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49.その紳士たちに姿なく その3

【Caution!】

 魔術や呪いに関する下ネタ的な話題が出てきます

 R-15が面目躍如八面六臂の大活躍する気配するのでご注意を



【View ; Syuko】


「んー……これが鷲子ちゃんの管轄だとして、犯人は何をしたいんだろ?」

「雨羽霧香。そんなコトも分からないのか?」

「え? もしかして倉宮さんは検討が付いてるの?」

「ああ」


 雨羽先輩が首を傾げる横で、心底からつまらないといった様子で倉宮先輩がうなずきます。


「イタズラ。ただただそれだけだ」


 あー……やっぱ、そういう方向の推測になりますよね。


「これが……イタズラ、なの?」

「そうだ。その理由の一つ。それが淫紋にある」


 不安そうな絃色先輩に、倉宮先輩は気怠げに首肯しました。


「そもそも。呪い――あるいは魔術に関する歴史において。性を用いた魔術は数あれど。実は淫紋を取り扱った歴史は全くといって良いほど存在しない」


 前世でもそうでしたが、今世でも同じようですね。

 でも敢えて、こう訊ねてみましょう。


「性を用いた魔術――それこそ性魔術や黒魔術。あるいはタントラや房中術、スヴァディスターナなどと淫紋は異なるのですか?」

「何気に詳しいな。十柄」


 驚かれてしまいました。

 ですが、倉宮先輩はすぐに気を改めて私に答えてくれます。


「無理矢理分類するなら。淫紋はそれらと同類だろう。

 今あげた例でもっとも近いものなら。スヴァディスターナだろうか。これも無理矢理近いモノをあげればという話になるが」


 ちなみに雨羽先輩と絃色先輩は、ぽかんとした顔をしています。

 何語を話してるんだコイツら――という顔です。


 まぁ確かに、知らないと何言ってんだ……と思うでしょうけど。

 そんな二人を見て何を思ったのか、倉宮先輩は冷静に解説をしてくれました。


「インドのオカルトだ。

 スヴァディスターナ。あるいは第二のチャクラ。位置は仙骨。

 このチャクラの解放は。同時に。活力や性欲。創造性。官能。感情などの解放を意味する。

 ただし。こちらは解放を自発的に行うコトで。自己の精神の解放と発散をもたらし全身を良き気で満たす」

「そうですね。一方で淫紋は性器や脳へ直接作用し、強引に官能を引きずり出す――考えようによっては、施術者の思い通りに負の気を巡らせるという意味では、真逆とも言えますね」

「その通り。淫紋は性魔術ではあるが。従来の性を媒介にした術ではなく。性を悪用する術である。

 性の解放。すなわち絶頂をエネルギーとし。何らかの事象を引き起こす性魔術とは異なり。淫紋はそのエネルギーを呪いを深め定着させるコトに使われる。そういう意味でも単体で完結した術だと言えるな」


 ややこしい話のように見えますが、ようするに性魔術にとって性的絶頂というのはエネルギーを集める為の準備――まぁ魔法の詠唱のようなものという話です。

 そう考えた時、淫紋は、強制的に呪いを深める詠唱をさせ続ける呪いと言えます。加えて深まれば深まるほど呪いへの依存度もあがっていくという極悪さは、まさに呪いの名に相応しいのかもしれません。


「呪いや魔術のお話が、何でこんなお勉強みたいな話に……」


 絃色先輩が思わずといった様子で呻いていますが、それはちょっと間違いと言いますか……。


「否。魔術。呪い。オカルトとは。言ってしまえばオカルト学という学問であり。考えようによっては世界史に連なる学問である」


 実際、オカルトという名の神秘が信じられていた時代がある以上、実際の歴史に関わってきますからね。


「そして。長々と話してきたがそのオカルト学において淫紋というジャンルは。西暦2000年頃から観測がはじまったとされる。そういう分野だ」

「え? めっちゃ最近じゃない?」


 実際はもうちょっと前にもあったかもしれませんが、そこはそれです。

 完全な歴史の授業ではないのでザックリと。


「由来や大本を深堀りする気はありませんが、恐らくはパソコンゲームの中でも美少女ゲームと呼ばれるアダルトタイトルや、美少女系と呼ばれるアダルト系の漫画や小説などが発祥なのでは?」


 驚く雨羽先輩に、私がそう口にすると、倉宮先輩はその通りだとうなずきました。


「そう。だからこそリコの件はイタズラ目的だと断言できる」

「え? どうしてなの?」


 当の絃色先輩は理解が及んでないようですけれど……。


「ああ、そうか。

 リリコちゃんを利用して性魔術っていうのを使うのなら、そもそも淫紋が浮かび上がるコトはないのか」


 雨羽先輩が納得しているので、水を差す気も口に出す気もないのですが……。

 前世の記憶の中にはあるんですよね。淫紋を施した女性をエネルギー源として利用した魔術機関とかロボットとか。そういうのが出てくるフィクションが。詳細は語りませんけれども。


「そもそも。魔術をかじったコトがある者ほど。淫紋は新参。存在しないフィクション。そう思っている者も多いだろう」

「それを信じて施すのであれば、それは淫紋を聞きかじっただけの、オカルト素人ってコトだね」

「そうだ。加えて。犯人はその程度のイタズラで喜び。性的興奮を覚える。恐らくはただの童貞だろう」

「最後のプロファイリング情報はいらないかな」


 倉宮先輩と雨羽先輩のやりとりを聞いていると、恐らく犯人はこの学校の生徒――間違いなく男子なのでしょう。

 少なくとも、私と絃色先輩の両方に接触できるような人が、学校以外にはいないだろうという仮定ですが。


「イタズラ目的なら、どういう能力なのか詰めていけば、犯人を絞り込めそうですね」

「ん? 超能力とは。自由に使えるモノではないのか?」

「そう思われるのも無理はありませんが、超能力もまた、魔術などのオカルト能力同様に、使用には能力ごとのルールや制限があるんです。

 超能力に限らず万事万能な能力というのは、恐らくこの世には存在しないのではないかと」

「道理だな」


 私と倉宮先輩がそんなやりとりをしている横で――


「キリちゃん。十柄さんって本当に一個下? 倉宮さんもちょっと同い年とは思えないというか……何を話しているのか分からないんだけど」

「安心してわたしもついていけてないから」


 ――そんなやりとりをしていました。


 おかしいですね。そんな難しい話をしているつもりはないんですけど。



 ともあれ、お話の続きです。


「犯人の能力。これは、対象にラクガキを施すという微妙なモノと断定して良いかどうかですが……」

「能力の片鱗と呼ぶにも微妙な効果じゃないかな、これ。

 気づかれずにラクガキをする以上の効果って何だろうって感じだし」

「同感だ。断定して良いのでは?」


 雨羽先輩と倉宮先輩は断定してしまえと言うので、ひとまずそうすることにします。


「では、ラクガキ能力であると仮定した時、その発動条件は何か、ですね」

「ふむ。十柄には線が一本。リコには絵がしっかりと。この差が発生するような条件がある。というわけか」

「分かりやすいところで言えば接触型だけど……その場合、接触時間が長さと絵の完成具合が比例するんじゃないかと推測はできるけど」


 雨羽先輩や私の能力も言ってしまえば接触型。

 だからこそ、能力と効果のバランスを推測しやすいと言えばしやすいのですけど……。


「淫紋が描かれるぐらいの接触時間はどのくらいか……までは分かりませんね。

 少なくとも私のこの手は、すれ違ったりぶつかってしまった程度の時間かとは思いますが……」

「例えば淫紋一つを十秒だと仮定する。

 リコ。お前は十秒以上。誰かに直接触られ続けるような状況。覚えがあるか?」


 問われて、私たちのやりとりを横でぼんやり聞いていたと思われる絃色先輩は首を傾げました。


「あると言えばあるし、無いと言えばない……かな。

 みんなもそうだと思うけど、友達や家族とかならと腕くんだり、ふざけて抱きついたとかはするよ?

 でも、それ以外の人に五秒でも十秒でも触られ続けるコトって、あるかな?」


 そうなんですよね。

 親しい相手以外にそんなことされたら不自然さを覚えて振り払ったりもするでしょう。


「ファンと握手したりとか」

「学校だとそういう人の相手はできる限りしないようにしてるから」

「そっか」


 これはダメですね。

 もうちょっと絞り込めそうで、絞り込めない気がしてきました。


 私がそう思ったとき――


「よし。帰るぞ」


 倉宮先輩も似たようなことを感じたのか、そう言って立ち上がりました。


「そうですね。今日だけで解決するのは難しそうです」

「そんなぁ……」


 涙目になる絃色先輩には申し訳ないですが、こればっかりはどうしようもないと言いますか……。


「協力してやらん。とは言っていない。

 ただ今の情報だけでは。犯人にたどり着く手段がない」

「倉宮先輩の言う通りです。

 犯人は何らかの条件を満たした対象にラクガキを施す。

 その情報だけでは、ここでどれだけ話し合いをしても難しいでしょう」

「鷲子ちゃんと倉宮さんが同意見となると、仕方ないかなぁ……」


 雨羽先輩も申し訳なさそうに言って、絃色先輩に向き直りました。

 そして彼女のおへその下あたりを指さして告げます。


「とりあえずそれは呪いでも何でもないただのラクガキ。

 それだけはしっかりと頭に入れておいて。倉宮さんが言ってたけど、そのラクガキは思い込みによってはラクガキじゃなくなっちゃうかもだから。

 しばらくは消えなくて大変かもしれないけど、絶対に解決するからね。

 あまり人には見られないように、気をつけて」

「……うん、分かった。よろしくお願いします」


 優しく言い聞かせるような雨羽先輩の言葉に、絃色先輩はたっぷり迷いながらも、それでも私たちを信じてくれたのか、そう言ってペコリと頭を下げてくるのでした。


 そうして、今日は解散することになったわけですが……。

 はてさて――どうやって犯人を探しましょうかね……。



【Caution!】

 魔術・淫紋などに関する解釈は本作独自のものであるということで。

 この手の話題は深堀しようとするといくらでも掘れますゆえ、ふんわり触感のお話で勘弁を。




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