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41.【閑話】スプラッターハウス 6


【View ; Mika】


 朱ノ鳥学園高校の校門の近くにある住宅街を抜け、卒業した先輩方に言わせるとだいぶシャッターが増えたという昔ながらの商店街を抜け、駅前へ。


 駅へと上がる階段から見て、道路を挟んで向かい側にあるコンビニの前には、ヘラキキの鐘というものがある。


 その鐘の下で、私はぼんやりと空を見上げながら友人たちを待っていた。



 私は緑川(ミドリカワ) 魅夏(ミカ)

 朱ノ鳥学園高校に通う一年女子。


 ついこないだ、友達とともに悪夢のようなお化け屋敷に閉じこめられ、雨羽霧香っていううちの学校の子と、探偵さんに助けてもらった三人のうちの一人だ。


 今でもあれは夢のような出来事だったと思う。

 もっとも、それはフワフワするような楽しいことなんかじゃなくて、とびっきりの悪夢のたぐいではあったんだけど。


 そんな悪夢を取り払ってくれたC組の雨羽は、霊能力者とか超能力者とかそういう奴だったんだと思う。


 そうでなければ、あんなひょろい身体で壁を壊すようなパンチを繰り出したり、モヤの塊のような化け物を前に、平静でいられたりしないだろう。


 きっと、ああいう事態にも遭遇しなれているんじゃないかとも思う。

 もちろん、それを誰かに言いふらしたりするつもりはない。


 いくら超能力が使えたと言っても、命懸けに近い状況だったのは間違いない。


 最後に、窓から腕だけが落ちてきた時――私は泣きそうになった。


 あとになって計算の上で、腕だけになって外へと落ちたのだと説明されても納得できないくらいには、ショック受けていたんだ。自分は。


 あの時、彼女が砕いた壁から外へと飛び出した私たちはみんな、身体の大半が無事だったんだ。

 なのに、雨羽は腕だけになって落ちてきた。


 それを見た時――色んな後悔が頭の中を駆けめぐった。

 ただ面白おかしいことがしたくて、ただ話題のタネにと挑戦した肝試しが大変な事態を引き起こし、挙げ句の果てに助けに来てくれた子を死なせせてしまったのだと……割と本気でそう思った。


 結果として雨羽は生きていて、その腕から身体が生えるように再生したから良かったものの……


 その後の探偵さんとの話を聞いていた限り、ネタじゃなくて死ぬ可能性すらあったようで……


 だからってワケじゃないけれど――

 同じ学校に通っている以外に接点なんてない、見ず知らずの私らの為に命を懸けて助けてくるようなお人好しを困らせるようなマネはしたくなかったんだ。


 それは一緒に助けられた詠子(エイコ)栄美(エミ)も、同じように言っていた。


 同時に、もう一つ……

 雨羽が呼んだ、シューコちゃんとやらの話を聞く限り、公言しちゃうのも、あまり良いことはないようだ。


 それは雨羽だけでなく、私たちすら危険を招きかねないとかで……

 一応、事件の記憶を消すこともできると言われたんだけど、私たちは消さないで欲しいとお願いした。


 絶対に超能力のことや怪奇現象のことを誰かに話したりはしないようにと、強く言い含められたけど。


 ともあれ、シューコちゃんとやらが到着してからはあっという間だった気がする。


 雨羽と探偵さん、それからシューコちゃんとやらと、彼女が連れてきた長身の女性。

 四人が何だか難しい相談をし、その結論が出たらアレよアレよと状況が進んでいった。


 そして、私たちは老朽化した洋館で肝試しをしていたところ、扉が壊れて閉じこめられてしまったと処理されたのだ。

 それに意を唱えるつもりはないし、不満も特にはないかな。

 あんな怪奇現象、ふつうは説明できないし、説明の為に誰かをあの洋館に連れていきたいとも思わない。

 

「魅夏」

「お、栄美」

「お待たせ」


 待っている間にぼんやりと、自分の身に起きたことを思い返していたところだ。

 どれだけぼんやりしていたかは分からないけれど、待っていたという感じはしないかな。


「別に待ってないよ」

「そう?」


 栄美は不思議そうに首を傾げた。

 もしかしたら、結構待っているように見えたのかもしれない。


 でも、そこまで気にはしないみたいだ。


「遅くなってゴメン! でも連れてきたよー!」


 続けて、 詠子(エイコ)もやってくる。

 彼女が連れてきているのは――


「えーっと、いきなり誘拐されるように連れて来られたけど、何かな?」


 めちゃくちゃ戸惑った顔をしている雨羽だ。


「詠子、説明してないの?」

「え? 一緒に来てって言ったよ?」

「それは説明とは言わない」


 どこへとか、どうしてとかがまるっと抜けているじゃないか。


「まぁいいか。雨羽。これから時間ある?」

「えーっと、まあ、あるから着いて来たワケなんだけど?」


 未だに戸惑いから抜け出せてなさそうな雨羽。

 だけど、その答えで充分だ。


「よし、それじゃあフラキキに入ろう。歌くらい歌えるでしょ?」

「え? 歌? っていうかフラキキってコトはカラオケ?? 何で???」


 疑問符をいっぱい浮かべる雨羽を引っ張るように、私たちはフラキキの鐘の持ち主(?)でもあるカラオケ店、フラキキへと向かう。

 ちなみに、待ち合わせのコンビニの裏というか側面に入り口がある。


 ちょうどエレベーターが来ていたので、それに乗って受け付けのある七階へ。


 機種にこだわりがないので、どれでもいいから、広めの部屋をお願いしたら、お客さんが少なかったのかスムーズに案内された。




 さて――わざわざカラオケに雨羽を連れて来たのには理由がある。


「いきなり連れてきてゴメンね」


 部屋に入り、落ち着いたところで――曲を入れずに詠子は切り出した。


「ここなら人の耳は滅多に届かないだろうからね」


 それに重ねるように、私も説明する。


「あのあと、うやむやのうちに解散になっちゃったからね。

 色々お話聞きたかったのと、ちゃんとお礼が言いたかったから」


 さらに付け加えるように栄美が説明すれば、雨羽はようやく合点がいったような顔をした。

 まぁなんというか、栄美の言う通り、ちゃんとお礼が言いたかったんだよね。


「そんな、気にしなくていいのに……」


 やや困ったような笑顔を浮かべる雨羽に私たちはみんな揃って、首を横に振った。


「気にするに決まってるだろ。

 実際、命懸けで助けてくれたんだから」


 そう。気にするなという方が無理なんだ。


「もしかして、今まで人知れず人助けをしてた?」

「お礼なんて言われなれてないとかもある? まぁでも素直に受け取ってよ、ね?」


 私たち三人はそう言って、お礼の言葉を押しつける。


「っていうか大したコトしてないみたいなノリだけど、あのモヤにわざと喰われて、腕だけになって脱出するとか、大したコトだからな?」


 それが大したことがないっていうなら、世の中の大半のことが大したことのないことになっちゃうだろうし。


 それから、頼んだドリンクが届き、それぞれが口に付けたところで、雨羽も一息ついたらしい。

 直後、ポロポロと涙を流し始めたので、私たちはギョっとする。


「え、ちょ、雨羽さんッ!?」

「う……ひくっ、ゴメン、急に……。

 人心地ついたら、みんなの言葉に実感が沸いたというか、なんか急に自分が何をしたのか理解したというか……」


 急に、あの夜の――腕だけになった時のことを思い出して怖くなってきたらしい。


 そりゃそうだよな。

 いくら超能力を持ってて、場慣れしてたとしても、あの闇に飲まれて腕だけに……。


 ん? そういや、顔が飲み込まれてる時って、何か見えてたのかな?


「お礼のうれしさと、我ながら無茶した怖さと、あと……誰にも理解して貰えなかったチカラのコトを理解してくれたコト……なんか、ごちゃごちゃになって……」

「理解して貰えないって、あのシューコちゃんって子は?」

「シューコちゃんは、年下だけど……能力者としては、先輩だし……」


 え? あの子、年下!?

 同じくらいか、ちょっと上くらいに思ったけどッ!?

 めっちゃ美人だったし、大人と対等にやりとりしてる姿、めっちゃカッコ良かったんだけど!?


「――だから、何にも知らない人たちに、理解して貰えて、お礼を言われるの初めてで……えっと……」


 涙を拭きながら、嗚咽混じりに言葉になりきらない言葉を告げる雨羽に、栄美が勢いよく抱きついた。


「ふえッ!?」


 突然の行動に驚いたのか、雨羽の涙が引っ込んだ。

 そして、栄美は抱きしめたまま告げる。


「いい? 雨羽さん。貴女はわたしたちの命の恩人。それは間違いない。

 開拓(フロンティア)能力だっけ? それを持っていたとしても、怖いモノは怖いハズだから。

 なのに、貴女は来てくれた。見ず知らずの、私たちを助ける為に。

 恐怖を圧して、身体を張って、助けてくれたの。

 そのコトにわたしたちは、すごい感謝してるんだよ?

 そして、雨羽さんがやったのは、すっごいコトなの。開拓能力持っているからって、簡単に出来るコトじゃないはずだから」


 栄美の言う通りだ。

 雨羽は、少しばかり自覚が足り無すぎる。

 あるいは、今までずっとそうだったのかもしれない。


 人知れず人を助けて、感謝されないのは当たり前で……。

 恐らく、シューコちゃんとやらと出会ったのも最近なんじゃないかな。


 雨羽の自分の周囲にいる人たちを、こっそりと助け続けて、だけど多くの人たちは、危険に目を付けられていることになんて気づいていない。雨羽がその危険の芽を先回りして潰してるから、危険があったなんて気づけない。


 それが当たり前だったからこそ、彼女は自分のしたことを『大したコトなんてない』と言うんだろうけど……。


「わたしたちは、貴女のチカラを言いふらさない。むしろ、積極的に隠すコトに協力をするつもりがあるくらい。

 だから、頼って欲しいかな。親友にも話せないような能力の絡む相談ごととか、わたしたちなら乗ってあげられると思うから」


 ね? と栄美は私と詠子に同意を求める。

 その視線の流れに乗って、雨羽もこちらを見てきたので、私と詠子は一緒にうなずいた。


 すると、それを見た雨羽の瞳が再び涙でいっぱいになってしまうのだった。




 霧香――せっかくだから名前呼びしたいと言ったらOKが出た――落ち着いたところで、みんながそれぞれに歌を入れ始める。


 そして、霧香の入れた曲が流れ出す。

 おどろおどろしさの中に、悲壮感の混ざる印象的なメロディに、聞き覚えがある。


 曲のタイトルは『Last resort to Tomorrow』。

 最近家庭用ゲーム機で出た、ホラーアクションアドベンチャーのエンディング曲だ。


 全部英語の歌詞だったと思うんだけど、霧香は歌えるんだな。


「そういえば」


 長め前奏が流れている中で、栄美がふと思い出したように、霧香に訊ねる。


「消えてた下半身に、時折何か堅いモノがぶつかってたんだけど、何か知ってる?」

「えーっと……」


 その問いの答えに、霧香が逡巡を見せた。

 だけど、答えがでる前に、歌が始まってしまったので、霧香は歌い出した。


「あ、上手い」

「ちゃんと英詞を歌えてる」

「かっこいい」


 一番が終わり、二番へと移る前の間奏。

 私たちが思わず拍手していると、霧香は、栄美に視線を向けた。


「The answer to the question is 『Bones』」


 そして、なにやら英語でそんなことを言うと、二番を歌い始めてしまう。


 もしかしたら霧香は英語が得意なのかもしれない。

 正直、私たちは三人とも英語は苦手なんだけど、ただまぁ……少なくとも私は漠然と聞き取れたし、頭の中でうっすらと翻訳できた。


 ……これ、栄美は聞かない方がいいんじゃないのか?


 それっきり、霧香は答えをくれない。

 栄美も詠子も首を捻ったままだ。


「返答が英語って判断、たぶん正しいぞ、霧香」


 霧香の歌が終わり、詠子が歌い始めたところで、私が小声で言えば、だよね――という顔で、霧香が苦笑した。


「知らない方がマシってコトもあるってコトで」

「だな」


 いや、ほんとマジで。


「夢に見るレベルの光景だったし……」

「マジかよ……」


 何はともあれ、私たちはそのあともフリータイム終了までの間、歌ったりふざけたりして盛り上がるのだった。




【TIPS】

 能力舎(フロンティアステージ)はその呼び名が付く前から各地に存在している怪異の一つ。

 建物がチカラを持つコトになった経緯は様々に存在するが、そう呼ぶべき能力を持った建物というのは古来よりある。

 遠野の迷い家(マヨヒガ)などがその筆頭。


=====


 霧香主役の閑話はこれにて完結です。

 次回からは、第二部開始の予定です。


 第二部からは閑話同様に更新が不定期になりそうなので、朝7時更新という更新時間固定も崩れそうですが、コンゴトモヨロシク。



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