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苦難が始まる

「宰相様、こちらでございます」


 そう言われるがままに歩いていく、星河哲秀、高校二年生。

 訳も分からず異世界の王国に召喚されてから今までおよそ数時間。

 哲秀は、臣下でも最上級のポスト、宰相に任命された。

 こういう場合、普通は騎士で勇者というのが王道である。しかし、哲秀は宰相。

 戦記物でも、王の側近だが特に目立たない脇役の場合が多い職である。

 どうして、そんなマイナーな職になったかというのは、今から数分前に遡ると分かるのである......



「へ、陛下。お尋ねしてもよろしいでしょうか?」


 一通りの任官式が終わり、ようやく自由の身となった哲秀。ここぞとばかりに質問をする。


「なんだ? 申してみよ」


 式が終わるや否や、お気楽オーラ全開になったコルタス王、カーラー六世が答える。


「私、元居た世界ではただの学生でございます。何故そのような未熟者を宰相にしてくださってのでしょうか?」


 本当は、「なぜ勇者じゃないんだ?」と言いたいところだが、自分に勇者の素質はないと分かっているのでやめておく。


「余が宰相を欲していたからじゃ」


 単純な回答をする王。


「私以上の適任者がいらっしゃると思うのですが?」


「みんな嫌がっているんじゃ」


「な、何故?」


 哲秀、だんだん嫌な予感がしてくる。


「余が政務の全権を委任するからのう」


「は、はあ......」


「ま、そのうち慣れるはずじゃ。と、いうわけでこれから余はキャバクラに行ってくる。後は頼むぞ、宰相」


 そう言うと、ダッシュでいなくなってしまう王。


「へ、陛下。今、堂々と『キャバクラ』と仰いませんでした?」


 唖然となる哲秀。


「仰いました。陛下は毎日行っておられます」


 後ろから、哲秀の独り言に返事がある。


「おわ! 誰?」


気配すらなかったので、正直心臓が止まるかと思った哲秀。宰相の威厳が全然ない質問をしてしまう。


「この度、陛下から哲秀宰相様の従僕を拝命いたしました、ナベルと申します。些細なことから、何でもご命じください」


 恭しく礼をするナベル。動きに無駄は一切ない。


「そ、そうか。ではまず、俺の仕事場まで案内してほしい」


 この世界に来てから、任官式を行った謁見の間から一歩も外に出ていないのだ。


「かしこまりました」


 ぺこりとするナベルであった。


 こうして、最初のシーンに戻るわけである。目の前に豪勢な飾りつけの扉、ここが宰相の執務室である。


「さて、入るか」


 気合の声をかけ、扉を開ける哲秀。その直後。


「おわー!!」


 ザザザザザザザ......

 扉の向こうから、山のような書類が雪崩を起こしてくる。


「危ない!!」


 さっと、哲秀を安全なところへ避難させるナベル。確かに、彼は優秀な従僕のようだ。


「何、これ......」


 あまりにもの多さに、それしか言うことのできない哲秀。


「陛下は、王がやるべき政務も宰相に一任しており、女遊びに興じております。あまりの仕事の多さに、次々と宰相は辞任をされ、ここ半年は空白の職となっておりました」


 すらすらと説明するナベル。


「......陛下をお諫めするようなお方は?」


「おりません。陛下は逃げ足が速いのでございます」


「誰も陛下に説教する機会を得られないということか」


「そういうことです」


 ため息をつく哲秀。夢の異世界ライフはいづこに、これではサラリーマンと変わらないようである。

カーラー六世は、典型的なダメ王様ですね。勇者なら、敵を倒して一件落着ですが、宰相はそうはいきません。哲秀は、苦労ばかりです。

里見レイ

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