです


【View ; Syuko】


 放課後なってすぐに帰ろうかと思ったのですが、お弁当にまったく手を付けてなかったことを思い出しました。


 そのまま持ち帰ると藤枝さんに心配をかけてしまいそうなので、食べてから帰るとししましょう。


 ちょっとお行儀は悪いですが、食べながら連絡が出来そうなところへは連絡をしちゃいましょうか。


 そうと決まれば――うん、屋上がいいかもしれません。


「?」


 なんて感じで歩き出した時、妙な違和感を覚えました。

 誰かに見られているような――後を付けてきているような……。


 でも視線の主のようなものは見つかりません。

 気配もぼんやりしてて、どうにも捕らえ所がないようで……。


 私は首を傾げつつも、とりあえず屋上へは行くことにしました。


 途中何度か訝しげに周囲を見回したものの、それっぽい存在はなく、気がつけば屋上の入り口のところまでやってきていました。


 屋上は時々、鍵が掛かっていますが今日は――うん。開いているようですね。

 外へと出て適当な日陰へと移動するとしましょう。


「…………」


 やっぱり、誰かがあとを付けてきているような……。

 扉をくぐった時、私の後ろに誰か居たような気がするんですよね……。


 小さく足音も聞こえた気もします。

 違和感はあるのに、正体がわかりません。


 ……まぁ今のところ実害はなさそうですが……。


 ともあれ、屋上の日陰でご飯です。

 春の夕方とはいえ、今日は日差しがまだまだ強いですから。


 屋上にはどういうワケか古い机や椅子などが置かれたまま放置されてたりするので、そのうちの一つ――比較的綺麗な机の表面を軽く手で払って腰を掛けることにしました。


「いただきます」


 膝の上にお弁当を広げて、手を合わせます。


 ちょっと傾き始めたお日様の感じも、放課後の学校特有の静かな喧噪も、普段とはちょっと違うロケーションって何だか良いですよね。


 それに――


 うん。藤枝さんのお弁当は、やっぱり美味しいです。

 母は早くに亡くなってますからね。

 私にとっては、きっとこれがお袋の味というものなのかもしれません。


 ふとそんなことを思いながら、お弁当を口に運んでいると、また妙な気配をまた感じました。


 監視――そんな言葉が脳裏に過ぎります。

 静音さんのような、うちが雇っているシークレットサービスの方々……というワケではなさそうです。


 それにしても巧妙ですね。

 漠然と視線や気配を感じ取れる時はあるのに、その位置などはまったく悟らせてくれません。


 せっかくのご飯を邪魔されているようで、面白くありませんね。

 どうしたものか――と、考えつつお弁当食べつつ、そしてスマホで必要な相手へメールを送りつつ……。


 薄らとした気配はその間もずっと感じていました。

 敵か味方かも分からなければ、この気配の目的もわかりません。


 悩みながらもお弁当を半分くらい食べた辺りで、屋上の出入り口のドアがガチャリと開き、誰かやってきました。


「あれは……?」


 毛先に行くにつれ色味が濃くなるアッシュブロンドに染められた髪に、少し濃いめの日焼け肌をした女の子です。

 短いスカートに、着崩した制服。特にブラウスは下着が見えそうなギリギリまでボタンを開けていました。

 瞳が大きく見えるようなアイメイクと、授業中以外は常に口にくわえている気がするロリポップキャンディー。


 私の知っている人です。

 同じクラスの、花道(ハナミチ) 華燐(カリン)さん。


 陽キャオーラ全開の彼女は、前世と今世のどちらであっても陰キャサイド所属の私とは相性が悪そうで、ちょっと苦手です。


 だけど、彼女に関してはちょっと気になっていることもあるんです。


 それが――彼女の綺麗な足。

 ミニスカート化した制服から覗くその足は、一見すると細身の女子高生の足に見えます。

 ですが、よくよく観察してみると、あれはアスリートの――特に格闘技などをやっている人の足。鍛え抜かれた細く柔らかくしなやかなもの。


 足運びも周囲にあわせているようで、何かあっても即座に動きだせるような動きをしているのです。

 なので、何となく気にしていたのですけれど……。


「あ、いるじゃん。

 お~い、十柄さ~ん」


 そんな彼女が何をしに来たんだろうと思っていたのですが、どうやら私に用があったようです。


 人懐っこそうな笑顔を浮かべ、手をひらひらやりながらこちらへとやってきました。


「……って、お弁当中?」

「ええ、まぁ。お昼に食べ損ねてしまって」

「そっか。じゃあ難しいかな」


 残念そうにだけど、こちらを邪魔する気がなさそうな感じで肩を竦める彼女に、私は首を傾げました。


「難しい? 何がですか?」

「あのさ、ちょっとお願い事があるんだ」

「私に、ですか?」

「そ。むしろ十柄さんにしかお願いできないやつ」


 花道さんが私にしか頼めないお願い……って、何なのでしょう……?


「内容を聞いてよいのでしたら、聞きますけど」

「ほんと? やった!」


 私の言葉に、花道さんは「いえーい」と嬉しそうに手を振り上げてから、切り出しました。


「あのさー……あ、お弁当食べながらでいいよ。

 でもって、横座るね。失礼しまーす」


 切り出してくるように見せて、マイペースに私の横に座りました。

 まぁ机が横長ですし、邪魔にはなってないので良いんですけど。


 このグイグイ来る感じ、実はちょっと苦手意識が……。


「あたしの趣味。まぁ――一応、ゲーセンプライズのぬいぐるみ集めって言ってるんだ。それはそれでマジだし? カワイイのとかヘンテコのとか好きだし?

 だけどさ、もう一個あるのよ。こればっかりはあんま表に出しづらい奴だし、一人でやることもできなくてさ」

「はぁ」


 ここまでは正直要領を得ない話で、私は生返事しか返せません。

 ただ、一人ではやることもできない趣味というのは些か気になります。


「そんでさ。その趣味ってやつが、ゲーセンプライズのぬいぐるみ集め以上にマジなやつなんだよね~。

 ただ、滅多に出来ないし、出来ても楽しい場合がめっちゃ少ないワケ」


 ふむふむ。

 ゲームセンターの対戦ゲームとかでしょうか?

 ソロプレイよりも対戦がしたいのであれば、そうでしょうね。

 ただ、今はネット対戦でいくらでも対戦相手を募れますし、別に私である必要もないですよね。

 そもそも、私程度では彼女を満足させられるような対戦ができないと思いますし……。

 そう考えると、これではなさそうですが……。


「それで、そのマジの趣味というのは何なのですか?」

「ストリートファイト」


 …………………………はい?


「なるほどギャル界隈では、高級ブランド店が並ぶ通りを誰かと連れだって歩くことをストリートファイトと呼ぶんですね」

「あははははウケる。今度それ使おう。誰か誘ってやるわ~。

 でもさ、今回のあたしの話にそれは関係なくってさ、マジのマジ。

 漫画とかゲームとかで良くある、ストリートファイトってワケだし」

「聞き間違えや、同音異句でもなく、本物のストリートファイトと来ましたか」

「十柄さん、マジ(ツヨ)っしょ? 興味湧かないワケがないじゃん」

「学校ではそういう振る舞いはあまりしないようにしてますけど」

「そうだね、結構気を使ってるんだって分かる。

 だから、みんなの前でこんな話してないんだ。嫌なんでしょ、十柄さん人前でこういう話すんの」


 こう言っては失礼なんですが、彼女なりに私に気を使ってこのタイミングで話しかけて来られたんですね。


「でもさぁ、何気ない足運びの時の体幹のブレなさみたいのとかさ、何気に静かな足音とかさ、ふとした拍子に見せるカッコいい横顔とかさ、あー……いいな、すごいなーって思ってたワケでさ」


 もしかしなくても、つぶさに観察されてたんでしょうか……。


白瀬(しらせ)ししょーとか、静姉(しずねぇ)さんも強いって言ってたからさー……興味津々なんだよね」

「……ん?」


 白瀬ししょーに静姉さん?


「あ、小説家の草薙つむり。十柄さん、知り合いっしょ?

 静姉さんは、十柄さん()で働いてるって言ってたけど、知ってる?」


 ちょっと予想外の名前が出てきましたね。


「もしかして、二人からのご紹介ですか?」

「違う違う。完全にあたしの独断。十柄さん見るたびに手合わせしたいなーって思ってたんだよね。イチジツセンシューってやつ?」


 何か格闘技はやってそうだなと思ってましたけど、まさかこの見た目とこのノリで、趣味がストリートファイトとか言い出すバーサーカーだとは思いませんでした。


 人を見た目で判断してはいけませんという教えが、いかに大事かよくわかります。


「本格的なのは後日として、今日は腹ごなし程度の軽いモノでよければ」

「え? マジでッ!? いいの? やったーッ!!

 それでも全然いいよ! っていうか後日にマジバトまでしてくれんの?」

「え、ええ……。はい」


 花道さんのテンションに圧され気味にうなずくと、彼女は本当に嬉しそうに目を輝かせました。


 まぁ悪い人ではなさそうですよね。

 私は胸中で苦笑しながら、お弁当の蓋を閉じて手を合わせます。


「ごちそうさまでした」

「偉いじゃん。ちゃんとやる人なんだね~」

「花道さんはしないんですか?」

「あたしはするよ? でも友達とかけっこーやらない子いるんだよね」


 お弁当を片づけカバンにしまうと、私は机から降りました。

 それを見て、花道さんもくわえていたロリポップをガリガリとかみ砕き、残った棒をカバンから取り出した袋へといれます。


「ゴミをちゃんと持ち帰るんですね」

「そりゃね。ポイ捨て良くないじゃん?」


 そう言いながらゴミ袋をカバンに戻した時、大量のロリポップが見えたのは気のせいでしょうか?

 授業中や食事中以外はいつも口にくわえているイメージがあったんですが、イメージでなく本当に授業中や食事中以外は口に入れているのでは……?


「それにしてもさぁ」

「? どうしました?」

「今舐めてた……テストフレーバーという触れ込みで限定販売されたバナナ納豆チョコレート味は、微妙だったし……」

「それは試験販売する前から結果が見えている味では……?」


 前世でも同じように変なフレーバーをやたら出す食品メーカーがありましたけど、良くもまぁ上のGoサインが出ますよね、そういうの……。


 相変わらずぼんやりとした視線がこちらを見ている気配を感じながら、私は小さく苦笑しました。


【TIPS】

 華燐ちゃんがいつも舐めているロリポップは、大玉キャンディに棒がついたタイプのモノで、チュパロリップスという商品名のシリーズ。日本に限らず世界中で販売されている。大本の販売国はスペイン。

 定番フレーバーとは別に季節限定フレーバーや、地域限定フレーバー、そして日本支社が試験販売という名で送り出す実験フレーバーなど数多くのマイナーフレーバーが存在する。



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