ドタバタ執務室
「さーて! これから色々仕事をしてもらうわよ!!」
宰相の執務室の前に集められたのは、コルタス王国第二皇女付きの使用人約二十名。加えて、ミーシャの世話役のハルーシャもいる。
彼女が一声かけただけで、数分で集合したのだ。哲秀はただただ感服する。
「テーデ、あんたの腕の見せ所よ! ちゃんと働かせなさい!!」
「姫様、かしこまりました」
哲秀、早速用意したリストを確認する。
「まず、我々がなさねばならないことは次の三つ。『マルギース地方の復興』『城下町の税制度の整備』そして『軍隊の実用化』です。そのために税金帳簿を取りに行く人とマルギースに視察に行ってもらう人、そして将軍に状況を確認しに行く人が必要です。それぞれ三人ずつに割り振ります。残った人は私と一緒に書類の整理をしてもらいます」
「こいつらは皆ちゃんと字を読めるから、安心して仕事を割り振っていいわよ」
「ありがとうございます。では早速......」
哲秀は瞬時に派遣のメンバーを決定し、その後書類整理の担当も指名する。
各自がすぐに仕事にとりかかっていく。
さて、黙々と作業を進めていく宰相。今日はアシスタントも多くはかどりまくっている。
「いやー、作業速度が昨日と比べ物にならないな」
「ふふふ。私は最強なんだから!」
「姫! 聞いておられたのですか!?」
「ま、感謝しなさいよ。借りは仕事で返してもらうから」
「あ、はい。そういえば、何故主席宮廷魔術師様を将軍様のもとに派遣されたのです? 彼女には、こちらを手伝ってもらおうと思ったのですが」
「あー、それ? 簡単なことよ」
ミーシャ、さっきからずっとご機嫌である。
「ハルーシャと将軍は、兄妹だもん」
「え! あの将軍様がハルーシャ様の兄!?」
哲秀の驚きは本日一番のレベルである。
「ま、あんたの反応も無理ないわ。あいつ、まったくハルーシャと似てないもの」
「いや、性格どころか顔つきまで正反対なような気がしますけど......」
「当り前よ、あの二人母親が違うんだから」
「はあ、では兄妹の仲は?」
「それがねえ、滅茶苦茶いいのよ! ハルーシャったら、私よりもあいつのほうがずっと大切みたいなのよ!!!」
書類を机に叩きつけながら総評するミーシャ。突然の機嫌の急降下に哲秀はびくっとする。
自分の親代わりである彼女を取られたくないと嫉妬しているのだ。
「......ま、兄妹ってそういうものなのでは? 付き合いは長いのでしょうし」
「でもさー、ハルーシャはあたしの部下なのよ!」
「ひ、姫様。もしかして他に頼りにしている方がいらっしゃらないとか......」
「う......」
「......」
以前のハルーシャの言動から予想はついていたが、実際に確認すると哲秀の頭は痛くなる。
ハルーシャへの鬱憤が自分に回ってくるのは目に見えているのだ。特に気分の上げ下げ具合については彼の体力まで消耗させられる。
そして、いきなりの沈黙。これ以上話を進めるのは、両者ともにいい気分がしない。
「宰相! 出しゃばっているようだな!!!」
「兄上、執務室のでお静かにー!」
と、ここで将軍ヴァルドと宮廷魔術師ハルーシャが入ってくる。
「しょ、将軍!? 何でいらしたのですかー!? な、ナベルー! 助けてくれー!!!」
書類を放り投げて大慌てする哲秀。
そう、哲秀はこのヴァルド将軍が苦手なのだ。
はい、また新キャラです。
彼については次回さらに掘り下げていきます。一言でいうなら、典型的な古風の武人ですね。
里見レイ