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14.味方と後ろ盾は大事です 3


 藤枝さんが私から離れたのを確認してから、私は小さく息を吐きます。


「私が開拓能力者(フロンティアアクター)だと知って頂いた上で、昨日の話をします」


 二人がうなずいて先を促すのを確認してから、私はうなずき返して続けました。


「最近ニュースで話題になっていた婦女子暴行事件――あれの犯人は、私と同じ開拓能力者でした」


 藤枝さんは目を見開き、逆にお父様は目を(すが)めます。

 お父様は僅かな思案のあと、すぐさま脳裏に過ぎったのであろう疑問を口にしました。


「能力者でした――と、簡単に過去形にして良いのか?」

「襲われたのを返り討ちにした上で、能力者に理解のある刑事さんに引き渡しましたので」


『…………』


 お父様と藤枝さんが、何故か同時に沈黙しました。


「冷静になってみると……いくら超能力が使えようとも、素人がお嬢様に勝つのは難しいのは確かですね」

「まぁ、そう……だな」

「相手の能力の発動条件に、『暴行を受けたとき』というものだったら対処に困りましたが、『他者の髪の毛に触れる』だったので、どうにでもなりました」


 もっと言うと能力者としてのレベル差というか技量差もかなりありましたからね。

 あの程度の相手に遅れを取るわけにはいきません。


「それと、能力を取り上げる手段がありますので後日とりあげる予定です」

「どういうコトだ?」


 お父様の言葉に少し思案してから、私は素直に説明することにしました。


「開拓能力者は現在――どういうワケか、府中野(こうや)市を中心に増えています」


 どうもこうも、前世の知識で能力者増加の理由も把握はしていますが、さすがにそれを口にするのは、急ぎすぎだと考え、あくまでも自力で調べれば分かりそうな部分にだけ触れることにします。


「そのうち、『何らかの感情を拗らせすぎて能力者になった人物』あるいは『能力者になったコトで何らかの感情を拗らせた人物』は、その心の中にある『迷い』をはじめとしたマイナスの感情が、メイズへと変化していきます」

「メイズとやらに変化していくとどうなる?」

「初期症状としては精神がより不安定になり、理性のタガが外れやすくなります」

「目覚めた超常の力に己を御しきれなくなるワケか」


 やれやれ――とお父様が嘆息するに、開拓能力者については信用してくれているようなので安堵します。

 私はお父様にうなずいてから、話を続けました。


「やがて拗れた精神と感情が肥大化していき、開拓能力が、本体である開拓能力者を飲み込みます。完全に主導権が入れ替わる形ですね」

「超能力が、人を使役する……と?」

「はい」


 さすがに訝しそうな藤枝さんですが、話の腰は折るまいと続きをうながしてくれます。


「そうなると、能力者を中心に現実をメイズが浸食し始めます」

「浸食しはじめるとどうなる?」

「メイズは誰もが心の中に持っている迷い。

 能力者の心の拠り所を中心に、現実にはあり得ない、文字通りの迷宮(メイズ)へと変化させていくのです」

「そうなった場合の対処法は?」

「開拓能力者であれば、メイズの影響を受けずに中へと突入できます。メイズの最深部にいる本体の目を覚まさせてあげるか、あるいはメイズの中核となっている開拓能力そのものの破壊するかすれば、解消されます」


 小さく目を伏せるお父様の頭の中には数多くの状況をシミュレーションしていることでしょう。

 ですが、今はそれは脇に置いておいて話を聞いて欲しいので、気づかぬ振りをして続けます。


「本体が正しく目を覚まし迷いを力に変えられれば、開拓能力者として一皮剥けますが、中核の破壊による解消である場合、基本的に能力者は能力を失います」

「なるほど、そこが能力を失わせるところに繋がるワケだ。

 だが、メイズが実体化した場合の対処法でしかないだろう? 今の説明では?」

「はい。その通りです」


 だからこそ、『能力を失わせる』というのは難しい。

 だけど、そこにモノさんの協力を得た場合は、話が変わります。


「確かに私を襲った美容師は、まだ実体化するほどの心のメイズは大きくはなっていません。

 ですが、とある方の協力があれば、ある程度の大きさになっているメイズであれば直接侵入可能なのです」

「つまり、不埒な能力者の心の中に侵入可能なメイズがあるのなら、その協力者とやらの力を借りて、侵入し、中核を破壊するコトが可能、と」


 私はゆっくりと首肯します。

 ただ、これで簡単に納得はしてくれないでしょう。


「お嬢様……その協力者というのが誰かと伺っても?」

「濡那原神社はご存じですよね? そこの社におわす神様――濡那原存在(ヌナハラノモノ)様です。私はモノさんと呼ばせて頂いておりますが」


 モノさんの名前を出すと、お父様は眉の皺を深め――


「あの神社には、奉られている神などいないはずだ」


 不思議そうにも怪訝そうにも見える顔をして、そう訊ねてきました。



【TIPS】

 鷲子の父である拳聖は、

 泣く子が見たらもっと泣くと言われる自分の顔に、

 微妙なコンプレックスがあるらしい。

 但し、誰にも言ったことはないそうだ。



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