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24.和泉山 静音は、凛然と


【View ; Sizune】


「二人に祈りを――手早くも懸(インスタント)命なる祈り手(・プレイヤーズ)ッ!」

 

 キリカの言葉が聞こえると同時に、身体の奥底から力が沸いてくる感覚に襲われる。

 不快ではなく、心地よさがあるものの、さりとて昂揚することはない。


 いや、もしかしたら能力の効果に昂揚を抑える力もあるのかもしれないな。


 そして効果を実感すると同時に、うっすらとだが草薙のそばに巨大なカタツムリがいるのが見えた。


「ふむ。単純に力が増すだけでなく、本来は見ることのできない草薙のカタツムリ――キリカのストールもだが――をうっすらとだが見えるようになったな」

「そいつはすげぇや。でも強化は一時的なモンだから、過信すんなよ」

「無論」


 草薙からの忠告に、わたしは素直にうなずく。

 素晴らしい力であるのは間違いない。だが、一時的なものであるという自覚もある。


「さて、お嬢様に掛けられた洗脳は、本体を叩けば治る……と考えていいのかな?」

「たぶんな。あくまで能力による洗脳だ。能力の効果が薄れれば、彼女は自力で脱出できると思うぜ」


 頼もしい言葉だ。

 草薙は、お嬢様と同じく、能力者としての経験が豊富のようだな。


「お前がお嬢様にカタツムリをけしかけた理由については、あとで問うとしよう。今は、背中を預けるに値すると判断する」


 そう告げて、錐咬に向き直った時、なにやら草薙とキリカがぼそぼそと囁きあっているのが耳に届く。


「姉御ってさぁ……カッコいいんだけど……」

「はい。どことなく古風な感じしますよね」


 ……古風?? わたしが古風????


 気になる言葉ではあるが、今は気にしている場合ではないな。


「お前らさぁ……何で堂々とオレを無視してるかなぁ……」

「そう思うのであれば仕掛けてくれば良かっただろう?

 仕掛けて来なかったのは草薙を警戒していたからだ。違うか?」


 草薙が錐咬に殴り掛かった時、ヘアーマンはそれを妨害しようと動いていた。だが不自然にその動きを止めたことから、草薙のカタツムリが何かしたのだろう。


 だからこそ、仕掛けたとしても、草薙に妨害されてしまう可能性を考慮して動けなかった――と言ったところか。


 こちらがうっかりお喋りに興じていた間に彼がするべきは、むしろここから逃げることだった。

 だが、彼は出来ない。

 彼にとっては、()からの恵みであるお嬢様がこちらにいるからな。


 今は草薙が何かをしてくれたおかげで、虚ろな目をしたままぼんやりと立っているだけのお嬢様。

 だが、草薙の力がなくなった場合、また彼の都合が良いように動かされることだろう。


 そのことに関して草薙に感謝だ。

 だが、同時にわたしは酷く自分を許せない。

 能力者の存在を理解していながら、恐ろしさを理解していなかった。


 油断があった。慢心があった。

 お嬢様のようにもとより強い人間でもなければ、超能力を得たところで大したことなんてないだろうと思っている節があった。


 これは、わたしの慢心だ。

 だが、この手痛い失敗と、草薙・キリカ両名との出会いで理解した。


 能力者との戦い方を。

 相手の能力を見極めて戦うか、能力を使わせる前に潰すか、だ。


 そして、相手の手の内を理解し、性格を理解し、手段を理解している相手であれば、わたしにとって超能力とは特殊な武器でしかない。


「お前は他人の髪の毛をエイリアン化できるらしいが、さっきからずっとヘアーマンしか使っていないな?

 そこから推察するに、ヘアーマンとエイリアンは併用できないといったところか。

 人を操るにはエイリアン化した髪が必要らしいが――それにも関わらず、遠隔的にお嬢様を操ったことを思うに、ヘアーマンは一度、髪の毛を登録した相手が近くにいるなら、操れるんじゃないのか?」

「…………」


 錐咬は答えない。

 まぁ答えて貰う必要もないがな。


 元より、草薙とキリカへの忠告の意味合いが強い。


 それに戦う時はエイリアンへの注意はしつつも、ようするに本体をぶちのめせば解決するから、一気に押し切ればいい。


「どうした? 無視されているコトに腹を立てていたのだろう?

 話し相手になってやろうと言っているのだ。答えてみたらどうだ?」


 先ほどチラリとお嬢様を見たとき、赤いカタツムリが髪の中へと潜り込んでいくのが見えた。

 恐らく草薙は、あれが錐咬に気づかれないように隠したのだろう。


 あの赤いカタツムリがお嬢様にくっついている限り、草薙が守ってくれるはずだ。


 だからこそ集中しろ。

 錐咬を叩きのめすことに。


「ふむ。お喋りをしたくないなら、それでも構わん」


 グっと全身に力を込めて、錐咬を見据える。


「こちらもお前と言葉を交わすつもりはなかったからな」


 草薙とキリカが、ヘアー&エイリアンについて正しく理解してくれていればそれでいい。


「行くぞッ!」


 地面を蹴る。


 自分の想像を遙かに越える速度が出る。


 だが、想定とは違う加速の中で、酷く冷静な自分がいた。


「……ッ!」


 一瞬遅れて錐咬が動く。

 ヘアーマンが拳を振り上げる。


 わたしとヘアーマンの間に、二足歩行する巨大なカタツムリが割ってはいってきた。


 カタツムリの一歩後ろには草薙もいる。


 ヘアーマンはその場で(ほど)けるように広がり、草薙のカタツムリを避けながら、わたしへと向かってくるが――


「一手の遅れが致命傷だな」


 これだけの速度で動けるからこその、致命的となった一手の遅れ。

 もう一歩地面を蹴って、わたしは錐咬の側面に回り込む。


 (ほど)けて広がりながらこちらへと向かってくるヘアーマンは、まさに髪の毛一本分、わたしには届かなかった。


「ズェェェェラァャッ!!」


 喉の奥から気合いを迸らせ、錐咬の鳩尾(みぞおち)へと左膝を叩き込む。


「ぐが……」


 うめき声と共に身体をくの字に曲げる錐咬。

 同時に、ヘアーマンの動きも止まる。


 本体の精神や意識で操作しているのであれば、ダメージで思考が停止すればこうなるのだろう。


 ならば、好都合。


 続けざま、わたしは頭上で両手を合わせると、そのまま錐咬の後頭部へと振り下ろした。


 錐咬は顔から勢いよくアスファルトへと突っ込んでいく。

 ふつうの場面であれば、これで決着だ。


 今回も、ヘアーマンの身体がほぐれてどんどんふつうの髪に戻って地面に散らばっていく。


 だが、これで終わらせたくないと思う自分がいる。

 もっと、このバカを殴りたいという衝動がある。


 だからわたしは、左手で錐咬の後頭部を鷲掴みすると、乱暴に真上へと放り投げ――


 落ちてくる錐咬へ向けて、渾身の右ストレートを叩き込んだ。


「姉御、容赦ねぇな……」


 そんなわたしを見ながら、何故か草薙が顔をひきつらせていた。




【TIPS】

 和泉山さんには、友達以上恋人未満のような男友達がいるらしい。

 学生時代からの付き合いらしいのだが、二人の知人が傍目から見ていると、良い歳したカップルが学生同士のウブな空気を醸し出していて、じれったくなるそうだ。


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