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12.味方と後ろ盾は大事です 2


 モノさんとのやりとりを終えた頃には、だいぶ日が傾いていました。


 濡那原(ぬなはら)神社から自宅までだいぶ距離があるので、急いで帰ります。徒歩で。

 駅前でバスに乗っても良いんですけどね。歩くのが好きなので。


 モノさんとは、最終的にはモノさんの望みを叶えるから――と約束を交わし、協力関係になりました。

 ついでに、私以外の開拓能力者とモノさんがうっかり遭遇してしまった場合、私の存在は秘匿しておいて欲しいともお願いしてあります。


 未来において、共に戦うメンバーであっても、今出会ってしまうとどうなるかが分かりませんからね。


 そうして、周囲がだいぶ暗くなってきた頃、自宅へと帰ってきました。


「ただいま戻りました」


 玄関を開けると――


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 腰に手を当てて仁王立ちしている藤枝さんが待っていました。


「…………」


 パタン……と、私は玄関を閉めました。

 即座に玄関のドアが開いて、藤枝さんが顔を出して来ましたので、逃走失敗です。


 ……これは、お説教コースですね。



 まぁ、軽い散歩を……と言いながらも、こんな暗くなるまで帰ってこれなかったことは確かなので、甘んじて怒られようと思います。

 帰り道、歩かずにバスを使えば良かったっていう後悔は、脇に寄せておくことにしましょうね。







 お説教から解放されて、上着を片づけながら、ふと先ほどのお説教の最後の瞬間を思い返します。


「奥様の、いや――美鳩(ハト)の忘れ形見である貴女(おまえ)は、(おれ)にとっても娘のような存在なんだ。だから、あまり心配させんな」


 藤枝さんのお説教の結びはそんな言葉でした。


 それは、家政婦としての言葉ではなく、母の親友としての言葉でした。

 だから飾らない、少し乱暴な素の言葉遣いだったのでしょう。


 その顔は本当に苦しそうで、申し訳なくなります。


 ……付け加えるなら、これから高校二年の終盤までは、危険なことに色々と遭遇するのが決定付けられていますからね。ますます申し訳なくなります。


 ……いっそ、藤枝さんにも話してしまいましょうか。その方が申し訳なさがだいぶ薄れる気がしますし。


 それに――前世の記憶で思い返してみると、この手の物語って、主人公が超能力などを秘匿しすぎるあまり、逆に周囲との関係が拗れてピンチになるという展開が王道です。

 未来で藤枝さんやお父様とややこしい関係になってしまうのは、私としても望むものではありませんからね。


 それに――藤枝さんが言うように、彼女はお母様と仲が良かったそうです。


 文武両道の完璧超人系でありながら、小柄すぎて小学生と間違えられてしまうようなお母様のことを、『ハト』『子鳩(こばと)』『鳩子(はとこ)』『ぽっぽ子』『ミニ(ばと)』などと呼んでいたくらいの関係だったとか。


 ……そこだけ聞くとお母様は、藤枝さんにいじめられてたような気もしますが、そうでもなく。

 お母様も、藤枝緋鷺美(ひろみ)さんのことを、『サギちゃん』『ひーちゃん』『ろみちゃん』などと呼んでいたそうです。


 お前ら呼び方統一しろよ――と思わなくもないですけれど、ふざけずに呼び合うときは『ハト』『サギ』という鳥の名前で呼び合ってたようです。


 お嬢様ばかりの女子校に来るべくしてきたと言われるお母様。

 お嬢様学校に無理矢理放り込まれた、お嬢様にも不良にもなりきれない半端者を自称する藤枝さん。


 そんな二人は、お互いに『ハト』『サギ』と呼んで良いのはお互いだけという関係だったようで、私の中にある前世の記憶がキマシタワーとか叫びたがっています……。

 まぁ確かに話だけ聞くとそんな関係だったようにも思えますけど、実際のところはどうなのかは不明。

 でも、お父様であっても、二人を『ハト』『サギ』と呼ぶと叱られるらしいです。


 ともあれ――そんな親友の家の家政婦などをやってくれている藤枝さんは、どんな気持ちで働いているのか……そこは本人のみぞ知るというところではありますけれど、私のことを娘だと思っているというのは、きっと嘘ではないんだと思います。


 藤枝さんは私が生まれる前から、この屋敷で働いていたそうですし、私が生まれた時はお母様やお父様と一緒に生まれたことを喜んでくれたそうです。


 そういう意味では、もう一人のお母様なのかもしれませんね。


 だからこそ――私は一つ、決めました。

 モノさんや、冴内さんという動き回る上での困った時の後ろ盾を得ましたが、二人だけではどうにもならないこともあるでしょう。


 なので、もっと自由に動ける為の味方を増やしたいと思います。

 夜にこっそり抜け出す時に、家族にばれないようになんて面倒くさいことに神経を張り巡らせるのは精神の無駄遣いです。


 そう結論づけると、 私は顔を上げて、部屋を出ました。


「藤枝さん」


 それから藤枝さんを見つけると、彼女の顔を真っ直ぐに見て――


「どうされましたお嬢様?」

「お父様が帰ってきましたら、少しお話があります。

 お父様と藤枝さんと私の三人だけで話をしたいのですけど、可能ですか?」


 藤枝さんがそんな私をどう思ったのかはわかりません。

 ですが、こちらの強い意志だけは通じたのでしょう。


「わかりました。そういった場を作りましょう。

 今日、作れるかは分かりませんが……お嬢様のお顔を見る限りですと、お早い方が良いようですね」

「お願いします」


 あとは、その話し合いの場で、二人が開拓能力なんていう一種のオカルト現象を理解し受け入れてくれるかどうか……


 最悪、化け物扱いされて家を追い出される覚悟で臨んだ方がいいですよね。


 ……でも、あれ?

 仮に家を追い出されるとなると、フロンティアアクターズというゲームの流れが完全に狂う方向になっちゃって、ちょっとリスクの高い話し合いな気がしてきましたよ?




【TIPS】

 十柄家は古い家柄で、現代でも大きな企業の経営をしている。

 鷲子は本家筋ながら、今住んでいる家は祖父が建てた屋敷であり、

 祖父の趣味で、周囲からナメられない程度を保った小さめの屋敷になっている。

 本家の本邸は、別にあるらしいぞ。


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