表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/112

3.俺の娘

新連載٩( 'ω' )و3話目

今回は、パパ視点のお話です

3/4


【View ; Kensei】


 鷲子が突然倒れたと聞いて、心臓が竦む思いだった。


 妻である美鳩は、五年前の事故で先立っている。

 その事故の原因をずっと自分のせいだと責め続けているのか、鷲子はそれ以降、内気で暗めで、やや引きこもり気味の子になってしまったのだ。


 だが、それでも、鷲子は生きていてくれたことを、俺は嬉しく思っている。


 どんな子に育っても良い。

 生きていれば――いつか自分を許せる日が来るだろう。


 そのいつかを切実に願い、そして今日を生きていてくれることに無情の喜びを得る。

 例え言葉を交わすことが出来ない日があろうと、そう願い続けることこそが、俺の生き甲斐でもあった。


 鷲子に必要のない苦難は、可能な限り俺が退ける。

 常日頃、そう思っている俺の元へと届く、鷲子が倒れたという連絡。


 余りにも気が気でなくて、それが仕事をする姿にも現れていたのだろう。

 秘書の熊谷(クマガイ)が、こちらを気遣うように微笑んだ。


「会長。後のコトは引き受けます。様子を見に行かれてください」

「すまない。可能な限り早めに戻る」



 そうして慌てて自宅へと戻り、迎えてくれたお手伝いの藤枝(フジエダ)に、様子を訊ねる。


「お呼びしたお医者様の診断では、疲労とストレスによる一時的なものだと」

「そうか……」


 俺がうなずくと、藤枝も不安げな顔をする。

 ストレス――その要因が、何となく見当がついているのだろう。


「少し、鷲子の様子を見てくる」

「はい」


 手荷物を藤枝に手渡し、俺は家の二階にある鷲子の部屋へと向かった。


 ノックをすると、返事が返ってくる。

 どうやら、目を覚ましているようだ。


 鷲子と交わす言葉は、いつも通り、淡々とした最低限のもの。

 それでも、普段あまり言葉を交わせない故に、個人的には充足に満ちた時間だった。


 そうして、もう一眠りするという鷲子を邪魔にならぬよう、部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。


 その時だ――


「……お仕事はどうされたのですか?」


 鷲子がそんなことを聞いてきた。

 あまりにも嬉しくて、俺は目を輝かせながら振り返ってしまった。


 我ながら少し勢いが良すぎた気がするので、努めて冷静に、いつも通りの雰囲気を取り戻すように答える。


「仕事も……会社も……確かに大事だ」


 こんな風に聞かれてしまうくらいには、俺は仕事人間だと思われているらしい。それは何も間違ってはいない。

 娘に、そういう風に見られてしまっていることは、些か寂しくはあるのだが。


「だがな――家族は、もっと大事だ。俺が言っても説得力はないかもしれないがな」


 だからこそ、本音を口にする。

 少しでも、鷲子の心にこの言葉が届いて欲しくて。


「何よりな、美鳩に――お前の母親に先立たれ、お前にまで先立たれて、俺だけ残ってしまったら……そう思うと怖くてな」


 だから、お前には生きていて欲しい。

 父親として、そう願う――そんな思いを乗せた言葉を口にしたことが急に恥ずかしくなって、頭を振る。


「詰まらぬ弱音だったな。忘れてくれ。

 だが、お前が大事なのは嘘ではない。養生してくれ。

 体調が整わないなら、明日は学校を休んで構わん」


 それを誤魔化すように、鷲子へとそう告げて部屋を出ていく。


「はい。ありがとうございます」


 鷲子のそれに応じる言葉に、俺の口元は自然と綻んだ。




「旦那様、お嬢様は……」

「ああ。もう一眠りするそうだ。休ませてやってくれ」

「かしこまりました」


 そうして、藤枝とともに一階へと戻る。

 階段を降りきった辺りで、俺はもう我慢ができなくなっていた。


「藤枝」

「はい」

「鷲子とかなり長い会話ができたッ!」

「おめでとうございます。ですが、前々から言っておりますが、お二人とも歩み寄りたがっているのですから、もっと互いに踏み込んでいけば良いのではないでしょうか?」

「確かにそうかもしれないが……踏み込み方を間違えて、鷲子から嫌われてしまうのは怖いじゃないか。嫌われるくらいならこのままでも」

「学生の初恋ではないのですから……」


 藤枝が苦笑するが、俺にとっては非常に重要なことなのだ。


本日は、あともう1話公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~

紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~


短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
[良い点] パパかわいいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ