ハルーシャの話
「私を呼び出したのがあなたと姫様? 魔術師であるあなたなら分かりますが......」
哲秀、突然のことを言われ戸惑う。いきなり「姫が宰相を召還した」と言われても、ピンとこないだろう。
「まあ、まずはそこから説明しないとな」
ハルーシャ一息ついて説明を始める。
「コルタス王国が異世界の人間を宰相にしようと動き出したのは、今から約半月前のことだ......」
「半月前、ついに隣国のバサカル帝国が海外遠征の準備を始めたという情報が入ってきた。我らも慌てて再軍備を始めたのだが、兵を揃えるための物資や予算が足りないことに気が付いてな。その辺の責任者が必要になったのだ」
呪文の詠唱をするかのように話し始めるハルーシャ。先ほどの明かりの呪文よりも様になっている。
「ただ、誰もやりたがらなくてなあ。適切な人材を公募したのだがそれも効果がなかったのだ」
「ま、この状況からすれば無理もありませんね」
相槌を打つ哲秀。今まで聞いた限り、この国は滅亡寸前のようだから当たり前である。
「それでだ、蔵書に眠っていた『異世界人召喚魔法』を分析してお前を召還したのだ」
「なるほど......て、いやいや! 半月で普通そんな大魔法実行できるのですか?」
思わず突っ込んでしまう哲秀。ハルーシャが簡単に人類規模の魔術を実行したと言い、驚きを隠せないのだ。
「まあ、私は主席宮廷魔術師だからな。このくらいしか取り柄がない」
当たり前のように答えるハルーシャ。難しいことを当たり前と言えるのはプロの証である。
「話を戻そう。姫様とこの魔法の関わりについてだ。この魔法には、魔術師の他に一人、召喚の対象を指定する人物が必要なのだ」
「その対象を指定したのが、ミーシャ様ということですか?」
哲秀、ようやく全貌を理解する。ミーシャのイメージに合う人物こそ、哲秀だったというわけだ。
「ああ。それ故おぬしが宰相にふさわしいかを見極めるべく、姫様は奇妙な職を名乗っているわけだ」
そう言って、ハルーシャは話を締めくくった。
「というわけで、姫様を煙たがらないでくれよ。たたでさえ、お立場がない方なのだから」
「......言いたいことはそれだけだったんですね」
おそらく、ハルーシャはこれを頼むためにこんな長い話をしたのだろう。
まったく、魔術師というものは回りくどい。
「かしこまりました。姫様にはきちんと接します。ところで、姫様をそこまで大事にされているのはなぜです? ハルーシャ様は姫様の守役みたいなものですか?」
ハルーシャがあまりにも真剣なので、その関係を聞いてみる哲秀。
「ああ。幼いころから世話を任されている」
すぐに肯定するハルーシャ。彼女の誇りなのだろう。
「ま、今度いろいろ聞かせてください。ミーシャ様についてはまだどのように接すればいいか分からないものでして」
席から立ち上がり、こうお願いする哲秀。
「随時教えるとしよう」
さて、ようやく哲秀はゆっくりと寝ることができるのだった。
ようやく、一日目終了です。
里見レイ