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103.【閑話】謎朱鷺 - ナゾトキ - その4


 時間を奪われ大人となった六綿(ロクワタ) 帆紫(ホムラ)を病院へと入院させた日の翌日――


 草薙つむりは、依斗と共に大栗摩公園の高架下のトンネルにやってきていた。


「今日はお札をちゃんと持ってきてるんだな」

「昨日はバックル召喚したものの、お札が無いコト思い出して内心焦っちゃいましたからね」

「そのお札、常時キミが所持してられないの?」

「最近は通常フォーム用の札なら長時間保持できるようになったんですけど……。

 別フォーム――特にお札五種類使った五行フォームは、近くに依愛(ヨリア)がいてくれないと難しいですね」

「二人一組が大前提の能力ってワケか」

「はい」


 そんなやりとりをしている中、依斗がバックルを呼び出した。


「先生」

「ああ」


 見れば、昨日同様に対岸にナゾトキがいる。


 昨日の依斗の提案は、作戦と言うには乱暴なモノだった。

 だが、やってみる価値はあると感じたので、今日はその実験をする為にやってきたのだ。


「じゃあ、実験と行きましょう」

「おう。頼んだ」


 つむりの言葉にうなずき、バックルを腰元に当てる。

 そこからベルトが伸びで腰に巻き付いた。


「すげー!」

「なにいまのー!?」


 いつのまにやらちびっ子たちが近くにいて騒ぎ出す。


「せ、先生……」

「おら、お前ら見学するのはいいけど少し離れろ。

 ナゾトキはすごい危ないトリだから、退治できないか試すところなんだ」

「はーい!」

「あ、つむりせんせー! こんにちわー!」

「おねーちゃんたちまたいるのー?」


 どうやら小学生の集団の中には、昨日の子供達も混ざっているようだ。


 つむりがどうにか集まってきた子供達を散らしたところで、依斗に視線を向ける。


 すると、依斗はキリっとした顔をして札を握ると、バックルのコックカバーを開く。それから普段はあまりやってないようなポーズを取った。


「無駄なサービス精神発揮するなよ」


 思わずつむりは苦笑するが、つむりもそういうのは嫌いではないので、この程度のツッコミに留める。


 それからカッコ良く札をバックルに差し込むと、最後のポーズと共にキメの言葉を発した。


「変身!」


 本当に変身した依斗に、子供達から歓声があがる。


「今更だが日陰が主戦場のヒーローがちびっ子たちにアピールしてていいのか、ドッペリオン?」

「……今回限りなので」


 答えが遅れたことが大体を物語っている。ようするに何も考えていなかったのだろう。


「正体がバレちゃうと戦ってる悪の組織の人に負けちゃうかも知れないから、みんなナイショにしてね?」

「はーい!」


 元気な子供達に微笑みつつ――仮面の下なので表情は周囲に見えてないが、微笑んでいた――、ドッペリオンは構えた。


 この騒ぎの間も、ナゾトキは不思議そうにこちらを見ているだけで動いていない。


(――注目されて初めてナゾを出す感じか? 気づかれないと動けないという点じゃあ怪異らしいっちゃ怪異らしいが……)


 内心で訝しみつつ、つむりはナゾトキを見やる。

 そして、ナゾトキと目が合った瞬間、あちらは翼を大きく広げて鳴こうとし――


「目が合わないと対応できないなら、こっちが絶対先手取れるよな」


 つむりはそう告げて意味深に笑った。

 次の瞬間。


「はい。捕まえた、と」


 ――高速で動いたドッペリオンが背後からナゾトキを捕まえた。


「トキッ!? トキトキト~~!?!?」


 驚いて暴れるナゾトキをしっかりとホールドしたまま、ドッペリオンは軽くジャンプしてつむりたちのところへと戻ってきた。


「すげー! つかまえてるー!」

「おねーちゃんかっこいいー!」

「トキッ、トキトキトキッ!?」


 バッサバッサと暴れるナゾトキ。

 だが、つむりは大して気にした様子もないまま、鳥の頭に手を乗せる。


 暴れているナゾトキは、問題を出題する余裕はなさそうだ。

 それはかなり好都合である。


「実験その1。物理的な干渉は可能か否か。なるほど、結果は分かりやすい」


 ドッペリオンにホールドされている以上、それは可能なのだろう。


「では実験その2。あたしの能力の対象になるかどうか――いざ、思い出研究所(マイマイ・メモリーズ)


 ナゾトキの思い出をインクとして抽出。

 黒マイマイの背にためて、白紙のノートに垂らす。


 そこに膨大な量の情報が書き込まれていくのを見て、つむりは小さくうなずく。


「実験その2は成功。ドッペリオンは悪いんだがそのままホールドしててくれ。変身は解除するな。何が起こるか分からないからそのままでいろ」


 ドッペリオンがうなずくのを確認してから、つむりはノートをパラパラとめくる。

 内容としては、これまで何を奪ってきたかの記録のようだ。


 暴れたり騒いだりしているのを見ると感情などがありそうだが、ノートの内容が酷く事務的なところから、鳥よりも怪異としての側面が強そうである。


 クイズを出すのも機械的だし、ルールで縛るのも機械的。

 ナゾを出題し、奪うだけの機械のような存在だ。


 どうして生まれたのかの経緯のようなモノもあるが、そこは今は重要ではないので、読み飛ばす。

 ただ、生まれた敬意や存在理由を見る限り、この鳥にも運命は存在するようだ。


「よし。だいたい読み終わったし把握した」


 必要な箇所を読み終えてノートを閉じて顔を上げると、なにやらガキンチョが増えていた。


 ドッペリオンから助けを求める視線を感じるが、つむりは無視してナゾトキの頭の上に手を乗せる。


「最後の実験だ」


 赤マイマイを呼び出し、ナゾトキの運命へと滑り込ませた。


 弾かれることはなかった。

 すり抜けて、効果が発動しないこともなかった。


「ナゾトキの運命への赤入れは可能だ」

「先生、それなら」

「ああ」


 これなら、最後の実験ができる。



 まず最初に、ノートに記されたナゾトキのルールは以下の通りだ。


・対象に問題を出す

・問題を答えてもらう(解答者は対象である必要はない)

・正しく問題を答えられたなら、難しくしてもう一度出題する

・答えが間違っていたのであれば、答えた者からモノを奪う。

 この時、これまでの正解数が多いほど、奪われるモノは、その対象にとってより大事なモノである。



 これを読んだとき、つむりはふざけるな――と胸中で毒づいた。

 正解による難易度上昇は青天井だし、正解し続けるメリットは何も無い。


 こんな奪うだけの厄介な存在が、子供達の間で噂となり認知されて有名になっていくのは危険すぎる。


 だから、つむりは赤マイマイを使ってルールを付け加えていく。

 時々見ているクイズ番組のルールをベースにするのが、ナゾトキのルールにも合うはずだ。

 つむりは慎重に、ナゾトキのルールに情報を追加していく。



・『最初にナゾトキに挑むかを問う。必ずメリットとデメリットを掲示する。挑む者を対象として問題を出す』

・対象のプロフィールを読み取り、それに応じた、解答可能範囲の問題を出す

・問題を答えてもらう(解答者は対象である必要はない)

・正しく問題を答えられたなら、『正解報酬を受け取るか、次の問題に挑むか問う』

・『※正解が出るたびにこの手順を繰り返す。最大で十問。十問連続正解で追加問題』

・『次の問いに挑む相手には、少し難易度を上げた問題を出す』

・答えが間違っていたのであれば、答えた者からモノを奪う。

 この時、これまでの正解数が多いほど、奪われるモノは、その対象にとってより大事なモノである。

・『十問目に正解した時、追加問題への挑戦権を告げる』

・『報酬の内容は正解した問題数に応じた、挑戦者の心の中にある望むモノである。なおそれはナゾトキが用意できる範囲に限る』


☆追加問題ルール

・『挑戦を選んだ時点で十問正解の報酬を受け取るコトは不可能とする』

・『問題は一問だけである』

・『内容は非常に難しいが挑戦者のプロフィールに合わせたモノとする』

・『追加問題に誤答した場合、解答者の何らかの秘密が盗まれ、何らかの形で世間へ公開された上で、今後一生のナゾトキ挑戦権は失う』

・『正解した場合、ナゾトキが叶えるコトが可能な範囲での、挑戦者の願望投影である』


☆リベンジルール

・『過去に何かを奪われたコトがある場合、フルネームと奪われたモノの名称、それを取り返したいという意志でナゾに挑戦するコトが可能である。またフルネームや奪われたモノなどの情報を出せなくなるような状況の場合、ナゾトキ側で情報を検索しフォローする』

・『本人でなくとも、代理人が本人のフルネームと奪われたモノを取り返しにきたと宣言すれば代理挑戦が可能である』

・『基本ルールはそのまま、通常よりも難易度の低い問題を、誤答した時よりも多く連続正解する必要がある』

・『リベンジルールに追加問題挑戦権は無い』

・『リベンジルールに限り誤答のデメリットは、何問目に誤答しようと第一問目に誤答した時と同じ範囲のデメリットである。ただしこれによって奪われたモノはリベンジルールによる回収は不可能である』

・『リベンジに成功した場合、可能な限り奪われた時の状況のまま返却される』



「リスクとリターンを釣り合わせるならこんな感じか?」


 それが本当に正しいかは分からないが、奪うだけの怪異ではなくする。

 ハイリスクハイリターン。欲を掻けば失うモノが大きいというのは、古今東西の怪異の基本ルールだ。


「ついでに……」


・『草薙つむりへの出題はもっとも難易度の低い問題のみとする』


 そんな一文を加えたら、黒の二重線が引かれ、「トル」と書き加えられてしまった。


「ナゾトキが納得出来るルール以外は、追加できない感じか……」


 それならば仕方がない。

 この辺りで妥協しておくのがいいだろう。


「……こういうズルはダメか。まぁ最後の実験も成功でいいだろ」


 書き加えた新ルールを少し様子見していたが、修正されることはなかった。

 これは、ナゾトキが受け入れてくれたからだろう。


「先生の能力自体がズルな気がしますけど」

「うるせーなー」


 ドッペリオンの苦笑に、つむりは口を尖らせる。


「手を離していいぜ。変身も解除して大丈夫だ」

「わかりました」


 一つうなずくと、ドッペリオンはつむりに背を向けてから、ナゾトキをホールドしていた手を離す。


 慌てたようにナゾトキは飛び立ち、対岸に着地するとこちらを見る。


「ト~キトキトキトキトキッ! 問題に挑戦するか? 正解に応じて願いを叶えるトキ!!」

「あ、本当に上手く行ったみたいですね」


 ナゾトキのセリフを聞いて安堵しながら、ドッペリオンはバックルからメカニカルなお札を抜いて変身を解く。


 それを横目に見ながら、つむりは告げる。


「ナゾトキ、リベンジに挑戦だ。六綿 帆紫ちゃんから奪ったモノを返してくれ」

「ト~キトキトキトキトキトキッ!! ではリベンジチャンスより出題するトキ!! 答えられなかったトキはちょっとしたモノを奪うトキ! これはリベンジでも取り戻せないから注意するトキ! その上で、挑戦するトキ?」


 トキトキうるさいが、ちゃんとつむりが書き込んだルールは守ってくれそうだ。

 それに安堵したつむりは、うなずく。


「おう。それでいい。リベンジに挑戦させてくれや」


 そうして、六綿 帆紫から奪われた時間を取り戻す為の戦いが始まる。


「では全部で17問。その最初の1問を出題するトキ!」

「え?」


 想定してなかった問題数に、声を上げたのはつむりだったのか、依斗だったのか……。


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