47.その紳士たちに姿なく その1
ネット小説大賞9
本作一次選考通過しました٩( 'ω' )و
【View ; Syuko】
草薙先生とエクストラ・メイズに行った翌日。
今日は月曜日の為、桜谷駅から電車に乗って府中野駅に向かいます。
桜谷から歩いても良いのですけれど、それはそれで時間がかかりますからね。
家のお手伝いさんやら護衛やらの人たちからは、送りの車を出すと言われますが、別にお金持ちの学校というワケではないですし、悪目立ちしたくはないので断っています。
「うーん……全然、落ちませんね」
そんなワケで満員に近い電車に揺られながら、私が小さく独りごちつつ視線を落とすのは自分の手の甲です。
そこには、この間、雨羽先輩が気づいたサインペンでこすったような黒い線が残っています。
指摘されたその日の夜に、藤枝さんと一緒に色々試したのですが、まったく落ちませんでした。
それどころか、色々と試しすぎて肌が傷ついてしまいそうだったので、これ以上はやめておこうとなったのです。
本当にサインペンの類であれば、放っておけば薄れていくと、二人でそう結論付けたのですが、未だに薄くなっていく気配もありません。
「今のところ何の実害もありませんが……」
どんな薬液でも落ちない線。
強力すぎるインクという説もなくはないですが、どうにも開拓能力の気配がします。
この線がつけられたタイミングは恐らく学校。
入学初日につけられたのは間違いないでしょう。
線が付く条件はわかりませんが、容疑者が学校関係者となると広すぎてすぐには絞り込めそうにありません。
今は保留にしておくしかないでしょう。
そして――
これはただのカンですが、この線を付ける能力者以外にも、学校には私の知らない開拓能力者はいる。
主人公たちとは違う、正史では触れられることすらなかった能力者たちが。
それは本来であれば、主人公と会う前の雨羽先輩やその協力者が解決していたのでしょうけれど……。
積極的に関わるつもりはありませんが、それでもまぁ――お人好しの自覚はありますので、気が付けば首を突っ込んでいる可能性はあります。
その時はその時です。
歴史や運命が変わろうと、私が望む結末を迎えられるようにがんばるだけです。
そう――主人公との恋愛ルートには入らず、ラスボスは無事に倒されて世界は救われるという結末をッ!
などと、月曜の朝、満員電車の中で密かに気合いを入れ直す私なのでした。
同時間帯――
【View ; Ririko】
「みなさん、おはようございま~す! リコで~す」
スマホを動画撮影モードにして机に置くと、あたしこと絃色 梨々子はそれに語りかける。
朝ご飯は食べたけど、まだパジャマのまま。
これから着替えて学校へ行く準備をするにあたってのライブ配信。
「これから学校へ行く準備をしますね~」
それだけ言うと、あたしは自分の通う朱之鳥学園の制服を用意し、カメラの死角にあるベッドのそばに移動した。
朝のお出かけ準備の生配信。GRWM。
週一回、月曜日の朝にこれをやるのがあたしの日課。
雑誌の読者モデルであるリコことあたしと、Get Ready With Me?
色んな人がやっているこのGRWMだけど、あたしの配信もそれなりに人気がある。
あたしに限らず――ではあるんだけど、人気のアイドルやモデルの朝の準備が覗き込めるのが楽しいとか、雲の上の人たちかと思ってたけど準備する姿は自分たちと変わらなくて親近感が湧くだとか、そういう理由で同世代のみんなが見てくれていることが多い。
中には別の目的を持って見ている大人の男の人たちもいるって聞くけど、なんかよくわからない。
それをモデル仲間に口にしたら、「リコはそのまま純粋でいて」って言われたんだよね。なんで?
さておき――
時間に余裕を持ってはいるけれど、テキパキ準備しないと遅刻しちゃうからね。
あたしはパジャマをベッドの上に投げ捨てるように脱ぐ。
カメラは机から、自室の入り口に向けてあるので、ベッドやクローゼットは写らない。それくらいはちゃんと気を付けてるからね。
動画を見たモデル仲間からは、「アンタの着替えシーンなんか見ててハラハラする」って言われたんだけど、なんでだろ?
その時、一緒にいた別のモデル仲間は「分かる。なんかうっかりカメラの前に出てきてポロリしそう」とうなずいてた。
二人に意味を訊ねると、やっぱり「リコはそのまま純粋でいていいから」って言われた。なんで?
ともあれ、制服に着替える流れはいつも通り。
パジャマの上下を脱いだら、ベッドに放り投げて、ブラジャー付けて、制服を着る。
GRWM動画を配信する日も、配信しない日も流れは同じ。
ルーティーンだっけ? そういうやつ。目を瞑ってても、恐らく出来ちゃうくらい、中学時代から変わらないいつもの朝の、いつもの流れ。
今日も同じ。配信を気にかけて、色々とカメラに向かって声をかけることこそするけど、着替えの流れは変わらない。
喋りながらでも、別のことに気を取られながらでもできる、いつもの行動。
そのつもりだった。
パジャマの上着とズボンを脱いでベッドに放り投げる。そこまではいつも通りで――
ベッドの足下にあるキャビネットの上に用意しておいたブラジャーを手に取って、クローゼットの横にある姿見を見た……この瞬間までは。
「……え?」
なに……これ……?
おヘソと、股の中間くらい。
ギリギリ下着で隠れない部分。
そこに、気持ちの悪いハート型の……紋章……? みたいのが、あった。
「…………」
一見すると、サインペンで書かれたような感じ。
触る。落ちたり、手に写ったりするような感じはない。
誰かのイタズラ? だとしたらどこで? なにがあった? 誰がやった?
でも、昨日の夜――お風呂に……は、入りそびれた。
お母さんが家族みんな入ったと思ったって、栓を抜いちゃってた。
眠かったし、だからもういいやって。入らなかった。
そうだ。入ってない。入ってないから気づかなかった?
いやでも、昨日の夜、パジャマに着替えた時は……わかんない。
夜、パジャマに着替える時はあった? いや電気もつけずにさっさと着替えちゃった気もする。
いつから? どこで?どうやって? どうして?
怖い。怖い怖い怖い!
これがなんであるかは分からない!
悲鳴を上げそうになるのをグッと堪えられた自分を褒めたい。
今は動画配信中だもん。変に声を上げるのはまずいよね。
それに、この紋章みたいなのが、画面に映るのはきっとやばい。
「ご、ごめん……ちょっと、トラブル!
今日の、配信は……中止する、ね!」
明るく。明るく。
いつものように、視聴者のみんなに心配をかけないように。
でも、あたしは完全に動揺してた。
だから、ブラジャーだけしてカメラの前に立ってしまった。
配信を止める為の操作をするのに、下着姿だったんだ。
それがちょっとした騒ぎになるんだけど、そんなのはどうでもいい!
配信は止めた。
でもこれがなんだか分からない……。
とにかく安心したくて、下着姿で姿見に映った自分をスマホのカメラで撮影して、親友のニコちゃんに送る。
《朝起きたらこんなのが体にあったんだけどマジ怖い》
それに対して、すぐに返信があった。
全てが終わったあとで気づいたことだけど、この時にこの紋章の呪いは完成しちゃったんだと思う。
《それ淫紋ってやつ? アニキの部屋に転がってるえっちな漫画で見たことあるよ! なんかね、どんどんえっちが大好きになっちゃったり、えっちなことして男の子を殺しちゃう妖怪に体が変化しちゃったりするやつ!》
《あたしそんなふうになっちゃうの?》
《ごめんごめん。漫画の話だし大丈夫じゃない?》
《でも目が覚めたらここにあったんだよ? 心当たりないんだよ?》
《リコっち落ち着いて。とりあえずふつうに学校来てよ。隣のクラスに家が神社で時々巫女さんをやってるって人がいるから相談してみよ?》
《うん》
だって、ニコちゃんから送られてきたこのメッセージを読まなければ、あたしは淫紋っていうものの知識はなかったんだもん。
知らなければただただ怖いイタズラだった。
知らなければただただ不気味な紋章だった。
だけど、そこに意味がもたらされてしまった時点で、このえっちな紋章に意味が宿っちゃったから。
この紋章に意味がなくても、
実際に呪いとしての機能がなくても、
あたしが知識を持ってしまい、その効果に関する恐怖と不安が芽生えた時点で、これは本物になっちゃったんだ、て。
【TIPS】
言うまでもありませんが本小説はRー15です。
本当にえっちになったリコっちの出現予定は一切ございません。
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新しい連載も始めております
『引きこもり箱入令嬢の結婚』
https://ncode.syosetu.com/n2977hc/
以前書いた読み切りの恋愛モノ(?)の連載版になります
よし٩( 'ω' )وなに




