あなたは救世主
他作品と同時並行でやっていきます。
「よく来たな。選ばれし国の救世主よ......」
そんな声が聞こえ、意識を取り戻す少年、星河哲秀。
「え、えーと。ここ、どこ......?」
あたりをきょろきょろしながら、必死に状況を理解しようとする哲秀。
この星河哲秀は、まあ一般的な属性の高校二年生。芸能人でもなんでもない。
ついさっきまで、彼は自室でアインシュタインの伝記を読んでいた。
そして、まだ十九時だというのに睡魔に襲われた。
で、気が付いたらこうなっていたということだ。
目の前には、大理石でできた階段。上には、豪華なシャンデリア。左右には、中世ヨーロッパのような恰好をした人がずらりと並んでいる。
そして、今彼に声をかけた人物とは......
「救世主よ、お主の名を申せ」
前にある大理石の階段を昇って行った先には、赤を基調とした玉座があった。そこに座っているのは、真っ赤な衣装に身を包んだ中年の男性。手には、王笏を持っている。
偉い人だというのは一目でわかる。
「ほ、星河哲秀と申します」
時代劇のような台詞を言って、頭を下げる哲秀。今のところ、何が何だか全く分からないが、礼儀は正しくしておくに越したことはない。
「ふむ、余の名はカーサー六世。ここ、コルタス王国の王である」
向こうも続いて自己紹介。やはり王様だった。
「......ははっ!」
どう返答するか一瞬詰まったが、時代劇風に返事すると決めた哲秀。そのままひれ伏す。
「さて、哲秀よ。お主を異世界より呼んだのは他でもない。お主の力が必要だからである。帝国の侵略から国を守るには、お主の力がどうしても必要なのじゃ」
王道RPGのような台詞を言うカーサー六世。
(俺、勇者に何のか? え!それホント!? 夢みたい! やったー!)
内心、ものすごく喜ぶ哲秀。
何を隠そう、彼は戦記小説が大好きなのだ。現実世界から異世界に行って、勇者として国を救うというストーリーは王道中の王道!その役が自分に回ってきて喜ばない者はいないだろう。
「ははっ! この星河哲秀、誠心誠意陛下のために働きまする!!!」
騎士や侍に憧れる男なら一度は言いたい名台詞を吐き、笑顔でいっぱいになる哲秀。
「呑み込みが早くて助かるな。では早速、お主の任官式を始めるとしよう」
王が手をパンパンと叩く。
左右にいた人たちが、せわしく移動を開始。
哲秀も、周りの人に言われるがままの礼服をはおり、準備を整える。
さて、数分後。
「星河哲秀、お主に臣下の中で最高級の位と身分を与える」
神妙な表情で、文書を読むカーサー六世。そして、身分の象徴たるものを渡す。
「ははっ!!!」
興奮した表情で王からの贈り物をもらう哲秀。
それは魔法で作られた鎧と剣、ではなかった。
「ん? なんだ、この錫杖?」
ボソッとつぶやく哲秀。
手に渡されたのは、真っ赤にコーティングされた金の杖。頭のほうに、星のマークがついている。
「この錫杖についた星は、大臣以下すべての役人たちの上に立っていることの象徴だ」
(センス悪!)
心の中で突っ込む哲秀。これは戦闘ヒーローごっこの小道具かと思う(素材を除いてだが)。
「これをもって、我が国の救世主、宰相哲秀が誕生したぞー!!!」
「ワーーーー!!!」
王の宣言により、周りの人全員が歓声を上げる。
「さ、宰相!? 勇者じゃなくて!!!?」
驚きの叫びをする哲秀。ただ、だれにも聞こえていない。
こうして、なんのチート能力もない読書好き・戦記オタク少年の、めちゃくちゃ地味ーな英雄伝が開幕したのだった。
なんとなく、王道と邪道を組み合わせた作品書きたくなりまして。
読者層広げつつ、自分を失いたくないというか、まあ、そんな感じです。
よろしくお願いします。
里見レイ