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105.ゲームスタート

お待たせしました第三章開始です٩( 'ω' )و

こんなのんびりペースの作品ですが、今後ともよしなに!


【View ; Syuko】


「――そんな感じで、HERO(主人公)にちょっと接触してきました」


 駅前から少し外れたところにあるレトロな雰囲気の喫茶店。

 そこの片隅の席で、私――十柄(トツカ) 鷲子(シュウコ)が、最近あった出来事を同席している知り合いに話し終えたところです。


 その知り合いの女性――小説家の草薙(クサナギ) つむり先生は、人差し指をメガネのブリッジに当てて、とても苦しそうに顔を歪めています。


 お腹でも痛いのでしょうか?


「鷲子ちゃんさぁ……」


 しばらく顔を顰めていた先生は、その表情を呆れたものに変えながら告げます。

 先生のつけているカタツムリモチーフのピアスも、心なしか呆れたように揺れているのは気のせいでしょうか。


「君の前世の記憶ってヤツによると……この世界は、前世の君が好きだったゲームの世界そっくりなんだろう?」

「え? はい。そうですけど?」


 先生には以前にお話ししてますから、今更な確認な気がします。

 けれど、こういう時の先生が意味のない話のフリをするワケがないので、意味があるのでしょう。


『フロンティア・アクターズ』


 現代学園異能モノのRPG。

 青春ジュブナイルRPGというジャンルがついていたゲームですね。


 この世界は、そんなフロンティア・アクターズにそっくりな世界です。

 ただ今の私にとってこの世界はゲームではなく現実です。なので、ゲームではモブ扱いの一人一人の人間にだって、人生があるのだと理解していますよ?


「そして、今度の始業式からゲーム本編の時間軸になる、と」

「はい。前々から言っていたと思いますけど……」

「そんな世界で、ゲームのヒロインの一人でもあった君の目的は、主人公(HERO)との恋人ルートを回避しイチャイチャする世界線へ突入したくない――というコトでいいんだよね?」

「もちろんです」


 私が力強くうなずくと、先生は頭を抱えたような様子を見せながらコーヒーを啜りました。


「いいかい鷲子ちゃん。今し方、君が話してくれた内容を主人公――あるいは、プレイヤーの視点で思い返してみた方がいいぞ」

「……?」


 先生の言っていることの意味は分かりませんが、言われた通りプレイヤーになったつもりで思い返してみましょうか。


 前世で何周もしていたゲームですし、プロローグなどは結構印象に残ってますからね。バッチリ思い返せるはずです。



 ・

 ・

 ・



【View ; Player】


 タイトル画面で、ニューゲームを選択する。

 それから、コンフィグやゲーム難易度の選択をすれば、ゲーム開始だ。


 緑と黒のコントラストが強い不思議な空間の中央に、謎の鎧武者らしき者がいる。

 ガンマンが鎧を着ているような、鎧武者が上からガンマンの格好をしているような、不思議な姿をした彼が、こちらを睨む。


『……これから、現代の荒野を旅する物語を始める上での重要な話をしよう』


 低くくぐもっているようにも聞こえるが、ちゃんと聞き取れる声で鎧武者が告げる。


『この物語はフィクションである。

 現実によく似た世界、舞台、日常ではあるが、実在する人物、団体、思想や事象などとは無関係だ。

 それを理解し、同意できる者のみが、これより先、現代の荒野を旅する物語に参加する資格がある』


 YES/NOの選択肢が出てくる。

 当然、これはYESだ。


『いいだろう。お前の意志、承った。

 未知なる荒野の多くが拓かれ、多くの未知が既知となったこの世界は、何かを切り拓く必要性が希薄となっている。

 未知なる道を歩まずとも、既知なる道を歩むコトで生涯を終えるコトに誰も何の疑問も抱かぬ世界。

 それを間違っているとは言わぬが、だが――人々の中から未知なる道を進む意志が薄れているのもまた事実。

 誰もが困難なる未知への興味を失い、安易な既知だけを(ヨシ)とするならば、やがて世界は未来へと進むチカラを失うコトだろう。

 故にこそ、我は期待するのだ。

 苦楽を糧にし、困難に学び、隣人と救い合いながら、未知なる道を切り開く勇気を持つ者たち――開拓者。

 (なんじ)現代(いま)を生きながらにして開拓者精神を持つ者よ。願わくば、この世界から、未知なる未来が失われるコト無き選択を……』


 鎧武者のその言葉を最後に、視界がホワイトアウトする。

 次に、視界が開けてくるとそれは、モノレールの中だった。


梅ヶ谷(うめがや)、梅ヶ谷。お降りのお客様は忘れ物にご注意ください。

 梅ヶ谷を出ますと、次は終点、栗摩(くりま)センター駅となります》


 どうやら、うたた寝していたらしい。

 妙な夢を見ていた気がするが――


 モノレールが梅ヶ谷駅を出発する。

 ぼうっと窓を見ていると、雑居ビルの壁にトレーディングカードゲームと書かれた看板を見かけた。


 ほどなくして終点に着く。

 先ほどの看板の位置を思うに、カードショップは駅からすぐそばのようだ。


 約束の時間まではまだ一時間以上ある。

 駅から出たら、あのカードショップを目指すとしよう。


 そうして駅から出ると、看板の出ていた雑居ビルを見つける。

鈴星(スズホシ)ビル』という名前の、エレベーターの無い雑居ビルを四階まで昇ると、目当てのカードゲームショップがあった。


 トレーディングカード専門店『サム・スタァ』。


 この町に引っ越してきたばかりだし、よく遊んでいるゲームを取り扱っているかどうかの確認くらいはしておきたい。


 非常ドアじみた重い扉を開けて中へ入ると、思ったよりも綺麗な店内だった。

 ある意味で特有の匂いも感じるが、自分が知っているお店と比べるとだいぶ薄い。


 店内はやや暑い。

 一応、エアコンは効いているようだし、商品を浮き飛ばさない程度に扇風機も設置してあるようだ。


 プレイスペースを見ると、長い黒髪の美少女が、生意気そうな小学生らしき男の子と対戦している姿があった。


「……いらっしゃい」


 目の下に隈がある顔色の悪い店員が、カウンターから声を掛けてくる。


「……お客さん、初めてだよね?

 うちは売買もスペース利用も会員登録者だけなんだ。利用したいなら、ちょっとこっちで登録してくれない?」


 手招きされてそちらへと向かうと、すぐ側の棚に、目当てのカードゲームシリーズのブースターパックが置いてある。


「……もしかして、新しいエキスパジション探してる? 悪いね。うち、初回入荷数少なくって。一応、発注はかけてあるからすぐに次を入荷すると思うよ。

 ……会員登録が済めば、会員証で2パックまでなら予約できるけど、どうする?」


 それはお願いしたいところだ――と、うなずく。


「……それじゃあ、これ。近々アプリ化する予定だけど、まだアナログでね。面倒かもだけど、記入よろしく」


 渡された書類に自分の名前を記入しよう。


 自分の名前は――


 名字:【嘉藤/カトウ】

 名前:【楽太/ラクタ】


 ――これで間違いないだろうか?


 OK大丈夫/もう一度見直す


 これでOKのはずだ。


 名前と、スマートフォンの電話番号を記載した書類を目の下に隈のある店員に渡そうとした時、書類が扇風機の風にあおられて飛んでしまった。


「……おっと、ごめん」


 受け取りそびれた店員がバツの悪そうな顔をする。


「あー! また姉ちゃんに負けたー!」

「強いカードだけをいっぱい積んでも勝てるものではありませんよ」

「むー!」


 ちょうど勝負を終えたらしい二人のところへ書類が飛んでいく。

 それに気づいた黒髪の少女が落ちた書類に気がついた。


 席から立ち、黒髪の少女はそれを拾う。


 ……?


 拾った時に、不思議そうな顔をしたあとで意味深に笑った気がしたのは気のせいだろうか。

 黒髪の少女は書類を店員に渡す。


「はい。どうぞ」

「……ありがと。悪いね」

「扇風機の向き、もうちょっと考えた方がいいのでは?」

「……ここが一番空調との相性がいいのが問題だよね」


 少女の指摘に店員は少し困ったように返す。


「姉ちゃん、もう一回やろうよ!」

「ごめんなさい。もうすぐ次の予定があるから。また今度ね」

「ちぇー」


 口を尖らせる少年に小さく笑ったあと、彼女はこちらへと向き直って微笑んだ。

 ミステリアスな微笑みを浮かべて彼女は訊ねてくる。


「最近、引っ越されてきたんですか?」


 どうして彼女はそれを知っているのだろうか。

 不思議に思いながらもうなずくと、彼女はミステリアスな笑みを深めた。


「新生活、大変かもしれませんががんばってくださいね。ではまたどこかで」


 彼女はそう告げて会釈をすると、自分のカードを片付けてお店から出て行く。

 美人ではあったものの、不思議な雰囲気の少女だった。


 本当にまたどこかで――それこそ、ここ以外で出会いそうな気がする。


「兄ちゃん、姉ちゃん狙い? ライバル多いと思うぜ~! おれとか!」


 生意気そうな小学生がそう言ってくる。

 確かにあれだけの美人でゲームが強ければ、言い寄ってくる人も多いことだろう。


「……はい。嘉藤さん、君の会員証。このまま予約してく?」


 予約ついでに、少しお店で遊ぶことにする。

 今日はデッキを持ってきてなかったのだが、お店のレンタルデッキを借りれたので、それを使って生意気な小学生と二試合ほど楽しんだ。


 そろそろ約束の時間が近づいてきている。

 これからお世話になる叔父さんが経営しているというレストランに向かうとしよう。


 目の下に隈のある店員と、生意気な小学生に別れを告げて、お店を出た。



  ・

  ・

  ・



【View ; Syuko】


「私ッ、物語のキーキャラクター系謎のヒロインムーブしちゃってませんかッ!?」

「うんうん。気づいてくれたようで何より」


 そりゃあ草薙先生もなんか呆れた顔しますよね。


「ラブラブルート回避したいと言うわりには、完全にメインヒロインどころかキービジュアルに描かれている謎のミステリアスヒロイン系のムーブしてるんだから世話ねーよな」

「ミステリアスヒロイン枠の金髪白人系美少女は別に存在しているハズなんですが……」

「大丈夫? その子の出番喰ってない?」

「大丈夫だと思うんですけど、ちょっと自信が……」


 そのつもりがないのに、完全にヒロインムーブしちゃいましたからね。


「最終的に町どころか世界が滅びかねないっていうラスボスさえ倒してくれれば、あたしとしちゃあ鷲子ちゃんがHEROとラブラブイチャイチャしてても問題はねーんだけどね」

「私からすると大問題なのですが!」

「じゃあ何で初手に意味深ムーブしちゃってんのさ?」

「……うう、返す言葉もありません」


 この世界のHEROの名前は各種メディアミックスごとに付けられていた名前ではない、この世界独自の【嘉藤(カトウ) 楽太(ラクタ)】と知れたは大きいと思うのですが。


「得たモノ以上に、失敗の方がデカくね?」

「ううぅ……先生が嬉々としていじってくる……!」

「そりゃあ、いじれるネタの鮮度がいいうちはいっぱいいじらねぇとなァ!」


 この喫茶店でお茶をしている間、先生にはこれを肴にずっとからかい続けられるのでした。



【TIPS】

 正史(ゲーム)においては、デフォルトネームはなく、ゲーム外ではHEROとだけ記載 


 なお、各種メディアミックスの際には名前が付けられていた


 コミカライズ版 才藤 由隆 - saito yutaka -

  TVアニメ版 園藤 佳貴 - endo yosiki -


※メディアミックス設定の名前

 何も考えずに書いてた一章の頃に記した名前から設定を変更しました

 小説本編にはなんら影響のない名前なんですが、フロアク的に他の主要人物とのかぶりがあるのはさすがにどうかと思いまして


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