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37.【閑話】スプラッターハウス 2


【View ; Kirika】


 パンツスーツ姿の女性と、能力で作った武器を向け合いながら、私は胸中でかなり焦っていた。


 目の前の人はパンツスタイルのビジネススーツに身をくるんでいて、出来る女性っぽい雰囲気はあるけれど、和泉山さんとはちょっとベクトルが違う。

 和泉山さんが、マンガや映画のようなフィクションに出てくるエージェント系のクールでカッコいい出来る女だとすれば、この人はふつうのオフィスにいるようなかわいい系でお世話好きの先輩あるいは愛され後輩といった風情だ。


 いや、自分でもなにを言ってるかわからないこと考えてるあたり、困惑しているのは間違いない。

 もっとも、向こうも向こうで、この状況に困っているようだけれど。


 ――とはいえ、この状況がずっと続くのはお互いによろしくないよね。


 そうは思いつつも、私はどうして良いやら悩んでいる。

 鷲子ちゃんや草薙先生、和泉山さんなら、ここから言葉の駆け引きとか相手の様子を伺って情報を引き出したりするんだろうけれど……。


 私にそんなことなんて出来そうにない。

 なら、私に出来ることは何か。


 大事なのはこの人が、私を害する気があるかないかだと思う。

 害する気があるのであれば、戦う必要があるし、害する気がないのであれば、そこから話し合いが可能かどうかを模索できる。


 私は、焦りの中でどうにかその結論を出すと、意を決して言葉を紡ごうとし――


「あの……お互い、能力を解除して武器を下ろしませんか?」


 その前に、スーツの女性の方から提案があった。

 言葉の意味を逡巡し、女性の顔を真っ正面から見据える。


 ……他意はなさそう……かな?


「わかりました」

「では、カウントダウンで」


 こくり、とうなずくと、女性が口を開く。


「3」


 それから視線をこちらに向けてきたので、続きを言えということだろう。


「2」


 だから、私はそう口にすると、彼女もうなずいて続ける。


「1」


 これ、マンガとかである奴だよね!

 ちょっとだけ内心でテンションあげながら、彼女の呼吸に合わせるように、私も最後の数字を口にする。


「「0」」


 同時に、彼女の手元からフィルムのような剣は消え、私もストールを解いて手をおろし、それからストールを消した。


 ただ、それで互いが納得したわけではなく、しばらく互いに互いの様子を伺いあったあとで、ようやく安堵の息を吐いた。


「互いに警戒し合っていても互いに動けませんし、互いの目的が果たせないでしょう?

 だから、まずこちらから名乗りますね」


 女性は丁寧にそう言って、軽く頭を下げる。


香具師羅(ヤシラ)探偵事務所の笠鷺(カササギ) 美斗(ミト)と申します。ここには仕事で調査にきています」


 なんと、探偵さん!

 リアル探偵さんとか初めて見た!


「えーっと、私は雨羽(アモウ) 霧香(キリカ)です。

 朱ノ鳥学園高校の一年生で、隣のクラスの子が、この辺りに肝試しに行ったきり帰って来ないって話を聞いて、調べに……」

「お一人で、ですか?」


 笠鷺さんが驚いた顔をする。

 まぁ、確かに一人で来るような場所じゃないかもしれないけど……


開拓(フロンティア)能力が使えるので、最悪の場合は一人の方が動きやすいので」

「ああ……なるほど」


 どうやら納得してくれたらしい。

 それ以外にも『目』のこともあるけど、そこは口にしなくていいよね。今ので納得してくれているし。


「ふつうの方が一緒だと、いざという時に能力を使うかどうかの躊躇いも出ますからね。緊急時はその一瞬の躊躇いすら命取りの場合もありますから」


 この人もこの人で、結構な修羅場を潜ってるのかもしれない。

 見た目だけなら童顔なせいもあるからか、大学出たての新人社員さんって感じでもあるんだけど。


 いや今の状況の場合、向こうから見た私の方がそういう風に見られちゃうかもしれないね。


「それにしても、朱ノ鳥学園の生徒さんですか」


 笠鷺さんはしばらく考えるようにこちらを見て、自分の中で何らかの納得や結論が出たのか、小さくうなずいてこちらを見ました。


「私が受けた依頼は、貴女が探されている生徒さんの捜索です。

 もし可能でしたら貴女がお持ちの情報を頂けないでしょうか?」

「情報といっても……」


 こういう時に必要なのが、駆け引きの能力というものなのかもしれないなぁ……。


 どうすればいいんだろう……。

 情報なんてロクに持ってないけど、向こうはそれを知らないならカードとして使えなくもないけれど……。


 でも、誠実そうな人だから、そういう嘘みたいなことは……。


 そう考えると鷲子ちゃんって、大人と駆け引きするようなやりとりできてるのすごいよねぇ……。

 年下のはずなのに、私より背が高くて美人だから、あこがれのお姉ちゃんみたいに感じちゃう。


 ……って、思考がズレてきた。


「なら、情報交換しませんか?

 笠鷺さんは、稲果(いなはて)市側から歩いてこられたんですよね?」

「はい。では、そちらは府中野(こうや)市側から?」


 問い返されて、私はうなずく。


 駆け引きとか難しいことは考えないで、可能な限り対等でいられるように話を進めていくことにした。

 それでうまく行くかはわからないけど。


「三人はここから少し先――稲果市側へ行ったところにある、コンクリート造りの廃ビルに行くって話は聞いてたんですけど」

「あ、それなら先ほど見てきました。こちらもそう伺っていたので。

 でも、そこには誰もいなかったんですよね。うちも警察も、誘拐の線も考えてはいるのですけれど、それだと誘拐犯側からの声明が何もないのが気になりまして」

「そうですか」


 そう嘆息して、私は目の前のお屋敷を見上げる。


「ここ、ですか?」

「そうですね。府中野市側から歩いてきた感じだと、怪しいのはここか、少し手前の研究所ですけど……。

 研究所は元々の厳重さが今も残ってる感じで、ふつうの女子高生の行動力だと、研究所には入らないかなぁ……と」


 ……そうなると……。


「一番怪しいのは、ここ――ですか」

「はい」


 私の横で笠鷺さんも、お屋敷を見上げる。


 それにしても、近くに研究所があって、こんな洋式のお屋敷があるなんて……なんて言うか、サバイバルでホラーなゲームを思い出す。


「これ、ガチのお化け屋敷だったりしませんよね?」


 笠鷺さんがそんなことを呟くので、私は思わず――


「どちらかというと、幽霊とかの超常現象よりも、超科学によって生み出された異形がうろついてる可能性の方がありそうじゃないですか?」

「…………」


 想像していた通りのことを口にすると、笠鷺さんの口元がひきつった。

 意外と、恐がりな人かもしれない。


「まぁそういうクリーチャーが実在しているのなら、もっと前に話題になってるし、とっととこの廃棄地区自体が消えてると思いますけど」

「そ、そうですよねッ!」


 探偵って仕事を思うと、素人の私が一緒に行きたいっていうと断られそうだけど、今なら勢いで一緒に入れそうじゃない?


「怖がってても仕方ないですし、行きましょうか」

「え? あ、はいッ!」


 お互い、ここを調査しないといけないなら、一緒の方がラクだと思うし――何より、いざという時に開拓能力を隠す必要がない人と一緒っていうのは気が楽でもあるしね。


 私が歩き出すと、笠鷺さんが慌てて追いかけてくる。


 倒れた門を踏み越えて、私は舗装された庭の道を歩く。

 なんか女神像みたいなのがお庭に建ってるんだけど、ずいぶんとボロボロで、なんかかわいそう。


 ただ、こう――ゲーム脳というかオタク脳というか……そういう目線で見ると、あとでこの女神像の元に何か持ってくるとアイテム手に入るんじゃないだろうか……とか妄想(かんがえ)ちゃうことは許してほしい。


 ともあれ、何事もなく玄関に到達した私は――ふとした思いつきで、ストールを右手に巻き付けてから、ドアノブを回した。


「問題なく開きますね」

「雨羽さん……物怖じしなさすぎません?」

「能力者同士の戦いに巻き込まれたり、ピースっていう化け物が跋扈する異世界に連れて行ってもらったりしたので」

「前者はともかく後者は自分で望んだんですか?」

「まぁ色々あって、はい。一緒に連れてってとお願いして」

「ほんと物怖じしないんですね」


 なんだか呆れるのを通り越して関心されるようなリアクションをされてしまった。


 玄関を抜ければ大きなエントランス。

 懐中電灯で照らしながら様子を見てみると、絵に描いたようなエントランスだ。


 本当に西洋風の造りなんだなぁ……西洋風のお屋敷なんて映像とかのメディアとか物語の中でしか見たことないんだけどさ。


 そのまま、ゆっくりとエントランスの中央あたりまで歩く。


「…………」


 チラリと横を見ると、笠鷺さんは適度に警戒しつつ周囲を見渡している。さっきまでの怖がった様子もないので、スイッチが入ると行動力が変化するタイプの人なのかな?


 ……でも、気づいてなさそうだよねぇ……。


「笠鷺さん……」

「ん? どうしました?」

「信じて貰えるかどうかわからないんですけど」

「はい」

「開拓能力に目覚める前から、霊感というか霊が視えるというか、そういう能力を持ってたんですけど」

「ああ、いますよね。そういう人。私は知り合いにいるので信じますけど、どうかしました?」


 どうかしました? と聞き返しながらも、やや顔がひきつり始めてるので、こちらの言うことに気づいたみたいです。さすが探偵さん。


「何も視えはしないんですけど……玄関を踏み越えてからというか、エントランスの真ん中辺りまで歩いてからというか……とにもかくにも、物凄い嫌な予感というか空気というか気配に包まれてるんですけど……」


 笠鷺さんは露骨に――うあぁ……という顔をしました。


 次の瞬間――


「え?」

「あら?」


 バタン!! ――という大きな音を立てて、開けっ放しにしていたはずの玄関が勢いよく閉まる。


 唐突に思いつき、スマホを取り出して画面を見てみれば何故か圏外。


 こうなると、ちょっと笑えてきます。

 逃げられないなら立ち向かうしかないですよね。


「じゃあ、まずは一階から見て回りましょうか?」

「……ほんと、物怖じしなくないですか?」


 笠鷺さんが顔をひきつらせながらそう言います。


 ……うん、まぁ……錐咬の一件以降、ちょっと吹っ切れた部分があるっていう自覚はある……かな。



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