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16.和泉山 静音 と でんでん虫 1

ここからしばらく、鷲子以外の人物の視点が多めになっていく予定です。


【View ; Sizune】


 わたしこと和泉山(いずみやま) 静音(しずね)が、その女性――邑雲(むらくも) 白瀬(しらせ)と出会ったのは本当に偶然だった。


 だけど、その出会いは間違いなく――出会い方はともかくとして――最友との出会いと言って良いものだった。



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 わたしは普段、十柄家でガードの仕事をしている。

 旦那様やお嬢様の身辺警護ならびに、お屋敷内の警備が主たる仕事だ。

 ……まぁわたしの場合はそこに表向き、という言葉が付くが。


 犯罪――とまではいかないものの、秘密裏に犯罪スレスレの行為をやらされることはゼロではない。


 とはいえ、基本的には情報収集がメインだ。

 あとは十柄家を狙う不埒な輩に対しする警告などもするな。

 一度、いわゆるヤクザと呼ばれる者たちの屋敷に殴り込みを旦那様から頼まれたこともある。


 ともあれ、そういう荒事を担当させられているのがわたしだ。

 もちろんわたし以外にもそういうことを担当している者はいるぞ。


 言ってしまえば、十柄拳聖が子飼いしている私兵だ。


 わたしを含めたその私兵部隊を『シャドウ・プレイヤーズ』と言う。

 元ボディーガードやら元暗殺者やら、元どこぞのスパイやらを寄せ集めたのが、我らがメンバーである。

 旦那様がどうやって我らを寄せ集めたのか……その方法は、勧誘されたわたし自身もよく分からないがな。


 わたしの場合は知り合い経由で旦那様を紹介されて、旦那様の勧誘に二つ返事をして以降、ずっとここにいるので、他のメンバーがどう集まってきたのかはよく分からないのだ。

 まぁみんな臑にキズがあるようなので、いちいち聞いて回る気もないのだが。


 さて、そんなわたしが、新たなる任務を言い渡された。

 それが――


「お嬢様の警護、ですか?」

「ああ」


 これである。


「基本的に鷲子の私生活にはあまり干渉しないように――という点では今まで通りなのだがな……少々、問題が起きた」


 旦那様の言葉に、わたしは改めて背筋を伸ばす。


「これから話すコトは、シャドウ・プレイヤーズの中でも君にしか話さないコトだ」

「そのようなお話を何故、自分に?」


 頼られることは嫌ではない。

 だが、警護の仕事であれば自分よりも腕の良い者もいるはずだ。


「鷲子と共に街を歩いていても違和感のない者。

 その中で、柔軟性が高く、突発的な異常現象にも冷静に対応できそうなコトを重視した」


 突発的な異常現象――その言葉が妙に耳に残る。

 ともあれ、自分が選出された理由は理解した。


「さて、ここからがオフレコだ」


 旦那様の纏う緊張感が増す。

 どうにも、ただの警護の仕事ではなさそうだ。


「和泉山。君は開拓能力者(フロンティアアクター)という言葉を知っているか?」

「いいえ。何かのコードネームですか?」


 訊ねると、旦那様は首を横に振る。

 それから返ってきた言葉はにわかに信じ難い話だった。


「今、この街で増えている超能力者たちの総称だ。

 超能力の名称を開拓(フロンティア)能力と呼ぶコトから、使い手を開拓能力者と呼ぶようになったらしい」

「超能力者……ですか」

「ああ。もっとも、いわゆる我々がイメージする超能力者……念動力(サイコキネシス)や、発火能力(パイロキネシス)などよりも、ずっと限定的な能力のようだがな」


 コツコツコツ……と、人差し指で机を叩きながら、旦那様が解説をしてくれる。


「人の心の在りようが、超常識の能力という形になったモノというのが一番近い考え方だそうだ。

 誰がそう呼び出したのかは知らないが、彼らは本来『未知なる道へ踏みだし切り拓いていく勇気ある者』であり、その為の力というコトからフロンティアという名称を付けられたそうだ」


 超能力者についての話が本当か嘘かは脇へ置くとして――旦那様の説明の中でわざわざ『彼らは本来』とつけた理由はなんだ?


「最初に言った通り、この街を中心に開拓能力者が増えている」

「それはつまり、本来の勇気ある者以外が能力を手に入れいているというコトですか?」

「その通りだ。ちなみに、これらは鷲子のもたらした情報ではあるのだが、頭が痛いコトに事実であると判明した。全てが全て事実と判明したワケではないがね」


 全てでなくとも、超能力者の実在などが判明してしまったというのであれば、受け入れるしかない。


「そして、鷲子もまた開拓能力者となった者の一人だ。

 もっともあの子の場合、手に入れた力を無闇に振り回すような馬鹿ではない」


 いつもの親馬鹿ではあるものの、その認識は間違っていないだろう。

 お嬢様は些か陰気なところはあるが、だからといって道理を知らぬ愚か者ではないのは、屋敷にいる者としては周知の事実。


 読書が好きの大人しい少女ではあるが、間違いなく十柄家の血筋である運動能力を持っている。


 ……いや待て、運動能力はさておき、かつての事故以来、やや引きこもり気味になっていたお嬢様がどうして街で発生していること正しく理解している?


「同時に鷲子は、やはり十柄家の子だ。

 力を手に入れた以上は、その力を持つ者として責任を果たそうとしている」

「責任、ですか?」

「そうだ。開拓能力を得て調子に乗っている輩を諫め、とある方法を用いてその能力を取り上げていきながら、この能力者多発現象の謎を追いかけると言っていた」

「それは……」


 さすがに正気を疑う話だ。

 いや、正義感という意味では正しいのかもしれないが、超能力者が増えるなどという原因も意味も不明な現象の謎を追いかけるというのは、理解しがたさはある。


「そこで、君への任務の話へと戻ってくる」

「はい」


 一体、自分は何をやらされるのだ?


「鷲子には話を付けてある。

 君は時折で良いので、鷲子と共に出かけてくれ。特に何も起きなければそれで良いが、起きたのであれば、状況終了後に詳細な報告をして欲しい」


 それはつまり――


「お嬢様の警護――というのは建前と認識しても?」

「そうだ。だからこそ、君だったというのもあるな」

「それはどういう……」

「無論。傍目から見れば散歩しているようにしか見えない状況なのだぞ? 男を護衛に付けたらデートに見えてしまうではないかッ!」

「…………」


 かつての奥様と藤枝女史が共に歩く姿は、同性同士でありながらどう見てもデートでしたけど、それは良かったので? ……と問うほど自分が愚かではなくて良かった。


「こほん。冗談だ」


 完全に真顔でしたけどねッ!


「ともあれ、どういうサイクルで出歩くのか。

 共に出歩くのはどういうやり方をするのか――そういう子細は鷲子と詰めてくれ。

 あの子が、未知なる道を切り拓いていくのに、協力してやって欲しい」


 さっきまでとは別の真剣さで、旦那様が頭を下げてくる。


「かしこまりました。謹んでお受けいたします」

「よろしく頼む。任務に従事するのは現状のところ君だけだが、便宜上『F事案件』と呼称する。

 人目があるところで口にする際は、そう呼んでくれ」

「はい」


 F事案件――これはさすがに、わたしにとっても未知の仕事だと言っていい。


「では和泉山 静音。任務を開始いたします」


 だが、与えられた任務はこなすだけだ。


【TIPS】

 和泉山さんは27歳らしい。

 物心つく頃には裏社会にいて、18の頃に拳聖にスカウトされたそうだ。


=====


そういえばちゃんと告知してなかった気がしますが

書き上がっているところに追いつくまでは、毎日更新の予定ですよ。

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