最終奥儀は有名戦術
「出世したい者、今の自分の仕事に不満がある者。宰相のもとに集まれ!!!」
上記の何が何だかよく分からないお知らせが城中を駆け巡ったのは、朝食終了時刻からわずか十分後のことである。
第一、内容があまりにも抽象的である。それでいて、命じているのは誰も職に就きたがらなかったポスト『宰相』なのである。変な仕事を押し付けられる可能性は極めて高いのだ。
というわけで、現在午前十一時。
「......誰も来ないな」
「はい......」
大広間で首を長くして新鋭の人材を待っていた哲秀とナベルだが、収穫ゼロであった。
それどころか、上層幹部の将軍から「軽率だ」と叱られる始末。
まさに踏んだり蹴ったりである。
「『触らぬ神に祟りなし』という言葉が俺の国にあってな。事なかれ主義者にとっては救いの言葉なんだよ。それをそのまま進むような家臣たちなんだな、この国は」
ため息を大きく吐く哲秀。人手がなければ宰相も十分に指示を出せないのだ。
「地方から下級役人を集めますか?」
ナベルが代案を出す。もはや、城の中から人を集める作戦は失敗なのだ。
「地方の者には、後で割る振る仕事があるからなあ」
頭をかく哲秀。彼の頭の中では、既に新しい内政のシステム(といっても色んな戦記物の政略のつぎはぎなのだが)が構築されている。
そのシステムでは、地方の役人たちには地方で精を出してもらわなければならないのだ。
「仕方ない、王道戦術のアレを使うか」
哲秀、ついに最終手段の決行を宣言する。
「アレとは?」
ナベル、今回ばかりは哲秀の意図を汲むことができない。
「一度、職務室に戻る。そこで内容は伝える。何せ、結構危険だからな。あと、貴族たちに見つからないように見張っとくんだぞ。特にあの頭が古い将軍にはな」
色々心配事を言いつつも、秀介はニヤリとしている。内心ではその危険さを楽しんでいるようだ。
「現状を打破するために必要なら、どんな危険も厭いませんよ」
真顔で答えるナベル。この程度で怯えるようなら、宰相の従僕など務まらない。
「ふっ、そう来なくてはな!」
ナベルの返事に満足した哲秀、そのまま大広間を後にするのだった。
「テーデ! どこにいるのー?」
さて、哲秀が大広間を出てから少し後のことである。
コルタス王女ミーシャは、自身が監視役を務める相手を探していた。
「大広間にいると思ったら、いったいどこ行っちゃったのかしら?」
正直な話、哲秀に絡むことくらいしかミーシャにやることはないもので、顔には「退屈」の二文字がくっきり浮かんでいる。
「部屋にでもいるのかしら?」
そう考えたミーシャ、走って宰相の職務室へと向かう。途中で何人か粗末な恰好の人とすれ違ったが、気にも留めなかった。
「テーデ!!!」
扉を思いっきり開けるミーシャ。
しかし、中には誰もいなかった。あったのは、宰相の証であるあのセンスの悪い錫杖だけである。
「???」
首をかしげるミーシャ。いくら考えても何も浮かんでこない。
仕方ないので、そのまま哲秀を待つことにした。
彼の帰りがかなり遅くなることを知らないで......
はい、お決まりのパターン「行きまーす!」。
彼も身分高いですからね、王道戦術を使えるわけです。宰相でやった人は少ないでしょうけど。
里見レイ