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44.詛いの指先を持つ少女

更新が遅くなってすみません。

しばらくはこんなペースの更新になりそうですが、よろしくお願いします。


【view;Syuko】



「げ。雨羽霧香」


 男性に絡まれていたと思われる朱学(あけがく)の女子生徒さんは、こちらを見るなり露骨に顔をしかめました。


倉宮(クラミヤ)さん……」


 そして、雨羽先輩もまた、彼女を見るなり微妙な表情を浮かべます。


 二人が困ったようににらみ合ってるのを横目に、私はとりあえず男性へと声を掛けることにしました。


「大の大人が女子高生に絡んで怒鳴りつけているように見受けられたので介入させていただきましたが、何があったのでしょうか?」


 一方に肩入れする気はあまりないのですけど、目の前の人はお世辞にも真面目なタイプには見えません。

 学生時代の不良感覚のまま大人になって、不良をやめられない感じの――そういう人のように見えます。


 見た目や先入観で物事を判断するのはあまり良くはないのでしょうが――


「そいつがケンカを売ってきたんだよッ!」


 大きな声でそう言ってくる姿は、自分の見た目と大声で相手を萎縮させて、ある程度我を通してきた人という感じです。


「売ってないし。むしろ買ってくれるならいくらで買うかって聞いただけ」


 一方の倉宮先輩は、そういう男の立ち振る舞いに萎縮する様子はなく、淡々とした様子ですね。


 倉宮先輩は、綺麗な黒髪を前も後ろも長めに伸ばしている人です。前髪が目に掛かっているせいか、表情が全体的に暗く見えますね。

 やや猫背気味なのと、身につけている各種アクセサリや鞄についている小物などがどこか妖しげなものが多く、黒魔術を趣味にしていると言われれば信じてしまいそうな魔女感を纏っています。


 暗めのオタク気質っぽい少女。

 そんな印象を受ける人だからこそ、目の前の男性は怒鳴りつけ萎縮させ謝罪の言葉を引き出すつもりなのでしょうが――


「そもそも。邪魔だった。本屋の入り口の真ん前で。大声で電話してて動かない。だから。邪魔だ退けと言っただけ。ケンカなんて売ったつもりはない」


 倉宮先輩は物怖じ無く、そう告げました。


「誰も彼もが関わらないように避けていく。そんな中でワタシに注意されたのがシャクだった。だから大声で脅しつけた。違う?」


 独特のテンポで喋る人ですが、強い人でもあるようですね。


「そういうのをケンカ売ってるって言うんだよッ!」

「買うっていうならお金払って。ワタシのケンカは安くない」


 なるほど。

 怒鳴りつけると、こうやって飄々(ひょうひょう)とした物言いと淡々とした態度で返されてしまう。

 だけど、それは彼にとって許せることではなく、怒鳴り散らしてしまうというのが、ことの真相でしょうか。


「何度も言う。お店の入り口の真ん前で大声で長電話。それを邪魔だと言っただけ。電話しながらでも邪魔にならない場所へ移動。そうしていれば問題なかった」


 大人たちも声を掛けるのを躊躇って避けていくような大声で喋っていたのでしょう。関わるとヤバイ人だと思ってしまえば、基本的に避けたくなるのも分かります。


 実際、注意した倉宮先輩がこうしてしつこく絡まれているのを見ると、注意しなくて正解な気もしてきますし。


「もしかしなくても、小娘ごときが俺を注意しやがって――みたいな感じで怒ってるだけ?」

「その通りだ雨羽霧香。人間の矮小さを体現したかのような矮小な理由だと思わないか?」

「なんでわざわざ嫌みったらしくフルネームで呼ぶのかな、倉宮(クラミヤ) 彩乃(イロノ)さん……?」

「だって。貴女のコト。嫌いだし」

「わたしも貴女のコト、好きじゃないわ」


 男性そっちのけでバチバチやってるお二人ですが、それがかえって彼の神経を逆撫でしているようです。


「いい加減にしろよッ、テメェらッ!!」


 思わず――といった様子で、大声で怒鳴りつけてきます。

 ですが、私たち三人はそれに怖がったりするようなことはなく――


「何度目。このセリフ?」

「そんなに言われてるんですか?」

「定期的なキメ台詞? あるいは語彙力」

「あー……」


 倉宮先輩はわざと挑発するようなこと言ってるんでしょうけど、それに納得した顔をしている雨羽先輩は、素ですね。


 男性の顔が赤くなっていきます。


「でもさすがに。そろそろ鬱陶しい」


 そう告げる倉宮先輩は、身体をユラリと動かし、妖しい動きで人差し指を伸ばした右腕を天に掲げました。

 そのままユラユラとゆっくりと指を下ろしてきて、男性へと向けて真っ直ぐに伸ばします。


 よく見れば指先には夜空に星を散りばめたような綺麗なネイルアートが施されていました。

 自分でやったのか、お店にやってもらっているのか――どちらであれ、結構なこだわりを感じるのは気のせいではないでしょう。


「な、なんだよ……」


 ともあれ、指を差された男性はやや狼狽した様子を見せ、そこへ畳みかけるように倉宮先輩が笑いました。

 前髪で目が隠された状態で、口は三日月のように歪ませて――ちょっとしたホラーモノの登場人物のような様子で、倉宮先輩は告げます。


(のろ)われろ」


 横で聞いていても背筋がゾクリとするような、耳にこびりつくような、怨嗟(えんさ)のような、低くもハッキリとした声。


 ただそれだけで、指先から呪いが放たれたような、錯覚を覚えるほど。

 ……いえ、実際は錯覚ではなく、本当に呪いが放たれた可能性はありますね……。


「わ、ワケわかんねぇコトしてんじゃねぇーぞ!」


 明らかに虚勢だと分かる男性に、倉宮先輩は三日月のように歪ませた口で、相手を下目遣いで見下すようにしながら、丁寧な説明を始めます。


「ガンドという呪いがある。北欧由来のモノが。

 元々は魂を虚空に飛ばす脱魂魔術。

 あるいは自分を。動物を象った精霊と合一させるコトで超人化する(すべ)

 一方で。対象と共感を行う呪いを飛ばす。指を差すコト。あるいは杖で殴るふり。主なトリガーはその二つ。

 指を差された側は体調を崩す。そういう呪い。人に指を差してはいけませんという注意の根元。

 ワタシは発展させた(のろ)いが使える。体調だけでなく運を奪う。お前はしばらく。体調を崩す。そして幸運の一切がしばらくは訪れない」


 前世では、とあるゲームがきっかけで有名になった呪いですね。

 発展させたというのは、本当に自らの力で発展させたのか――それとも、そういう開拓(フロンティア)能力に目覚めたのか。


 倉宮先輩が悪用するような人であれば、対処を考えなければなりませんが……。


「い、イミがわかんねぇよッ!」

「単純。お前は詛われた。ワタシが詛った。

 今から二週間。体調の悪さと運の悪さに悩む」

「ふ、ふざけんなッ! 呪いなんてモンが実際に……」

「あるんだな。これが。ざまぁ」


 ざまぁと口にした瞬間、ずいぶんと良い笑顔を浮かべた気がします。

 あまり手入れのされていない髪が勿体ない感じの極上の笑みです。

 シチュエーションがこんな恐怖を煽ってる状況でなければ、見惚れてしまう人も多いのではないでしょうか。


 そう思うと、倉宮先輩って素材はとても良さそうな人なんですけど……。


「な、あ……」

「二週間がんばれ。一度掛けた詛いはワタシにも解けん」

「くっ、そ……!」


 ともあれ、そんな倉宮先輩の笑顔がダメ押しになったのか、男性は顔面を蒼白させながら去っていきました。


 倉宮先輩の態度や言動、雰囲気からハッタリだと断ずることができなくなったからでしょう。


 ああなってしまっては、実際に呪いを掛けたにしろ、倉宮先輩のハッタリにしろ――たぶん、これから二週間、あの男性は本当に呪われたような生活を送ることでしょうね。


 呪いの根幹には、『自身が呪われた』という思い込みを利用する面もありますから。


 そんな倉宮先輩と男性のやりとりを横で見ていた雨羽先輩は、どこか呆れた様子で肩を竦めます。


「まぁいいんだけど。呪いもほどほどにね」


 その様子は、雨羽先輩は倉宮先輩の呪いを見慣れているような気がしますね。


「そういうところ嫌い。光属性みたいな人格しやがって」

「そりゃあ生まれも育ちも神社ですし?」

「本当に光属性かよ」

「お祈りもできるよ?」

「ワタシの天敵かよ」

「貴女に光の祝福があるようにって、お祈りしてあげようか?」

「やめろ。詛うぞ」


 呪いの魔女と、祝福の巫女。

 名前だけなら犬猿の仲というのも分かりますが……



 端から見てると、なんていうか――

 ……先輩たち、とても仲が良さそうです……。


【TIPS】

 倉宮 彩乃は、自身が扱うチカラを『詛い』と呼んでいる。

 これは彼女自身のコダワリなのだが、周囲からすると『呪い』との違いはよく分からない。

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[良い点] 更新お疲れさまです。 [一言] 自己中が自業自得で痛い目を見るのはすっとする。
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