書類の整理、その前に......
「えーと、王の政務というのは民からの陳情とかだよな。それを宰相に任せるということは、宰相が玉座のそばで陳情対応するのか?」
とりあえず、哲秀、状況確認を始める。唖然としていてもしょうがないからだ。
「いえ、陳情は全て、目安箱を通して受け付けております」
従僕のナベルが答える。運動神経が良いだけでなく、情報通でもあるらしい。
「それが、この紙の山、と」
「はい」
あまりにも淡々と答えられ、再び唖然となる哲秀。いくらなんでも、溜まりすぎである。
「他にも、国家事業に関するものや、外交書類もあります」
続けて言うナベル。それも、宰相の仕事ではない。
「開発大臣とか外交大臣はいないのか?」
そう、国家には、それぞれ分野ごとに大臣がいるはずだ。宰相はその統括が仕事だが、直接行うことはあまりないはずである。
「宰相がいないからには、誰もなりたがらないものでして......」
「......」
頭に手を当て、壁にもたれかかる哲秀。
この国は、内政制度が全く機能していないようだった。もはやダメ出ししかできない。
「お気持ち、お察しいたします」
ナベルより、慰めの一言。それだけが、哲秀の救いである。
「俺の命令に絶対逆らえないような使用人を十人集めろ。まずはこの書類の整理から行う」
「かしこまりました」
ナベル、一礼して走り出す。
哲秀の考えは、こうだ。
現状を打破するには人がいる。政治能力以前に人がいる。そこで、身分が低くても命令を聞く人間を集めることにしたのだ。書類整理は単純作業だ。身分や能力は関係ない。
「さてと、分類は『農業』『軍備』『財務』『外交』『人事』『建設』あとは......」
分類項目を羅列していきながら、書類の置き場所を決めていく哲秀。
項目は、日本の内閣の大臣を参考に、戦国ゲームで使うような名前をにした。
そして、次に置き場所の目印なんだが。
「この国、本当に赤しかないなあ......」
色で区別しようと思うものの、王の趣味なのか、赤しか目に入ってこない。
「書くものも、ないしなあ」
書類を処理しなければ、執務室の中の筆記用具を取ることができない。
再び頭を抱える哲秀。何から何まで都合が悪い。仕方がないから、しばらく待機。
それから、十分後。
「連れてまいりました」
ナべルが使用人たちを引き連れてきた。
「よし、とにかく作業を始めるとしよう。皆はそれぞれ、俺が言う項目に関する書類を探していってくれ」
そう言って、説明を始める哲秀。ところが。
「私、文字読めませーン!」
連れてこられた年の若いメイドがいきなり話を根底から崩す。
「すいません。私も......」
年配男性の使用人も同じことを言う。
その後、次々と同じ発言が飛び交う。結局、十人とも文字を読めなかった。
「......仕方ないな、俺が指定する紙を持っていてくれ、みんなには、自分の担当するジャンルを覚えてもらうぞ」
方針変更、使用人たちにはただの書類置き場に変更だ。
「さてと、まずこの書類から......」
一枚の紙を手に取る哲秀。しかし、すぐに動きが止まる。
「......ナベル」
「なんでしょう?」
「この世界の字が話している言葉のどの字に当てはまるか、教えてくれ......」
世界が違えば字も違う。言葉が通じるだけまだ良い方。
異世界もの恒例のこのイベントは、宰相である哲秀には大きな壁となったのだった。
一話が千字ちょいだと、なかなか話が進みませんね。まあ、連載小説ってこんな感じだと思いますけど。
里見レイ