宰相の朝のお仕事
さて、哲秀はそのまま自室に帰りすぐに就寝。
次の日の出勤時刻一時間前に起こすようナベルに頼み、ベッドにもぐりこんでしまった。
まあ、あまりにも色々あって疲れも限界だったのである。
(明日も激務だろうな)
まどろみの中、哲秀はそう覚悟するのだった。
「宰相、朝でございます」
さて、哲秀にとってはほんの一瞬の眠りだったように感じるが、どうやらもう起床時間のようだ。
言うことの利かない体に鞭を打ち、なんとか起き上がる哲秀。
お約束ではあるが、ひと眠りしたら元の世界に戻っていたということは有りはしない。
「おはよう。今何時だい?」
とりあえず、時刻を問う哲秀。今日のスケジュールを確認しなければならない。
「朝の四時でございます」
ナベルが答える。
「え?」
あまりにもあっさりと言われたので、哲秀は唖然となる。いくらなんでも早いだろう。
「この国では、基本的に朝五時に公務が始まります。宰相限定ですけど」
説明を加えるナベル。彼は嘘は言っていない。
「そんな早くに何やるの?」
「国王陛下を起こすことでございます」
「......なんで、こんな仕事を宰相が?」
哲秀、当たり前の質問をする。宰相とは、雑用係ではないはずだ。
「皆が嫌がるからでございます」
ナベル、だんだん説明を嫌がり始める。
「はあ。行けばわかるってことだな?」
昨日のことを踏まえ、ある程度予想をつける哲秀。実際にやれば思い知る話なのだろう。
「はい。お察し下さり、ありがとうございます」
頭を下げるナベル。そのまま哲秀の仕事着を用意し始める。
「やれやれ。何から何まであの国王は」
ナベルが持ってきた服を着ながら、コルタス国王カーサー六世に毒づく哲秀だった。
さて、ここはカーサー六世の寝室。扉の前に立っただけで、すでに嫌な予感しかしない。
なぜなら、中から変な臭いがするからだ。人々は、たとえ用があったとしてもこの部屋に近づく気にもならないレベルになっている。
「ナベル、口塞ぐものある?」
哲秀、悪臭対策の準備を始める。このまま入れば、嗅覚への奇襲をされることは間違いないだろう。
「こちらに」
ナベル、さっとマスクを取り出す。簡単に予想できていたのだろう。
「......いくぞ」
「はい」
哲秀、息を殺して寝室の戸を開ける。どんな悪臭だろうと進んでいくという覚悟はすでに固まっている。
しかし。
「ギャオー!!!」
戸を開けた瞬間。中からそう叫ぶ獣が飛び出してきた。
「何奴!?」
手に持たされていた宰相の錫杖をかざして警戒をする哲秀。もはや、臭いがどうかという問題ではない。
「陛下です」
素早く飛びのいたナベルが、台本を読むかの如くさらりと答える。
「はい!!??」
哲秀、理解が完全に追いついていない。
「陛下の寝相の悪さは、国中に知れ渡っておりますゆえ」
「これが、皆が嫌がる理由かー!!!」
淡々解説ナベル君。もうすでに、彼のその口調に慣れ始めている哲秀、雄たけびを上げて応戦する。
もはや、後には退けない。
かくして、哲秀とカーサー六世による朝の格闘騒ぎが本日のお城の目覚まし音となるのであった。
なんか、ギャグみたいですね。そんなつもりないんですけど。
里見レイ