神様問答
「お主、神はいると思うか?」
俺の事をこの変わった二人称で呼ぶ女は天童静香である。実験室で顔を合わせるといつも変わった質問をしてくる。
俺は作業を止める事なく、呆れた声で返事をする。
俺「まず、天童の言う神ってのはどんな存在なんだ。」
天童「そうじゃな。創造主と呼ばれるくらいじゃから、やはり新たな命を生み出せる存在じゃな。」
俺「それなら女性はみんな神なんじゃないか?。新たな命を生み出せるんだから。」
天童「ちょっと違うな。だって卵子の時点で既に命があるじゃろ。もちろん、精子だって生きておる。生み出したと言うよりも、そもそも自分が持っていた細胞が分裂しただけじゃな。」
天童は理屈屋だ。俺も理屈屋ではあるが…、こいつは筋金入り。
俺「新しい命を"創れる"というよりは"作れる"って事か。所詮は分裂によって作られた生殖細胞の結合に過ぎないと。」
天童「半分正解ってとこじゃな。極論言えば、人類は生まれたその日から。いや、人類になるよりもっと前…。一つの細胞、一つの生命としてこの世界に現れたその瞬間から、一度も新しい命なんて生み出せてないって事じゃ。」
回転椅子に乗り、くるくると回りながら天童は話を続ける。
天童「わしもお前も、一つの命。今はただ分かれて存在してるだけ。」
俺「納得がいくようでいかないな。一個体として独立した時点で新たな命って事じゃ駄目なのか?」
俺は不満げに答える。
天童「うーん、そういう考え方もある。じゃが、今回はわしの考え方に付き合え。」
正直な所、最後の質問は俺なりの嫌味みたいなものだ。
俺「分かった。つまり、お前のいう神ってのは一番最初の、ただ一つの命を創る事のできる存在ってわけだ。」
天童「その通り!」
俺(初めからそう言えよ…。)
心の声を押し殺した。
俺「なら最初の質問に戻るけど、俺はいると思う。だって命は事実としてこの世界に誕生してるんだから。もしかすると、ビッグバンか何かの拍子に偶然生まれただけかもしれないけど、その場合はビッグバンが、もしくは偶然が神って事になんのかな。」
我ながら驚く程くだらない理屈だ。こんな事を他の連中に話したなら鼻で笑われて終いだろう。だが天童は喜々として話を進める。
天童「わしも同じような考えなんじゃよ。まぁ、わしがこの答えに至るよう誘導したんじゃけけどな。」
うまくやられたもんだと思ったが、同時に面白いとも思った。だってそうだろう、ここまで無神論者のような事を散々言ってきておきながら、最後には神の存在を肯定するんだから。
俺「で、誘導してまで俺と”神”の存在を共有した理由はなんだよ。」
天童「ああ。わしな、神なんじゃ。」