休息、その直後
「......一応、全部やってくれるってさ。でも何なの、かわいい衣装に薪に魔術師の用意だなんて? 金属店への交渉は分かるけど、ちゃんと民の迷信なくせるの?」
「ご安心を、すべて上手くいきますよ。姫様がきちんと動いてくだされば」
「うう、私まだ何かやらなきゃいけない訳?」
「ええ、ここからが本番です」
不安がたまり続けるミーシャに対し、哲秀は余裕の笑みをこぼす。
ペイックは、現在平野の地面に何やら変な模様を描いている。哲秀の指示だ。
「ったく、作戦はいつ話してくれるのよ?」
「今話しても構いません。ただ、反対されても困るのですが」
「そうね、今更だもんね。じゃあ、なんか別の話をしましょう。あんたがいた世界の話とか」
「分かりました。私は向こうの世界では高校生という学業をする時期にありまして......」
「いや、そうじゃなくてさ」
ミーシャは一度話を遮る。
「あんたは向こうで家族とどうしてたのかなって思ったのよ」
「ああ、えーと......」
「......」
「一人っ子で親は両方とも海外で仕事してましたね。ですので、一人暮らしでした」
「パパやママとはどのくらい会えるの?」
「そうですね......二人とも忙しいので数年に一回くらいでしょうか」
「い、いいのそれで?」
「構いませんよ」
そう言って、哲秀は大きくのびをする。
「会えなくても互いが頑張っているのは分かってますし、家族だからまた会えますよ。だから、ここに来てホームシックになることはありませんね」
「そう、なんだ......」
「姫様、まさか私に泣きわめいて欲しかったのですか?」
「い、いや。そうじゃないけどさ。あんたが強い人なんだと思ったら対応に困っちゃって......」
ミーシャが慌てて弁明する。
「私はただ、このような世界に憧れていただけですよ。本で何度も読んできた世界にこうしてやって来て、自分が少しでも活躍しているのがうれしいだけなんです。向こうの世界じゃ、自分の力を評価されてませんでしたので」
「......じゃあ、ずっとここにいる?」
「ずっと、とは言い切れませんが......」
哲秀、突如口ごもる。
まあ、ミーシャの頼み込むような表情を見てしまっては、NOとは言い切れないだろう。
「この国の危機が去るまでは、離れるつもりはないですね」
「そう、よかった」
二人の間には穏やかな風が吹いている。今までの多忙さが忘れ去られるような平和な時間だ。
ただ、そんな時間は長くは続かない。
「宰相! 描き終わりました!」
ペイックの言葉は一瞬で哲秀に現実を認知させる。
「よーし! それじゃあ、一度この地方に伝わる竜の迷信について詳細を確認しよう。ナベルー?」
「はい。民間伝承によりますと......」
「ちょ、ナベル!? いつここに来たのよ? てかテーデ、動くの早すぎ! もう少しゆったりしていても良かったんじゃなーい?」
「いえいえ。物資が届くまでの間に儀式の内容は細かく決めておかなければなりません。全員の手が空いた今こそ、準備を本格的に進めなければいけませんよ!」
哲秀は、すでに仕事モードに切り替わっている。
屋外で作業する彼を止めることはミーシャですら不可能域の中にあった。
甘くするにはまだ早いですが、取り敢えずワンカット入れました。
シリアスの中にほのぼのを入れて楽しんでいただければと思います。
里見レイ