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10.冴えない彼の取り扱い


「さて――」

「まぁそうなるよね」


 私がまっすぐにおじさんへと視線を向けると、おじさんも姿勢を正します。


「おじさんの口封じでもするかい?」

「それが簡単ではないコトは、おじ様の立ち振る舞いから分かります」

「そんな買いぶられても困るよ。だって冴えないおじさんだよ?」

「実際、冴えない気質なのだとしても、私の言動と家訓から、出自に思い至るというのは生半(なまなか)なコトではありません。

 警察か探偵か――そういう関係のお仕事をされているのでは?」


 そう訊ねると、おじさんは少し困ったように頭を掻いて、背広の内ポケットから手帳を取り出して見せてくれました。


「君の言うとおりだよ。

 私は府中野(こうや)署の刑事課所属の警部、冴内(さえない) 計司(けいじ)という」

「……サエナイ……ケイジ……さん」


 警察手帳に書かれた名前を見て、私は思わず舌の上にその名前を乗せてしまいました。


「うん。分かる。お嬢さんの言いたいコトは分かるぞ。もはや私の鉄板ネタだからね。うん」


 どこかドヤ顔でうなずくおじさんに、私はどうリアクションを取っていいのか悩みます。

 ……というか自己紹介の時の鉄板ネタなんですか。そうですか。


「それはともかく、このお兄さん。もしかしてニュースになってた髪の長い女性への暴行犯だったりする?」

「ええ、恐らくそうかと」


 おじさん――冴内さんの質問に、私は素直にうなずきました。

 実際、本人もそんなようなことを言ってましたしね。


「なら、話が早い。そのお兄さんの身柄、私に預けない?」

「え?」

「騒動に対しての情報操作だなんだっていう面倒事、私がやろうじゃないか」


 それはありがたいことですけれど、冴内さんの話をそのまま信じてしまっていいものか……。

 なにより、ヘアー&エイリアンの能力内容を鑑みると、ふつうの方法で拘束するのが難しそうではあるのですが……。


「その者の言葉、信じても良いと思うネ」


 私が悩んでいるとモノさんが姿を見せました。


「良いんですか? 姿を見せて」


 思わずそう訊ねた時、冴内さんは驚きながらも冷静に、訊ねてきます。


「そちらの神主さんっぽい人はどちらさまかな?」


 袴姿の胡散臭いおじさんことモノさんは、苦笑しながら冴内さんに人差し指を向けました。


 冴えないおじさんと胡散臭いおじさんに囲まれてるというのも、なかなか希有な体験かもしれません……。


「君の所有する手錠に(まじな)いを掛けておいたからネ。

 それを手に掛けてる間、彼は開拓能力を使えなくなるヨ」

「ほう」


 モノさんがそう告げると、冴内さんは即座に男の手に手錠をかけます。躊躇わず動き出す行動力はすごいですね。


「改めて問わせてもらうけど、どちらさまかな?」

「私の名前は濡那原存在(ヌナハラノモノ)。まぁこの神社の社に住む神のようなものかな」

「なんと!」


 モノさんの自己紹介に、わりと素直に冴内さんは驚きます。


「疑わないのですか?」


 思わず私が訊ねると、冴内さんは苦笑しました。


「君がそれを言うのかな? あれだけ超現実の戦いをしていた君が」

「それを言われると……」


 確かに、開拓能力者同士の戦闘なんてものを間近で見られていたのですから、今更モノさんがどうこうというのも変な話かもしれませんね。


「私の目から見て、そちらの男性――冴内殿は、こちらを裏切るような人物ではないと判断したヨ。

 味方と有権者は多ければ多いほどいいからネ」

「それはどうでしょう? 味方も有権者も多すぎるとダイナマイト化しそうな気もしますけど」

「君もたいがい辛辣じゃないかい?」


 モノさんに対して思ったことをそのまま返答すると、冴内さんがちょっと口元をひきつらせました。


 いやでも、無能な働き者の味方だけが多いとか、支持してくれる多数の有権者がコロっと寝返ったりしたら、被害が甚大じゃなく広がるじゃないですか。


 まぁそこは敢えて口にせず、モノさんに視線を戻します。


「モノさんの言い分はわかりました。

 でも、警察に預ける前に、ここで彼のメイズを処理して能力を失わせた方が手っ取り早い気もしますけど」


 そもそも彼の能力は強力です。

 使い手が弱くても、能力そのものは決して弱くない。脱獄なども簡単にできそうです。


 ちなみに、メイズとは能力者の心が作り出すダンジョンです。

 フロンティアアクターズのゲーム内では、これを攻略するのが主なシナリオになります。

 これを攻略された開拓能力者は、例外は多々ありますが基本的に開拓能力を失うのです。


 だからこそ、私はそれを推奨します。

 司法の裁きを受けさせるにしても、能力を失わせてからの方が安全です。


「何らかの手段で超能力を取り上げられるのは理解したよ。

 だけど、ちょっと待って欲しい」

「冴内さん?」

「能力を取り上げるのはいつでもどこでも可能かな?」


 その問いに答えたのは、モノさんです。


「ああ。その男の魂の波長は覚えたからネ。

 市内であれば、なんとかなると思うヨ」

「でしたらヌナハラ様。私がお願いするまで、能力を取り上げるのは待って貰えませんか?」

「理由を聞いてもいいかな?」

「お嬢さんの動き易さの確保の為、かな?

 超能力を使う犯罪者が世の中にはいる。そういう認識をうちの署の人間に理解してもらいたくてね」


 冴内さんのやろうとしていることが何となく予想できたので、私は少し思案します。


「危険では?」

「まぁね。でも、こう見えて公安に知り合いもいるから、ちょっとばかし小細工したいと思ってるのだけど」


 どこか頼りなさげな雰囲気ですけど、その目だけは笑っていません。

 どうやら本気のようです。


 それを理解した私は冴内さんにうなずきました。


「わかりました。その人の身柄は預けます。

 よろしくお願いしますね。冴内警部」

「任せておいてくれたまえ。冴えない男なりにがんばるよ」


 そうして、本当にひどく冴えず頼りない笑みを浮かべます。

 その姿に思わず苦笑しながら、肝心なことを告げてなかった思い出して、私は慌てて自分を指さしました。


「申し遅れました。

 十柄鷲子と申します。以後、よろしくおねがいします」

「これはこれはご丁寧に。やはり十柄家のお嬢さんでしたか」


 ペコリとお辞儀をすると、冴内さんも慌てた様子でお辞儀をします。何となくうだつの上がらない感じがするのは、気のせいではないのでしょう。


「改めて、冴内です。こちらこそよろしくお願いするよ」


 そうして、冴内さんは気絶している男性を抱き抱えて神社から去っていきました。




 彼がいなくなってから、私は思わず息を吐きます。

 ただモノさんに会いに来たのに、とんだことになってしまいましたしね。


「さて、と」


 くるりと、私はモノさんへと向き直ります。


「他に邪魔者はいますか?」

「いなさそうだヨ。暗くなる前に話が終われそうなら、今話を聞かせてもらってもいいかな?」


 私は一つうなずくと、自分が平行世界の男性の記憶を持っていること、その男性の記憶の中には、この世界そっくりのRPGが存在することなどを説明するのでした。



===開拓能力ファイルNo.2===


●能力名

【ヘアー&エイリアン】


▽本体性別:年齢:本体名

  - 男性(32歳)

   錐咬 香兵 - Kirigami Kouhei -


▽本体職業

  - 美容師


▽能力詳細

  - 第一段階 ヘアー&エイリアン

  - 第二段階 H&E リトル・ヘアリアン・モード

  - 第三段階 データなし



第一性能:ヘアー&エイリアン

     自分自身が触った髪にマーキングをし、

     そのマーキングが施された髪の毛を操ることができる。

     ただし操れるのは、自分が視認できる範囲に対象がいる場合。

     一度マーキングすると、数日間は消えない。。



第二性能:H&E リトル・ヘアリアン・モード

     マーキングした髪を小さなエイリアン化させる能力。

     基本的には切り落とされた髪が対象。

     ヘアリアン化した髪は元の持ち主の髪の毛に戻ろうとする。

     そして元の持ち主の髪の毛と融合し、脳を浸食。

     髪の毛以外のことを考えられなくなり、

     髪の毛第一の価値観に洗脳される。

     その為、髪の毛を大事にする錐咬 香兵に忠誠を誓う。

     髪の量が多くて綺麗なほど、高性能なヘアリアンを作れる。

     



第三性能:データなし

     データなし


▽本体詳細

  - 髪に並々ならぬ思い入れを持つ美容師。

   その腕は確かであり、既に自分の城を持っているほど。


   それでも満たされるコトのない髪に対する渇き。

   何とか折り合いを付けながら、

   店長として、いち美容師としてハサミを手にしていた。


   実際、有能な美容してあり店長として尊敬されるくらいだったのだが、

   能力者として覚醒したコトで、思いが決壊してしまったようである。


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