上下し続ける宰相の対応
お待たせです。
「薪はできるだけ縦に長くなるように積んでいってくれ。井桁型って分かるか? 俺の世界じゃ広い場所で火を焚くときに使うんだけど......」
「宰相、明日の夜に住民たちが来るよう話をつけて参りました。村長をはじめ、ほぼ全員が来るそうです」
「オッケーだ、ペイック。よーし、明日の夜までに仕上げるぞー! 踊りの練習も頼むからなー」
哲秀が工事現場の監督のようにあちこちに指示を出していく。
「あっちではまとめ役なんて一度もやる機会なかったのにな......」
「それは、場所に応じて求められる役割も違うものですよ」
哲秀のつぶやきに横からナベルがコメントする。
「ま、それもそうだな。向こうじゃ一般人の我がここでは宰相なのだから」
「ところで宰相、姫様がお呼びですよ」
「お前、またその報告に来たのか......」
ナベルがわけもなく近寄ってくることはないと分かってはいたが、理由を聞いて脱力する哲秀。
休憩終了からおよそ四時間が経過したが、ミーシャは彼を三十回は呼んでいる。
何回かその求めに応じたのだが、内容は他愛もない世間話ばかりなので哲秀は無視を決め込んでいる。
「なぜ姫は我と話をしたがる? 暇ではないことぐらいお分かりのはずなのに」
「さあ、存じ上げません。ただ、姫様はお暇なのだと思いますよ」
「姫には明日動いていただくのだ。今日はご自由にしても良いであろう?」
「まあまあ、もう最後に姫とお話しされてから一時間は経つので。そろそろいかがです?」
「......緊急があったら知らせてくれ。それまで頼むぞ」
こうして、哲秀はミーシャのところへと足を運ぶのだった。
「姫様、何用ですか?」
「もう! いつまで待たせんのよ?」
「私には宰相としての仕事があるのです。コンパニオンではないのですよ?」
相変わらずのミーシャの我が儘ぶりに哲秀は呆れる。
「だってー。私の家来をあんたが全員持って行っちゃったじゃない!」
「......」
「何が言いたいのかって顔してるわね。じゃあ、そろそろ本題入るわよ」
「お願いします......」
「竜、本当にいるらしいわよ。この地下に」
「......はい?」
哲秀は、思わず硬直してしまう。
「ここに石板があるでしょ。古代語で書いてあるんだけど、『宝玉竜エレメンタルス、財宝を抱いてここに眠る』ってあるわ。本で読んだことあるのだけど、コルタスに実在した記録が数多くある竜なの」
「へ、陛下はその伝承をご存じで開発を中止になさったのですか?」
「さあ、民の言葉を鵜呑みにしただけじゃない? パパってやけに正直だし」
「......私は、どうすれば?」
哲秀の頬から冷汗が流れ始める。
「あんたが伝承を信じなかったのも無理ないわ。元々、中央の人は竜の存在なんて信じていないのよ。パパの行動は当時笑い者だったし、しょうがないけど......」
「た、対策を練らなければ! もしその石板通りなら、言い訳が通用する域を超えています!!」
「そ。それをあんたに話したかったんだけど、言い出すタイミングを掴めなくてさ......」
「ひ、姫。その竜についてご存じのことを全て私に教えてくださいませんか?」
顔を強張らせながらも、哲秀は必死の表情で案件を前に進めようとする。
「あら? 思ったより立ち直りが早いのね。安心したわ」
「姫! 私がそんなに軟弱者だとお思いなのですか!?」
哲秀はここぞとばかりに大声を出す。
「そんなことで案件を先延ばしにされては困ります! 報連相は社会人の基本ですので!」
「ホウレンソウ? えーと、『法律』『練習』『掃除』のことかしら?」
「『報告』『連絡』『相談』です! 確かに掃除も練習も大事ですけど!!!」
哲秀は、完全に調子を取り戻していた。これにより、宰相の竜へ戦いが幕を開ける。
いやはや、展開考えていたら時間が経ってしまいました。すみません。
週一以上目指して頑張ります。
里見レイ