優雅の朝食と、憂鬱な哲秀
さてさて、カーサー六世が朝食の席に着いたのは午前八時。
宰相、将軍、近衛騎士隊長などの重臣たちが皆顔を揃え、優雅な食事が始まるわけだが......
「うう......」
宰相の哲秀は椅子の背もたれに体を預け、すでにお疲れモードである。
「宰相、お気持ち察しよう」
隣の席で、ねぎらいの言葉をかける主席宮廷魔術師のハルーシャ。彼女も経験があるのだろう。
では、あれから何があったのか。一言でいうと「掃除と洗濯、そして説得」である。
まず、掃除。
カーサー六世の部屋には、散らばりまくった酒瓶と腐った食材が山のようにあった。
暴れに暴れた後二度寝したカーサー六世を廊下にほったらかし、哲秀とナベルは部屋のゴミを片っ端から大きな袋に放り込んでいく。分別という言葉は、コルタスに存在しない。
次に、洗濯。
ゴミを全てどかした後、次々と出てきたのは衣服である。そして、とてつもなく臭かった。部屋に悪臭が漂っていたのはこれも原因なのだろう。
丸々数か月分の衣服をまた別の袋にドカドカ入れていく。殺菌作業は、使用人に命令でやらせた。
そして、説得。
王の部屋を徹底的に整理し始めたのに反発したカーサー六世に対し、清潔さの重要性を説く哲秀。
まるで小学生のように駄々をこねる王を納得させるのに、一番時間と体力を消耗させたというわけだ。
「宰相、誰も陛下に関わろうとしない理由が、そして誰もクーデターを起こそうとしない理由が分かったであろう?」
ハルーシャ、哲秀に一言。ブンブンと首を縦に振る哲秀。
こんな子供みたいに純粋な王を追放しようとする者など、いるほうがおかしいのである。それだけ民にも家臣からも慕われているというわけだが、上層幹部からすればめんどくさいリーダーなのだ。
下手なことすれば、下の者から猛反発を受けてしまうため、カーサー六世は悠々自適な生活を送っているわけなのだ。
「では、諸君。今日も優雅なる朝食としよう!」
カーサー六世、哲秀の心労など全く知らずに食事の開始を宣言する。
シンプルだが、非常に上品なメニューだ。もっとも、成長期でありお疲れの哲秀にはその上品さが不満なのだが。
「宰相、そのうち慣れる」
哲秀の表情から察したハルーシャ、一言を追加。全く隙のない宮廷魔術師である。
「かしこまりました」
諦めて、朝食を口に運ぶ哲秀。まあ、味はいいのでそこに視点を絞って楽しめば満足いくものなのだ。
さて、それから五分後。
「ナベル、この後の予定は?」
哲秀、朝食をさっさと食べ終わり、カーサー六世が終了宣言をするまでの空白の時間に尋ねる哲秀。
「決まってません。陛下は『職務を全うせよ』と仰せです」
「あの怠け国王......」
ナベルからの情報は、哲秀に頭痛を引き起こすものばかりである。
今日もまた、それを実感した哲秀だった。
非常にまったり進んでいきます。派手な話は、かなり後になると思われます。
里見レイ