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39.【閑話】スプラッターハウス 4


【View ; Kirika】


 三人が落ち着いたところで、状況の詳細を伺うことにする。


 ちなみに――



 黒いモヤの影響を受けてない、ゆるふわな茶髪で明るそうな子が、赤希(アカキ) 詠子(エイコ)さん。


 私に抱きついてきて泣いてした、髪をアッシュブロンドに染めた子の名前は緑川(ミドリカワ) 魅夏(ミカ)さん。


 下半身を失ってしまっている、短い黒髪のスポーティな雰囲気の子が、黄沢(キザワ) 栄美(エミ)さん。


 三人とも中学校は違うものの妙に馬があって、入学当初から一緒に連んでいることが多かったみたい。

 その結果、三人の名字から『信号トリオ』と呼ばれたりもするらしい。


「最初は噂の廃ビルにいくつもりだったんだけど……ここの門が開いてたから入ってきたんだ。それで、おっかなびっくり屋根裏までたどり着いて……」

「それから魅夏が……そろそろ帰ろうよって屋根裏(ココ)から下におりようとしたら、足の先がなくなっちゃって」

「それを見て怖くて、あたしがパニッくって階段から降りようとしたら、身体が消えちゃって――二人が慌てて助けてくれなかったらあたしは……」


 やっぱり階段を下りることが能力の発動条件みたいだけど――


「雨羽さん、どう思います?

 私の見立てでは、影響の範囲はこの屋敷内のみだと思うのですけど」

「同感です。目的はまったくわからないんですけど」


 彼女たちを閉じこめる動機がわからない。

 ここに潜んでいる誰かが、自分の存在を隠したいのであれば中途半端に消しさらず、彼女たちをまとめて消してしまった方がいい。


 ……って、我ながら恐ろしいことをふつうに考えちゃったな。


「この黒いモヤが身体の存在を一時的に隠してしまっているだけの場合、影響の範囲外まで脱出できれば、元に戻ると推測はできますけど」

「どうやって脱出するかが難しいですね」


 きょろきょろと屋根裏を見渡すと、窓があるのに気がついた。

 そこへ近づいて内開きの窓を開け放つものの、外側に格子がされていて、外へ出るのは難しそうだ。

 

「手なら通るけど……」


 手だけ通っても意味がないよね。

 そんなことを思っていると、笠鷺さんが何かを思いついたようで、階段へと向かっていく。


「さて実験といきましょう。

 脱出する為の情報がほしいですしね」


 そう言うと、自分の右手で左手の手首を掴む。

 それから、床へとうつ伏せになると、慎重に左腕の肘を階段から下へと下ろす。


「よし、想定通り」


 そうして立ち上がった彼女の左肘は黒いモヤに包まれていた。

 でも、その先はなくなってはおらず、右手で左腕を掴んでいる。


 その姿に、信号トリオは喉の奥で「ヒィ」と悲鳴をあげた。

 うん。そうだよね。わかる。わかるよ。


 正直、私も見てて怖い。ビビってる。


 右手に握られている左腕は、肘辺りのところが黒いモヤに包まれているので、包まれた部分が消えてしまうので間違いないのだろう。

 そして、消えてしまった部分と接続されていたものは、切り離されてしまう……と。


「それ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫みたいです。ほら」


 そう言いながら、切り離された左手をこちらに向けると、左手の指をワキワキと動かす。


「どうなってるんですか、それ?」

「原理は分からないけど切断されてるんじゃなくて、黒いモヤによって別の場所に隔離されているだけみたいですね。

 見た目通り、切断されているわけではないようです」


 だから、二人の身体もそこに存在しないだけで、実際はどこかで無事なまま存在しているはず――と、説明すれば、三人は小さく安堵してみせた。


「これで、能力の影響下から脱出できれば元に戻る可能性が高まりましたね」

「身体張りますね」

「こういう状況は身体張ってでも状況把握に努めないといけませんから――それに」

「それに?」

「雨羽さんが頼りがいありそうですので、私に何かあっても大丈夫かな、と」

「期待されすぎると、逆にちょっと申し訳ない気がしてきます」


 いや、ほんと。

 私はつい最近、ようやくチカラを使いこなせるようになったふつうの女子高生なワケでして……。


「さて、実験その2です」


 そんな私の胸中を知ってか知らずか、笠鷺さんは切り離された自分の腕を窓の格子から外へ向かって放り投げた。


「え?」


 目の前で行われたことに、私が目を見開いていると、腕はそのまま庭の芝生の上へと落っこちた。


「痛ッ……!!」


 落っこちた衝撃がよっぽどのものだったのか、笠鷺さんは笠鷺さんで目を見開いたあとで、強く瞑ったりしているけれど。


「けどこれで、窓の外から飛び降りても身体は消滅しないって分かった」

「ほんと、身体張りますね」

「問題はどう飛び降りるか……だけど」


 うーん……これ、私が自分でバスから飛び降りた時のやつをやればいいだけかな。


「手段は無くもないです」

「ほんとう?」


 期待するような笠鷺さんに、私は嘆息しながら小声で答えを口にする。


「私の開拓能力を使えば」

「あー……」


 こちらが懸念している理由に、笠鷺さんは天を仰いだ。

 でもまぁ、四の五の言っていられる状況じゃない……か。


「雑に説明すると、他者の身体能力を高めるコトができますから」

「三人にそれを施して、飛び降りてもらう?」

「はい。

 黄沢さんだけは、笠鷺さんが抱き抱えて飛び降りてもらうというコトで」

「その能力、私にも?」

「もちろんです」


 開拓能力者はその能力の発動中に身体能力が高まるとはいえ、ここは三階。念には念をという言葉もあるし。


「先に笠鷺さんに飛び降りてもらって、残りを受け止めて貰えれば――と」


 やや思案していた笠鷺さんは、やがて結論を出してうなずく。


「わかった。それでいきましょう。

 でも、どこから飛び降りるの?」

「それは、もちろん……」


 ストールを呼び出し、右手に巻き付けると、私はそれを構え――


「ここからですッ!!」


 窓の横の壁に叩き付けるッ!

 想定以上の破壊力で壁が吹き飛び、そこから外が見えるようになった。


「意外と大胆なのね……」


 呆れる笠鷺さんと、目をまん丸くしている信号機トリオ。


「結果よければ大体オーライ。

 さて、やりましょう」


 そうして、みんなの方へと向き直って、作戦を開始を告げようと思った時――


「雨羽さん、後ろッ!」

「ん?」


 赤希さんの声を訝しみながら、後ろに振り返ると、何故かゆっくりと直っていく壁があった。


「なにこれ!?」

「そういう……コトね」


 驚愕する私の横で、逆に納得するような様子の笠鷺さん。


「隠れている能力者なんていなかった……この建物、能力舎(のうりょくしゃ)だったのね」

「建物が、能力者?」

開拓(フロンティア)能力の使い手を役者(アクター)と呼ぶなら、さしずめ舞台(ステージ)……開拓能力舎(フロンティアステージ)かな。

 希にあるんです。超能力を使えるようになった建物って。正直、何度遭遇しても理解できないところはあるんですけど」


 つまり、この建物に隠れている能力者なんて存在はなく、建物そのものが能力を用いて人を襲っていたということ?


開拓能力舎(フロンティアステージ)に目的はないんです。

 ただ、そういう機能を有しているだけの建物ですから」


 階段を下りる人の身体を奪う。そういう能力を得ただけの建物。

 それは能力というよりも、建物内のルールやシステムにすぎない。

 建物に意思なんてものはないから、ただそれが発動するというだけ。


 説明されてもピンとこないけど、そういうものだと思えば理解はできなくもない。


「壁が再生するのもその一部?」

「はい。別に我々を閉じこめたいとかではなく、壊れたから直すというだけだと思います」


 それなら、まぁ対処は可能かな。


「なら、脱出するごとに壊していけばいいですよね」

「それはそうですけど……気力は大丈夫ですか?」

「多少疲れても脱出はしないと――ですから」

「わかりました」


 こちらの覚悟を理解してくれたのか、笠鷺さんはうなずいた。

 そして、説明役も買って出てくれたので、お願いする。


「雨羽さんが壁を壊すってコトは、脱出は一番最後ってコトですよね?」

「ええ。でもそれ以外の手はないでしょう?」


 赤希さんは正義感というか責任感というか優しいというか……私のことを気にしてくれているみたいだ。


 だけど、私はこちらに視線を向ける赤希さんに向けて首を横に振った。


「出来る範囲のコトを出来るようにやるだけだよ。適材適所だと思ってよ。それに、三人とも飲まず食わずで、もう限界なんでしょ?

 最後の力の振り絞る場所、間違えないでほしいかな」


 私が笑うと、三人はしぶしぶと納得してくれたようだ。

 それを見ていた笠鷺さんが、無事な右腕で黄沢さんを抱き上げた。


「すみません」

「気にしないでください。動けないのですから」


 そのまま先ほど、私がぶちぬいた壁の近くまでやってきて、こちらを見る。


「それじゃあ、お願いします」

「はい」


 まずはストールを伸ばして笠鷺さんに触れながら、彼女の身体能力が向上するように祈る。

 ここ最近、色々実験してて気づいたんだけど、強く祈ると結構な確率で望んだ効果がでるようになってきているんだよね。


 それを済ませたら、先ほどと同じように握った拳にストールを巻き付けて――


「いきますッ!」


 壁に向かって思い切りぶつける。

 そうして開いた穴に、笠鷺さんは身を踊らせて飛び降りた。


 うまく着地し、抱えている黄沢さんに自分の腕を拾わせて、屋敷の敷地から外へ出ると二人の身体が元に戻っていくのが見て取れる。


 見届けた辺りで、壁が元に戻ったので、私は振り返る。


「二人とも聞いて」


 今し方、笠鷺さんたちの身体が元に戻ったことを告げる。


「だから、着地した時に身体が痛くても我慢して敷地の外まで走って」


 二人が神妙な顔でうなずいたのを見てから、五体無事な赤希さんを手招きする。


 こっそりと彼女の身体能力を高めた私は、改めて拳を握った。


「私もそろそろ手が痛いから……ちゃんと飛び降りてね?」

「うん」


 これは本当。

 能力でカバーしてても、自分の拳を壁にぶつけていることには変わりないから。


 そうして、私は三度目の壁抜きをして、赤希さんはその穴から飛び降りていく。


 着地。

 怪我や痛みがないことにもうちょっと驚くかと思ったけど、そんなことなく、彼女は門の方へと駆けていく。


「よし。上手く行ったみたい」


 次に緑川さんを手招きする。

 上手く歩けない彼女は、片足でぴょんぴょんと近づいてきた。


「お待たせ」

「大丈夫。それより、雨羽の手……」


 手をグーにした時、突き出す指の付け根部分あたりから、血が出ているのを緑川さんが心配そうに示す。

 私はそれに対して、彼女が不安がらないように笑顔を向けた。


「このくらい必要経費ってコトで」


 それから、緑川さんの身体能力をこっそり高め、ついでに自分の能力を高めて拳を握った時――



 オ……オ……オ……


「……緑川さん、変な声出してない?」

「だ、出してないよ……」


 背後から聞こえてくる呻き声のようなもの。

 それが気になって、私たちはゆっくりと振り返る。


 すると、階段から黒いモヤが固まって人型になったようなものが、呻き声をあげながら、ゆっくり姿を見せるのだった。




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[良い点] 壁ぶち抜いて脱出するの良いですよね。、 [一言] 閑話にはtipsないのか、残念
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