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30.第一メイズ:悪霊の髪々


「鷲子ちゃん、今のってチュートリアルみたいなもん?」

「いえ、むしろチュートリアルのフリをした『それじゃあ練習を兼ねた実戦をしよう。いくよ? ……じゃん・けん・死ねぇぇぇぇッ!!』くらいの敵とのエンカウントでした」


 草薙先生の質問に真顔でそう答えるものの、先生含めた三人はどうにも納得してない顔をしています。


 こう――手応え的にな話をするならば、今のクピードー型は結構手強い部類に入ると思うんですよね。


 いや、確かに私は瞬殺しちゃいましたけど。

 今の雨羽先輩だけだと、恐らく勝てない程度には強いクピードー型だったと思います。


 物語中盤頃に出てくるような強さと言いますか……。


 うん。私たち三人とも、クピードー型に何もさせずに倒しちゃったんで、強さがとても分かりづらいんですけど。


 ……っていうか、草薙先生はともかくですね。和泉山さんは能力者でもないのに、なんで瞬殺できてるんですかね??

 いくら雨羽先輩の協力があるとはいえ――ねぇ?


 まぁともあれ、初めて挑むメイズにしては敵が強いってマズいかなぁ……などと思ったものの、何一つ心配のいらないメンバーのようです。


 これ、私が高校二年生になる頃に雨羽先輩が中心になって能力者を集める開拓部を設立する必要あるのでしょうか?

 ……あー……いえ、まぁ立ち上げないと逆に問題が増えそうなので、是が非でも立ち上げてもらいたいところですけど。


 何やら混乱してきた頭を冷やすために(かぶり)を振って、気を改めます。



 こうして迷路のように入り組んだ畦道(あぜみち)を進み、先へ先へと歩いて行きます。


 途中、サラサラの黒髪ロングのウィッグを被った巨大なカエル型ピースやら……

 雄と雌の二匹の蛇にいやらしく絡みつかれた艶めかしい姿のマネキン型ピース――髪だけは完全に私――やら……

 パカリと口を開けると中では炎の代わりに髪の毛が揺らめいている巨大なお化け提灯型ピースやら……


 色々なピースたちが襲ってきましたがほぼほぼ瞬殺でした。



 ……なんていうか、ラスボス直前のセーブポイントでセーブしたのちに、取りこぼしのイベントや宝箱回収の為に、中盤くらいのダンジョンを巡っている感じですね、これ。

 あるいは、ゲームクリア直前に攻略してないことに気づいた中盤発生イベント用のサブダンジョンを探索をしているというか……。


「手応えねぇなぁ」

「あっても面倒なだけだ」

「これなら何とかなりそうですね」


 しかも道中、雨羽先輩が和泉山さんにナイフの使い方を教わり始めたりして、私は何とも胡乱な眼差しになってしまいます。


 ……そういえば、正史(ゲーム)だとナイフ使いでしたね先輩。


 なんていうか、気分はもう……

 『もうどうにでもな~れ(AA略』って感じです。


 そろそろこの迷路のような畦道は終了するのか、巨大な神殿が迫ってきました。


「髪を奉る神殿……か?」

「そうなんだろうな」


 神殿の周辺には『髪に感謝を』『髪に祈りを』『髪と和解せよ』などなどの看板や張り紙があります。

 そのせいで、神秘的な雰囲気の神殿が色々台無しです。


 ともあれ、そんないかにも意味がありげな神殿に近づいていくと――古代ローマの兵士を象ったような石膏像のような巨大ピースが現れて、道を塞ぎます。

 見た目は美術室に飾ってあるような質感で、二メートルよりは大きいくらい。

 シンプルな石膏剣に、小さな丸型の盾といった出で立ち。

 そして、被っている兜の隙間からサラサラと黒い髪が見えているのですが、その違和感が凄まじいのです。


「このメイズのボスかな?」

「いえ、いわゆる神殿の入り口を守る中ボスかと」


 雨羽先輩の言葉に、私はどこかやる気なく否定します。

 その姿に、草薙先生が首を傾げました。


「なんかやる気なくなってない?」

「だって、みなさん瞬殺するんでしょう?」


 危険そうならフォローしますけど、これまでの流れを思うと――


「はい」

「まぁな」

「今回もがんばるよッ!」


 ――このメイズの中ボス程度なら、苦戦とかしなさそうですもんねッ!?


 


 予想通りに瞬殺して、私たちは神殿に踏み込みます。


 え? 石膏兵士とのバトル?

 ()かして、踏んずけて、最後にこめかみを無数の銃弾で打ち抜いて決着です。

 それ以外の様子はありません。




 次です次。




 神殿の中を歩いていると、やがて広い部屋にでました。

 その部屋の左右の壁際にずらりと並ぶ石像に、私はこめかみを押さえます。


 私です。

 私の石像がいっぱいいます。

 どれもこれも髪の毛だけは本物のようですが……。


 その部屋の一番奥。

 祭壇のような場所に奉られているロングヘアの女性の石像だけは、私ではないようですが……。


 石像の台座には、何やら文字が彫られているようです。


『髪々の素晴らしさを教えてくれた女神にして、その素晴らしき髪々を切り捨てた愚かなる女の像』


 この石像の女性こそが、恐らくは錐咬香兵という人間にとっての始まりの人物なのでしょう。


《その像に……触れるなぁぁぁぁぁ……ッ!!》


 私がそれに触れようとした時、メイズ全体に錐咬の声が響きわたります。


「どうやら、これがコアのようですね」

「憧れの近所のお姉さんってやつかね」


 過剰な反応からコアと断定すると、横から肩を竦めるように草薙先生が(うそぶ)きました。


 その直後――石像の髪の毛がパラリパラリと見えないハサミに切られるように減っていき、やがてベリーショートへと髪型が変わっていきます。


 直後、その女性の像は徐々に禍々しい姿へと変化していくではありませんか。


「これは……憧れた女性が髪をバッサリやったコトへのトラウマか何かか?」

「そうなんだろうなぁ……いつの出来事だかわからんけど、結局のところガキの時に拗らせた原因なんだろうよ」

「その時から押しつけがましい人だったってコトですよね?」


 何気に先輩が辛辣な気がしますが、とりあえず私は小太刀を鞘に納めたまま構えます。


 そして、女性像の身体の左半分は天使のようにように美しく、右半分は悪魔のように禍々しく変化していき――


《オレは髪を愛でたいだけなんだッ!

 オレは髪が大好きなんだッ!

 みんな髪を大事にすべきなんだッ!

 なのにッ、なんでッ、なんでッ、なんでッ!

 どいつもこいつも綺麗な髪も汚い髪も、どんどん切っていっちまうんだよッ!!》


 ――キョァァァァァァァァッァ!!!!


 錐咬の切実そうな叫びに合わせて、女性像は雄叫びをあげました。


 その奇っ怪な雄叫びに雨羽先輩は若干、ヒキながらも、思ったことを口にします。


「錐咬さんって……綺麗な髪が好きなわりに、綺麗な髪をより綺麗に見せる髪型とかに興味なさそうですよね。

 根本的に、美容師さんに向いてないっていうか、カメラマンとかの方が良かったんじゃないかなぁ……」

「同感ですね。結局のところ、どこまでいっても独りよがりでしかないのでしょう。誰も理解してくれないのではなく、そもそも誰かに理解してもらう気すらないようですし」


 それにも関わらず、誰にも理解されない孤高の美容師みたいな顔をされても困りますよね。


「理解してもらう気がない――か。お嬢様方の言うとおりなのでしょう」

「綺麗な髪って概念に依存しすぎて、髪に関わる未知なる道ってやつに踏み込めなかった臆病者ってだけだろ」


 寄ってたかって――とも言えるような言葉ばかりですが、それが聞こえていただろう錐咬は、叫ぶような声を神殿に響かせます。


《黙れッ、黙れッ、黙れッ! 誰もッ、誰もッ、誰もッ!

 髪の素晴らしさをッ! 髪がもたらす幸福をッ! 髪に与えられし幸福をッ、何一つ理解しようとなんてしてくれてないッ! 理解しようともしないくせにッ! オレの信仰を貶めやがってッ! 髪への信仰を理解しようとしない奴らは髪だけ残してみんな死ねッ!! やっちまえッ! ヘアー&エイリアン・コアレディ!!》


 命令に従ってコアレディはその翼を広げます。

 左は純白の白鳥のモノ。左は漆黒のコウモリのモノ。そんないかにもな翼を広げて、コアレディは私達に襲いかかってきました。




【TIPS】

 鷲子は大人コンビの戦闘力に驚いているので失念しているものの

 こんな場所に未熟な霧香を連れてきている以上、やっているコトは完全にパワーレベリングである。

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[一言] 面子的に、変身前に倒してしまってもよかったのにw
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